星をつなぐ物語
つないで、つないで、物語「もし今日が人生最後の日だとしたら、私は今日やろうとしたことを本当にやりたいだろうか」スティーブ・ジョブズは道元禅師の弟子が書いた『随聞記』に出てくる言葉を自分のモノにして、30年間毎日、鏡に向かって唱え続けた学ぶ心、向上心の並外れた才能こそジョブズの本質だと思います。
2005年、スタンフォード大学の卒業式でのジョブズの伝説のスピーチをご存じの方は多いはず。
そこで「一見、無関係な点と点をつなぎ合わせるんだ」というくだりがあります。
アタリで働いていたスティーブ・ジョブズがヒューレット・パッカードで勤務していた友人スティーブ・ウォズニアックとAppleを創業したとき、最初から起業しょうとしたわけではなかったようです。
二人はそれぞれ会社勤務の傍ら、シリコンバレーのコンピュータマニアによる「ホームブリュー・コンピュータ・クラブ (HCC)」の会合に頻繁に参加していて、ウォズニアックは独力でマシンを作り上げます。HCCでマシンの回路図を無料公開しようとしますが、ジョブズがビジネスになると考え、ふたりはそれぞれの勤務先に製品化を提案します。しかし却下され、仕方なく起業、それがAppleです。Appleというネーミングは当時ビートルズが作ったレコードのレーベルでした。
このようにジョブズがオリジナルというより、ひとつの点をどこかにある点とつないで別のものにしていく。大切なのは単につなぎ合わせるだけでなく、いのちを吹き込んでいる点です。
いのちとはどういうことでしょう。 人は自分とは身体のことだと思っていますが、身体は37兆の細胞ネットワークでできています。つまり自分以外のモノでできています。だから自分探しと言って自分を探し回っても自分はどこにもいません。
自分は自分の生き方、在り方、生きて綴れる自分の物語、マイストーリーの中にしかありません。自分はいるかいないかではなく、あるかないかです。自分の物語はひとりでは作れません。包丁を包丁で切れないように、かならず自分以外の誰かが必要です。少なくとも身体にある37兆の細胞ネットワークとかかわらなければ物語は作れません。
いのちとはどういうことでしょう。
もし今日、心臓が止まれば、人生最後の日になります。
いのちは心臓でしょうか?物語でしょうか?
ジョブズならどう答えるでしょう。
スピーチを伝説にした最後の言葉「Stay hungry. Stay foolish.(ハングリーであれ。愚か者であれ。)」。それはジョブズが4ドルで買った「WHOLE EARTH CATALOG(全地球カタログ)」という本の最終号の裏表紙にあった言葉でした。
13歳のジョブズが出会った1968年発行の創刊号の表紙には地球が浮かんでいます。
この写真の地球、2007年にリリースされた初代iPhoneの待ち受け画面にある地球の写真に似ていると思いませんか?
ジョブズは「全地球カタログ」のことを「青春時代のグーグルだった」と言いましたが、影響を受けているのは明らか。13歳の出会いから39年、ジョブズ52歳、青春時代の夢を追いかけて実現したのは明白。
この本を作ったのはスチュアート・ブランド。発行元はサンフランシスコの非営利団体です。1年に2回の発行。ネイティブアメリカンの暮らしに通じた紙面からは、家でできる仕事、政治、医療、アウトドア、自炊、安価な生活、低炭素、ソーシャルネットワーク、個人の教育、コンピューゲーム、一般的になっていない知識などが紙面狭しと書き込まれていて、すべての紹介記事には推薦者のコメント、思想までもがついていました。
本に登場する商品を直接注文できる注文書がついていましたが通販が目的ではありません。道具として使いこなされることが本の役割で、個人の王国づくりの指南書です。ヒッピーカルチャーがベースの「全地球カタログ」から生き方のヒントとなる文化、哲学に共感。
名前の通りのカタログですが中身の濃厚さは半端ではなく、とどめが「ハングリーであれ。愚か者であれ。」シリコンバレーに哲学という背骨を作ったのが発行人だったスチュアート・ブランドです。
つまりジョブズが作りたかったのは、儲かる会社ではなく、コンピュータでもなく、文化、哲学が感じらる道具だったのです。
ジョブズがアップル復帰後に展開した「Think Different」キャンペーンには、ジョブズ自身が「クレージーな人たちが人類を前進させた」とコピーを作り、社内向けのロングバージョンでは「アップルはその人たちのために道具を作る」と書き足しています。
同じCMを使い、自身の声でナレーションを入れユーザ向けと社内向けを作り、双方に向けて、人がもっとよりよく自由になれる文化を発展させるモノづくりをするという決意を発信していたのです。
それはスティーブ・ジョブズのいのちであり、生きるということです。
つないでつないで書いた自分の物語そのものだったのです。
それはまさしく「自灯明、法灯明」です。
ただ誰かから聞いたからといって、それを信じるな。
何代も受け継がれたからといって、その伝統を信じるな。
たくさんの人の間で語られ、噂になったからといって、それを信じるな。
あなたが所属する宗教の聖典に書かれているからといって、それを信じるな。
ただ貴方の先生や先輩の権威だからといって、それを信じるな。
しかし、観察と分析を行なった上で道理に合っていて、すべての者の利益になると貴方がわかったならば、それを信じなさい。
「もし今日が人生最後の日だとしたら、私は今日やろうとしたことを本当にやりたいだろうか」スティーブ・ジョブズは道元禅師の弟子が書いた『随聞記』に出てくる言葉を自分のモノにして、30年間毎日、鏡に向かって唱え続けた学ぶ心、向上心の並外れた才能こそジョブズの本質だと思います。
14歳の時に出会った言葉「Stay hungry. Stay foolish.(ハングリーであれ。愚か者であれ。)」は、死ぬまで守られました。