近年、観光地に出現しはじめた 「 サステナビリティ・コーディネーター 」 とは何者なのか?
持続可能な観光地づくりに取り組む観光地には「サステナビリティ・コーディネーター」という役割を担う人物が存在します。
聞き馴染みのない言葉である、「サステナビリティ・コーディネーター」。
彼らは一体、観光地でどのような役割を果たしているのか?
また、「サステナビリティ・コーディネーター」に求められる能力はどのようなものか?
近年、持続可能な観光地づくりに取り組む観光地には「配置必須」になりつつある、謎の職務について考察していきたいと思います。
「 サステナビリティ・コーディネーター 」 とは?
結論から言うと、サステナビリティ・コーディネーターとは「国際観光基準の構造・仕組みを読み解き、 観光地に当てはめて扱える人材」を指します。
簡単に言い換えると、「国際観光基準」 を自分たちの観光地に照らし合わせて 「観光地の健康診断」を行い、健康診断で未達成の項目を改善していく。といったことを行なっていくのがサステナビリティ・コーディネーターの役割です。
この「国際観光基準」は、GSTC(グローバル・サステナブル・ ツーリズム協議会)という団体によって定められています。( 詳細 https://www.gstcouncil.org/about/?lang=ja )
GSTCをわかりやすくいうと、「観光地が守るべき規則を決めて、その規則を管理する団体」です。イメージとしては、持続可能な観光業界の「ボス」ですね。
まとめると、GSTCが制定、管理している「国際観光基準」は、現場(観光地)で「コンプライアンス」のような役割を果たしており、そのコンプライアンスを理解した上で、観光地の現状を改善していくのが「サステナビリティ・コーディネーター」です。
観光地づくりに関していうと、すでに担当者がいるのでは?との疑問があがると思いますが、あくまで「国際観光基準を理解し、それを扱えるか」がサステナビリティ・コーディネーターと呼ばれるかの線引きとなります。
サステナビリティ・コーディネーターの実務について
サステナビリティ・コーディネーターは「何でも屋」です。
「これをやってください」というような、決まった業務は存在していないため、自らやるべきことを見極めて行動していく必要があります。
前例がないためですね。
ですので、サステナビリティ・コーディネーターは、やりたいことには(観光地に必要さえあれば)なんでも挑戦できる、「何でも屋」だと思っています。
わたしは現在、北海道ニセコ町のサステナビリティ・コーディネーターとして活動させていただいていますが、正直、「やらねばならないこと」と「やってみたいこと」が山積みです。
とは言うものの、サステナビリティ・コーディネーターの基本的な動きとしては下記のようなものが挙げられます。
国際観光基準に照らし合わせた、観光地の健康診断と未達部分の改善
地域の観光資産を活用した旅行商品の企画
観光事業者と地域住民の巻き込み
これらの業務を簡単に説明していきます。
1. 国際観光基準に照らし合わせた、観光地の健康診断と未達部分の改善
先ほど記載した通り、国際観光基準を扱いながら観光地の現状を把握し、改善計画をたて、モニタリングを行い、その結果を観光地として公表していくことが必要となります。行政の巻き込みが必須の作業です。
この部分に関しては、ある程度の法律や条例、計画や方針等の知識があるとスムーズに進めていくことができます。
なぜならば、観光地の現状を把握する際に「アセスメント」という自己診断作業が発生し、その作業には国や都道府県、地域における「法律や条例、計画や方針の有無」に基づき達成、未達成を判断する必要があるからです。
また、診断結果を踏まえた改善計画やモニタリング、結果の公表を行う際には、行政との連携が必須となるため、彼らと上手く渡り合えるスキルも必要となってきます。
この点に関していえば、行政経験者やある程度のキャリアを積んでいる方のほうがサステナビリティ・コーディネーターとしては有利に働きますね。
2. 地域の観光資産を活用した旅行商品の企画
GSTCの基準は「A持続可能なマネジメント」「B社会経済のサステナビリティ」「C文化的サステナビリティ」「D環境のサステナビリティ」の4つのセクションから構成されています。
その中の「B社会経済のサステナビリティ」セクションには、下記のような基準があるため、地域の資産を活用した旅行商品の企画もサステナビリティ・コーディネーターの業務に該当します。
B3 地域事業者の支援と公正な取引
B4 コミュニティの支援
地域の観光事業者さんに対する支援や、地元産の商品やサービスの利用を促進する施策を考え、地域にしっかりと還元されるようなサイクルをつくり出すこと。それをサステナブルツアーなどに落とし込み、国内外にも周知することは、サステナビリティ・コーディネーターとして非常に重要な動きかと思います。
地元が潤うことは、地域事業者のパフォーマンス最大化に直結するため、地域における観光資産の魅力が最大限に引き出されることにつながり、結果として、観光客から見ても心が動かされる魅力的な旅先になる。そして、魅力的な観光地には新たなお客さんが訪れるため、観光地としての持続可能性が保たれていくのではないでしょうか。(個人的な考察です)
3. 観光事業者と地域住民の巻き込み
持続可能な観光地づくりを地域に根付かせるには、観光事業者の巻き込みが必要不可欠です。
しかしながら現実は厳しく、行政、推進者の一人歩き状態になりがちです。
それもそのはず、観光事業者からすると意味もわからない動きに協力するメリットは何もなく、煩わしくさえ思っていることでしょう。
そこで、観光事業者さんに対して、持続可能な観光に取り組むことで何か目に見えるメリットを示すことはできないか?または、協力していただけるようなムーブを作り出すことはできないか?を考えていく必要があります。
また、地域の住民に対しても定期的に説明会を実施するなど、地域の現状や改善計画に関して、より多くの方から理解を得ることが重要となります。
サステナビリティ・コーディネーターになるには
現状日本では、先述したような業務に熟達した人材は少数であり、 全ての観光地にサステナビリティ・コーディネーターが在籍しているわけではありません。
今後、サステナビリティ・コーディネーターとして活動する上で必要となる資格としては「GSTC Professional Certificate in Sustainable Tourism」が挙げられます。
3日間に渡り、GSTC基準の読み解き方を学ぶ研修を受講した後、オンライン上のチェックテストを受験します。英語受験の場合は80%以上、日本語受験の場合は85%以上の正解率でクリアとなります。(2022年時点)
一連の研修+テストの開催は不定期ですので、興味のある方はわたしへ連絡をいただければ、お調べしてお返事させていただきます。( mia.minoriaoki@looport.co.jp )
サステナブルツーリズム、観光地づくり、観光教育、まちづくり、地域創成などに挑戦してみたい方はぜひ、「サステナビリティ・コーディネーター」としての活動も視野に入れてみてはいかがでしょうか。