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食べ物エッセイ【豆腐】

幼少期から、ほぼ毎日豆腐が食卓に上がる家だった。豆腐は父の好物だからだ。
食べ方は、夏は冷ややっこ、冬は湯豆腐と代り映えしないものだったけれども、飽きることなく食べていた。特に冬になると活躍していた電熱器で、ゆったりコトコトと揺られている湯豆腐が好きだった。
家を出て、結婚し、子供を産んだ今、私も家族に毎日のように豆腐を出すようになっている。
夫いわく、「結婚して初めて、こんなに毎日豆腐を食べるようになった」のだそうだ。「当たり前」だと思っていた習慣は、各家庭によって違うのだなぁと実感したことのひとつでもある。
とはいえ、好き嫌いの多い父と違い、私も夫も好き嫌いがほとんどないため、食べ方にはかなり変化が生じている。
キムチを乗せてゴマ油をちょろりとする日もあれば、豆腐ステーキにする日もある。
家計のこともあり、普段は一丁30円くらいの安売り豆腐を使っているが、たまにちょっと「いい豆腐」を使うと、その味の差に吃驚する。
「いい豆腐」はシンプルに生姜醤油が一番だと思っているが、塩だけで食べるのも、大豆の甘味が強く感じられて好きだ。

豆腐といえば思い出すのは、一時期一人暮らしをしていた目白のアパート近くにあった、昔ながらの豆腐屋である。
目白に住んでいた約2年、その豆腐屋はいつも気になっていたものの、当時はとにかく仕事が忙しく、家で食事をとれることもほとんどなかったため、結局、買いに行くことはなかった。
機会があれば行ってみようと思いつつ、子供が生まれてからはすっかり都内に出ることが減ってしまい、いまだに行ったことがない。

いずれ、またいずれと思っているうちに逃してしまっていることは、きっと36年しか生きていない人生の中で、他にもたくさんあるような気がする。

そんな風に目白の豆腐屋に想いをはせつつ、今日もスーパーで買った一丁30円の豆腐を食べよう。
北風が強くて寒いから、昆布出汁で湯豆腐がいい。泥ネギがたくさんあるから、ネギも一緒に入れてしまおう。きっと、身体を温めてくれて、安い豆腐かどうかなんて気にならないほどおいしく感じられるはずだ。

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