決戦は土曜日
12月7日、土曜日。
クリスマスへの彼氏彼女ゲットを目的とした戦いが始まった。
集う戦士は6人。
まずは女性陣から紹介させて頂こう。
1、♀先輩
私(みのり)の職場の先輩だ。
年齢は万が一バレたときに怒られるのでここでは内緒にしておく。
もうすぐ31歳の私より少し上だ。
吉瀬美智子さんに似ているとたまに言われて頬を赤らめている。
経理の仕事をしており、社長ですら頭が上がらない社内最強と言われている女子だ。
また、恋多き一途な乙女である。
失恋したときの彼女のメンタルは、
一番下の段が一本しかないジェンガより脆いと言われている。
超肉食女子だが好きな食べ物はお寿司。
先日社内の若い男子に、力士より酒が強いと言われて喜んでいた。
2、♀先輩の友達
おとなしいふわっとした雰囲気の女子だ。
石田ゆり子さんに似ているとよく言われている超美人。
以後、ここでは石田さんとする。
20歳のときに結婚したが、旦那の不倫により離婚しシングルマザー。
あまりお酒はあまり飲めないことになっている。
酔ったときの可愛さはその辺りの子猫より上とwikpediaに書いてあるとかいないとか。
最近知らないうちにアザが出来ているという悩みを抱えている。
3、私(みのり)
今月(12月)31歳になるインドア系女子。
乙女になりたいといつも思ってはいるものの、
その願いは叶うことは一生ない。
流れ星ですら叶えられないとのこと。
人見知りという魔法を発動しがちだが、
お酒というアイテムを使って制御している。
長いこと彼氏がいないため、アダルトグッズを彼氏と呼んでいるとかいないとか。
友人には「家にいるときのみのりは40代のおじさんと変わらないかもしれない」と評価されているので、
恐らく近々おじさんになるものと思われる。
続いては男性陣を紹介していこう。
ちなみに三人は高校からの友達とのこと。
1、イケメン公務員
32歳、岡田将生さんにやや似ているイケメン。
以後、ここでは岡田さんとする。
優しい顔立ちと声はお酒を進ませるには十分な肴だ。
公務員ということで収入も安定しており、
また、お酒も好きということでスナイパー♀先輩の標的になるのは時間の問題だろう。
シャイな性格なのか、目を見て話すことができないらしい。
2、元気な幹事
32歳、アゴが割れていないザキヤマさんという感じ。
以後、ここではザキヤマさんとする。
不動産屋の営業をしていて、場を盛り上げるムードメーカーのような存在。
今回の男性側の幹事であり、♀先輩の飲み仲間でもある。
3、おとなしいシステム設計
32歳、髪は短いが、ピースの又吉さんに雰囲気は似ている。
以後、ここでは又吉さんとする。
工場でシステム設計をしていて、あまり言葉を発しない生き物のようだが、たまに確信をついてくるのであなどれない。
お酒がかなり弱いとのことなので、今回の戦いに耐えられるかが心配だ。
「一次会」
オシャレな居酒屋で個室。
最初の戦いはここで始まった。
壁岡ザ又 と
壁つくえ び
壁♀石私 ら
このような配置だ。
ザキヤマさんの明るい「こんばんはー!」の声で、
石田さんがビクっとしたのは、
感じたのではなくただ声の大きさに驚いただけだ。
早速お店の人がきて飲み物を頼む。
男性陣は三人ともハイボール。
♀先輩と私は生ビール(アサヒ)。
石田さんはレモンサワー。
ザキヤマさん
「♀先輩さん相変わらずビールなんすね!」
♀先輩
「最初はビールだろうよー」
この会話から戦いの火蓋が切って落とされた。
たわいもない会話や簡単な自己紹介と探り合いが始まる中、
料理を取り分けるか取り分けないかという不毛な議論が繰り返される例のやつで、
私の脳内は飲み会ラビリンスを彷徨っていた。
しかし、一番年下ということを利用して進んで取り分けることにした。
ちなみに一品目の料理が来る前に、
♀先輩と私のジョッキが空になっていたのを、
岡田さんは切ない顔で見つめていた。
開始から30分ほど経過し、みんなの話が弾んでいく。
ザキヤマさんが上手に会話を回してくれるのは救いだ。
ただ、又吉さんはすでに顔が真っ赤である。
♀先輩の5杯目のジョッキが空になる頃、私のLINEに♀先輩から
「左」
とだけ届いた。
ロックオンだ。
狙いを定めた♀先輩は、マンツーマンレベルで岡田さんと話す。
ザキヤマさんは「やっぱりか」という目をしながら、
石田さんのゆるい胸元をチラ見していたのを私は見逃さなかった。
又吉さんは既に虫の息だ。
なぜ飲んだのだろう。
ここで状況を整理しよう。
♀先輩→岡田さん
ザキヤマさん→石田さん
岡田さん→?
石田さん→?
私→SNSのネタに
又吉さん→瀕死
♀先輩が芋ロックを飲み始めた頃、
ザキヤマさんから二次会いく?の提案があった。
ノリノリのザキヤマさんと♀先輩。
石田さんはふわふわ酔っ払って私にもたれかかり、
可愛すぎかよ状態。
岡田さんの動向が気になったが、割とノリノリだ。
♀先輩、これはいけるんじゃないか。
期待度は高い。
そんな中、又吉さんは首におしぼりを当て、
遠い目をしながら水を飲んでいた。
ちなみに又吉さんに水を渡したのは、できる女、そう。私だ。
お会計の時間がやってきた。
この時間は男女ともに難しい瞬間である。
しかし、ザキヤマさんがこの難関をあっさり突破する。
なんといつの間にか支払いを終えていたのだ。
「え、あ、出しますよ」
と私は言ったが、
「大丈夫、かっこつけさせてよw」
と石田さんのほうをチラ見しながら彼は答えた。
そのとき石田さんは手鏡で歯に何かついていないか確認していた。
「二次会への移動中」
私たちは♀先輩とザキヤマさんがよく行くバーに向かう。
以下のようなフォーメーションで移動した。
岡ー♀
ザー石私
又
私は後ろを振り返りながら、
千鳥足の又吉さんがいつ離脱するんだろうかと心配していたが、
なんとか彼はパーティの最後尾を守ったまま店にたどり着くことができた。
「二次会」
まず、二次会の配置を書いておこう。
トイレ
壁石ザ又 つ
壁つくえ う
壁岡♀私 ろ
♀先輩は岡田さんを、
ザキヤマさんは石田さんをしっかり確保。
又吉さんをトイレから一番近い場所に設置し、
私はこの戦いの経過を一つも漏らすことなく同志(フォロワーさん)に伝えるべく、気を引き締めた。
二次会の話の前に、一次会での飲酒量を整理しておく。
♀先輩=生ビール6杯、芋ロック4杯
石田さん=レモンサワー3杯、赤ワイン2杯
岡田さんとザキヤマさん=ハイボール5杯(たぶん)
私=生ビール3杯、芋ロック2杯、赤ワイン2杯
又吉さん=ハイボール2杯半、水4杯
二次会は♀先輩の、
「強いの飲みたーい!」の一言から始まった。
呼応するように
ザキヤマさん「景気付けにいきますか!」
岡田さん「うぇーい!」
石田さん「テキーラ!」
瀕死とは思えない速度で又吉さんが石田さんを見たが、
私以外もう誰も気に留めていなかった。
6杯のテキーラがテーブルの上に並ぶ。
「かんぱーーーーい!」
という5人の楽しげな声と、一人の消えゆくような声が、
本当の戦いの始まりの合図だ。
♀先輩に完全ロックオンされた岡田さんだったが、
目の前の石田さんの胸元が気になる様子。
しかしお構いなしに♀先輩は岡田さんを攻撃していく。
会話は全部聞こえてはいないが、
耳元で囁いたり、ボディタッチしたり、なんなら太ももの内側に手を伸ばしていて、
男女逆だったら確実にアウトな攻めの姿勢。
狩人より狩人だ。
ヒートアップしていく♀先輩の攻撃に、
岡田さんの股間もしっかりヒートアップしていた。
ザキヤマさんも負けじと石田さんに仕掛けていく。
酔わせてしまおうと思っているのだろう、
盛り上げを装い乾杯をしてペースを上げていく。
しかしザキヤマさんは知らない。
石田さん本人はあまり飲めないと言うが、
実は彼女はなかなか潰れない女なのである。
飲みが進むにつれ、岡田さんとザキヤマさんが明らかに酔っているのがわかる。
石田さんに返り討ちにされたザキヤマさんは、
ずっと石田さんを見つめている。
石田さんも時折ザキヤマさんの目を見つめては、
ニコリと魔性の笑みを投げかけ、彼を虜にしていく。
彼は石にされたように微動だにしない。
岡田さんは揺れていた。
振り子のように。
そんな振り子さん、じゃなかった岡田さんを、
♀先輩が可愛く笑いながら揺さぶりをかける。
物理的に。
「♀先輩!それ吐いちゃいますよ!使い物にならなくなりますよ!」
私は心の中で叫びつつ記憶のメモに残す。
さて、お待ちかねの又吉さんはというと、
バーのカウンターの端で眠りについた。
そう。彼は終わったのだ。
そんな中、三次会へ向かおうと♀先輩が提案する。
私たちは又吉さんという敗残兵をタクシーに乗せ、次の戦場へ向かった。
「三次会」
フラフラの男性陣と、元気な女性陣3人は、
♀先輩行きつけの薄暗いバーに移動する。
狩場である。
狩場の配置はこうだ。
壁椅子 ザ壁
壁つくえ つ つくえ壁
壁岡♀ う 私石壁
壁壁壁壁 ろ 壁壁壁壁
♀先輩
「テキーラでいいー?」
石&私
「はーい!」
岡&ザ
「うっす・・・」
私は近づく宴の終わりを感じつつ、
一気にテキーラを飲み干し、
人数分のテキーラをおかわりした。
さすがにこの頃は私も酔っているので、
記憶が曖昧なのであしからず。
♀先輩の怒涛の攻撃に瀕死状態の岡田さん。
完全に返り討ちにあったザキヤマさん。
二人は激戦の果て、確かに善戦はしたものの、
猛者二人に敗れ去った。
私たち女性三人は余韻に浸りつつ、
あらためて乾杯をした。
その後、石田さんが眠りに落ち、
ザキヤマさんが一瞬復帰したものの、
特に山場もなく一同は帰路についた。
私は又吉さんの
「♀先輩って時代が違ったら人殺めてそうですよね」
という言葉を思い出しながら眠りについた。
おしまい