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食べ物エッセイ【チーズ】

私はかつて、チーズ嫌いだった。
ピザやグラタンなどの溶けているチーズはまだ食べられたのだが、固まりのチーズは全く受け付けず、チーズケーキも駄目、学生時代に居酒屋でサラダといえば必ずと言っていいほど注文されるシーザーサラダも食べられなかった。

それが、今では、急に思い立って六本木のフレンチレストランでフロマージュ盛り合わせを注文し、ひとり赤ワイン片手に楽しむほどにチーズが好き(何なら大好物)になったのだから、不思議である。

私がチーズを好きになったのは、24歳のころ。会社の夏休みを利用して、一人でカナダに旅行に行った時のことである。
なぜカナダにしたのか、その経緯はあまり覚えていないのだが、カナダへの一人旅はなかなか勇気のいるものだった。(その当時、女性の”おひとりさま”は今ほどメジャーでもなかった)

とにかく美味しいものをたくさん食べたかった私は、どのガイドブックにも載っているベーグル屋へ足を運んだ。
最初は焼き立てベーグルをひとつ買うだけのつもりだったのだが、先に買っていく人がみんなクリームチーズを合わせて買っていくのを見て、思い切ってクリームチーズも買ってみた。
焼き立てで、まだあったかいベーグルをむしり、クリームチーズをぐいっとつけ、口にほおばった瞬間…
「え!?クリームチーズってこんな味だったっけ!?」
と思った。
クリーミーだけどさっぱりもしていて、とにかくベーグルとの相性が良く、絶対にクリームチーズがあった方がいい!と絶賛できた。

さらに別の日、今度は市場に足を運んだ。
色とりどりのフルーツや、野菜、ハムやベーコン、美味しそうなものがたくさんある中に、チーズ屋があった。
”クリームチーズ事件”で、チーズの見方が少し変わっていた私は、思い切ってチーズ屋を覗いてみることにした。
そこでは試食もできたので、なるべくクセの少なそうなチーズの試食をお願いしてみた。
渡してもらったチーズの種類は、もう覚えていないけれども(たぶんゴーダ?)いかにもなチーズの見た目と香りに少し怖気づきつつ、口に運んだ。当時の自分にとっては、これはかなり大きな一歩だったように思う。

そしてたぶん、この時初めて、私は固まりのチーズを「美味しい」と思った。
そのチーズは、今まで自分が嫌いだと思っていたチーズの味とも、ピザなどで食べていた溶けたチーズの味とも違った。
鼻に抜けていく香りは間違いなくチーズなのだが、いい香りだと感じられた。口の中に広がるミルキーでコクのある味わいも何とも言えず、とにかく驚いたのを覚えている。

「美味しいチーズは美味しい」
私がチーズ嫌いだと知った友人が言っていた言葉が、まざまざと脳裏によみがえった。
これが、「美味しいチーズ」なのだと分かった瞬間だった。

それからは、日本に帰ってからも、デパートのチーズコーナーなどで輸入チーズを買って食べたり、レストランでチーズの盛り合わせを頼んでみたりして、どんどんチーズを食べるようになった。
今ではゴルゴンゾーラやフォンドールなど、クセのあるチーズも大好きになり、さまざまな味を楽しんでいる。
チーズの世界は広く深く、知れば知るほど味わいを増していく。

しかし白状すると、今でも6Pチーズやベビーチーズのようないわゆる「プロセスチーズ」の中には、いくつか苦手なものもある。
その話を父にしたら、父は「舌が贅沢になっただけ」と言い放った。
なるほど、そう言われてしまえば、そうなのかもしれない。

今は妊娠中でナチュラルチーズを控えているため、無事に出産を終えたら、しこたまチーズを食べたい!と画策している今日この頃だ。

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