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卒業論文に向けた研究進捗【職場環境改善から考える社会的孤立問題】

研究概要

【研究テーマ】
日本の若者の社会的孤立問題~職場環境改善からのアプローチ~
【問題意識】
➀国際比較から見た日本の現状
 └つながりの希薄さ、日本の死因における自殺率の高さ
②若者の孤立の深刻化
【研究目的・社会的意義】
日本の若者の社会的孤立問題の改善に寄与すること
→社会的居場所を獲得するための政策立案を目指す
【研究仮説】
労働環境に対して、社会的居場所としての機能を付与・強化させることで、若年労働者を中心とした社会的孤立問題の改善を図れるのではないか
※本研究における定義
「社会的居場所」:他者から得られる自己対象に触れることにより、自己の存在や自分らしさを確認できることで自己にまとまりを与える体験ができる場。他者との関係が存在する。
「社会的孤立」:客観的および心理的に質・量の両面において社会的なつながりが不足している状態
【仮説の設定背景】
➀職場における人間関係の量が多い一方で、質が担保されていないという現状
→職場に対する居場所感の低迷につながっている
②仕事像・職場環境に対して若者が抱く「理想」と「現状」の乖離の発生
→就職と辞職を繰り返すことや、早期離職を増加させることにつながっている
→さらに、これが労働者の非正規化と貧困化の原因となる
【卒業論文の目標】
企業組織が労働者にとっての社会的居場所になるための要素を抽出し、新しい組織の在り方を提言すること

研究進捗(4月)

【4年春の計画】

➀文献調査
・日本の若年労働者の現状
・職場環境の理想的な在り方の考察
・職場環境改善のメリットと懸念点
・現存の企業の取り組み/評価指標の考察
 └指標の要素・高評価企業の共通点を洗い出す

②インタビュー調査(長期休暇メイン)
・上記文献調査において、高評価企業で挙げられた企業へインタビュー調査を行う
└20代社員を対象とする。現場の生の声を聞き取ることで、施策の効果性を測りたい(具体的な質問項目については検討中)

【進捗状況】

➢日本の若年労働者の現状

ワーク・エンゲージメント・スコアの国際比較
└ワーク・エンゲージメントの測定には、ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度(UWES)が最も広く活用される
└Shimazu,Schaufeli,Miyanaka,&Iwata(2010)は、日本を含めた16か国のワーク・エンゲージメント・スコアを比較している
└分析結果によると、他15か国に比べて日本はワーク・エンゲージメントが低い傾向にあることが分かる

厚生労働省:令和元年版 労働経済の分析より

※その他参考となるサイト
リクルートマネジメントソリューションズ(2020)
「一般社員624名に聞く、ワーク・エンゲージメントの実態」

〇仕事に熱意がある:約4割、仕事から活力を得ている:約2割
〇心身が疲れ果てている:約4割

➢職場環境の理想の在り方の考察

➀健康的な職場文化とその効果(高橋ら,2021)
健康的な職場文化とは…
「組織と従業員、または従業員同士でのコミュニケーションにより、トップダウンによる健康保持増進の方針・施策や、従業員による積極的かつ主体的な健康保持増進を促進するシステム」を指す。
健康的な職場文化が与える効果は、「職場の健康増進、従業員の健康向上、生産性の向上」の3項目に分類される。

②ウェルビーイング経営に関するレビュー(日経BPコンサルティング,2021/保井,2021)
ウェルビーイングは、主観的ウェルビーイング(調査による包括的な自己評価によって把握されるもの)と客観的ウェルビーイング(生活の豊かさを社会的指標により測られたもの)の2つの側面がある。また、企業で最重要視されるのは「主観的ウェルビーイング」の方である。
└背景:企業活動を左右する要素(:離職率、生産性、人的資本情報開示項目など)に対して強い相関関係があること
└ウェルビーイング経営のメリット:優秀な人材の確保、生産性向上、人的資本情報開示項目とSDGs(目標3・8)に対する適応など
└従業員への効果:働きぶり、出世の機会、仕事のパフォーマンス、組織へのコミット、仕事への満足度、生産性の上昇/燃え尽き症候群の低下
└経済効果:国立社会保障・人口問題研究所(2010)によると、自殺やうつなどの日本人の心の不調による経済的損失は約2兆6782億円に上る。(…これが解消されれば、日本のGDPはこれだけで0.5%上がる推計になる)

➢職場環境改善のメリットと懸念点

〇メリット
・労働者の身体的
・精神的健康の向上
・ワーク・エンゲージメント、業務効率の向上
・人間関係の質の向上
〇懸念点
・取り組み開始のきっかけづくりの困難さ
・効果的な手法に関するリソース不足
・継続・維持の困難さ
・評価指標の煩雑さ

➢現存の企業の評価指標の考察

➀ウェルビーイング経営の実現のための評価指標(保井,2021)
PERMA(パーマ)理論(ペンシルベニア大学 マーチン・セリグマン教授)
P:ポジティブ感情 E:ワーク・エンゲージメント R:ポジティブな関係M:生きる意義や目的 A:自己実現
前野幸福4因子(慶応義塾大学大学院 前野隆司教授ら)
➀自己実現と成長 ②繋がりと感謝 ③前向きと楽観 ④独立とマイペース職場における幸せ/不幸せの7因子(パーソル総研×前野教授)
幸せ7因子:自己成長、リフレッシュ、チームワーク、他者承認、他者貢献、自己裁量、役割認識
不幸せ7因子:自己抑圧、理不尽、協働不全、不快空間、評価不満、疎外感、オーバーワーク
→これらの評価指標は、企業の取り組み調査の後、評価する際の参考事項とする

②健康経営優良法人認定制度と健康経営銘柄(経済産業省)
経済産業省では、健康長寿社会の実現に向けた取り組みの一つとして、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、健康の保持・増進につながる取組を戦略的に実践する「健康経営」を推進している。日本健康会議により、大規模法人部門と中小規模法人部門のそれぞれで「健康経営優良法人」が認定される。
また、「健康経営銘柄」は、経済産業省と東京証券取引所が共同で実施している企業の認定制度。健康経営において優れた企業を選定し、投資家にとって魅力的な企業であると紹介することを通じて健康経営の取り組みが社会的に促進されることを図っている。東京証券取引所に上場している企業から1業種につき1企業が選出されることが特徴である。

~健康経営銘柄2023選定企業(選出回数が5回以上の企業を一部抜粋)~
SCSK株式会社(情報・通信業/9回目)・TOTO株式会社(ガラス・土石製品/8回目)・東京海上ホールディングス株式会社(保険業/8回目)・リコーリース株式会社(その他金融業/7回目)・株式会社丸井グループ(小売業/6回目)・アサヒグループホールディングス株式会社(食料品/6回目)・オムロン株式会社(電気機器/5回目)・キャノン株式会社(電気機器/5回目)・日本航空株式会社(空運業/5回目)

~認定のために実施する調査項目および調査票~

※政府から認定される企業マークは複数存在し、それぞれの棲み分けは以下の通り。今回は、最もトータルバランス重視型の健康経営に焦点を当てている。

③ウェルビーイング経営達成要因の体系図(上田,2022)

【今後の方針】

・研究目標として設定する社会的居場所となる職場を、「ウェルビーイング経営が実現された職場」として定義する
・健康経営銘柄2023選定企業で取り上げた企業の具体的な取り組みをホームページや報告書等から調査し、その共通点は何かを考察する
 └上記で収集した情報を上田(2022)の体系図をもとに整理していく
・調査票の妥当性を検討する
 └取り組み内容や公式の報告と、実際の現場社員の声とを比較する

研究進捗(5月)

【企業の取り組み事例調査】

これまでの調査企業(4社)
└SCSK株式会社、TOTO株式会社、東京海上日動システムズ、リコーリース株式会社

👆各社の具体的な取り組み事例は上のnoteからチェック

●共通点
・経済産業省「健康経営銘柄2023」に選定、及び総選出回数が7回以上
・東京証券取引所 プライム市場上場企業
※東京海上日動システムズについては、親会社の「東京海上ホールディングス株式会社」が上記項目に当てはまる。ただし、情報収集の観点から、子会社の一つである東京海上日動システムズをここでは取りあげる。当社は、6年連続で「健康経営優良法人(大規模法人部門)」に認定されている。

●企業分析方法
各社HP・報告資料等を調査
→上田(2022)の「ウェルビーイング経営達成要因の体系図」に沿って、各社の取り組みを情報整理

●分析項目
⑴    ウェルビーイング経営達成要因
Ⅰハード要因(外発的動機)
1.給与
2.勤務時間
3.勤務場所
4.退職年齢
5.福利(育児、奨学金他)他

Ⅱソフト要因(内発的動機)
1.経営者の理解
2.経営者と社員間の信頼
3.会社の文化
4.権限移籍・自主性
5.心理的安全
6.社員の成長を促す
7.教育と研修(情報共有)
8.社員間での賛辞

⑵    中期的結果として
・労災事故の低下
・欠勤率の低下
・離職率の低下
・社員満足度の向上
・顧客の評判向上
・モチベーションの向上他

⑶    長期的結果として
・生産性向上
・経営の透明性向上
・企業価値向上他

➢SCSK株式会社

⑴ーⅠー
1:752万円
2:9:00~17:30 7時間30分(休憩1時間)
3:「どこでもWORK」の取り組み
  └リモートワーク:自宅やサテライトオフィスでの勤務推進
4:65歳定年(平均勤続年数18.4年、平均年齢43.6歳)
5:社会保険完備(健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労働者災害補償保険)、退職金制度、企業年金、財形貯蓄、従業員持株会、慶弔見舞金、育児休業、介護休業、ボランティア休業、フレックスタイム、在宅勤務、リ・ジョイン制度、通年カジュアルスタイル、ノー残業デー(毎週水曜)、メニュー型福利厚生制度、復職支援金(保育料補助)、同好会活動、独身寮、リラクゼーションルーム、社内診療所、カウンセリングルームなど
福利厚生|SCSK Recruit (scsk.jp)

⑴ーⅡー
1:
2:MBO(組織視点)とCDP制度(個人視点)を両輪としたWinWinのキャリア形成。
3:事業活動を支えるのは「人」であり、社員一人ひとりが健康であり続けることが経営上の最重要事項であるとする。
4:人材公募制度・社内FA制度
5:健康相談室、SCSKクリニック等の心身の健康サポート体制の完備。
6:副表・兼業制度、学び手当(毎月5000円の学び支援)、コツ活(業務時間外の自己研鑽活動に対して、学びの機会として図書カードを提供する)、専門性認定制度(専門家として市場で通用する技術かを見極め、各職種の専門能力と知識を7段階のレベルで認定)、5つのカテゴリー全200種以上の研修プログラムを提供。
7:
8:
2,4,6,7に関する参照)
人事・研修制度|制度・福利厚生を知る|SCSK株式会社 CareerRecruiting


・行動習慣の向上
・健康経営の理念実感度の向上
・健康とパフォーマンスの関係実感度の向上
・ワークエンゲージメントの向上
・プレゼンティーイズムの低下
※アブセンティーイズムは増加(2018と2022の比較のため、コロナウイルスの影響が大きいと推測される)

➢TOTO株式会社

⑴ーⅠー
1:710万円
2:8:30~17:10 7時間50分(休憩50分)
3:リモートワークの推進:在宅勤務制度の対象者の大幅拡充。会議のオンライン化の徹底。
4:65歳定年(平均勤続年数17.3年、平均年齢43.8歳)
5:育児・介護との両立支援制度(育児&介護休業/育児&介護短時間・フレックス勤務/パパママ休暇)/多様な働き方の支援制度(時間休暇/半日休暇/ボランティア休暇/リフレッシュ休暇/フレックスタイム制/在宅勤務制度/配偶者の海外転勤に伴う休暇制度)、社宅制度、退職金制度、持株会、保養所など

⑴ーⅡー
1:
2:
3:一人ひとりの個性を尊重し、いきいきとした職場を実現する。
4:「健康ポータルサイト」の導入:自身の健康診断結果の閲覧、各人の健康状況に応じた記事や重症化予防通知、健保からのお知らせ等の発信と会社や健保の施策・イベントとの連動など。社員自身が、健康の維持・改善のためのサイクルを自ら回せることを目標とする。
5:ヘルスケアセンターのしくみで、フィジカルとメンタルの両面から健康な職場づくりをサポート
6:eラーニングの充実:30教材(109単元)を揃え、基礎的な技術知識や手法を中心にピンポイント学習を可能としている。その他、演習主体の研修、実践活動とOJTを支援する仕組み等
7:メンタルヘルス研修の実施。
8:


・喫煙率の低下
・定期健康診断受診率100%
・離職率の低下
・社員満足度の向上

●2社分析から考えられること
・社員の主体性個人を尊重したキャリア形成、柔軟な働き方を実現するための仕組みが構築されている。
→仕組みの導入だけでなく、社員への浸透率も高いことが会社の評価に繋がっている。

【今後の課題】

・上記項目の「ソフト要因」および「長期的結果」の評価方法を検討する。
└ソフト要因については社員訪問が一手段。客観的にみるためにはどうするべきか?

【6月の予定】

・6月2W~3W:調査対象企業に株式会社丸井グループ、アサヒグループホールディングス株式会社も追加する(健康経営銘柄6回選出)、体系図を用いた分析を進める。
・6月4W:共通点の洗い出し、情報が不足している点についての追加調査の実施。

研究進捗(6月)

【ウェルビーイング経営とは?語義の確認と本研究上の定義】

本研究で目指す「職場環境改善」を明確にするために、
ウェルビーイング経営および健康経営の相違点と類似点を整理した。
その上で、本研究のゴールを「ウェルビーイング経営の達成」とする。

ウェルビーイング経営とは?
「社員の身体的、精神的、社会的健康などの推進を通した幸福感 の醸成を企業の重要な経営課題と捉えると同時に、収益性向上に も結び付け、統合的に捉えようとする経営手法」

上田(2023)

健康経営との比較は以下の通り。
★相違点:取り組みによる到達目標
 W…社員の職場/人生での「良好な状態」「満たされた状態」 (=社員視点)
 健…社員の健康を通して、将来的に企業の収益性を高めること (=会社視点)
★類似点:社員の身体的・心理的健康に配慮する点
     結果的に持続的な会社経営に繋がる点
※ここでは、ウェルビーイング経営と健康経営は同義として扱う

【企業の取り組み事例調査】

5月に事例調査を行った4社に加え、
株式会社丸井グループ
アサヒグループホールディングス株式会社
の2社についても追加調査を行った

★各社の取り組みの詳細まとめは以下のnoteにて掲載👇

また、SCSK株式会社とTOTO株式会社について実施した企業分析と同様の分析を、残り4社についても実施。(上記noteに掲載)

ここで改めて、6社の取り組み事例からみられる特徴を下にまとめておく。(前期期末発表資料より抜粋)

現状の進捗としては、主にハード要因とソフト要因の一部の分析にとどまるが、ここまでで6社の共通点として見えたこととして次が挙げられる。

  • 選出企業の共通点として 
    ★社員の主体性 
    ★個人を尊重したキャリア形成
    ★柔軟な働き方
    を実現するための仕組みが整備されていることが挙げられる

  • かつ、仕組みの導入だけでなく、社員の認知度・浸透度が高いことが会社の評価に繋がっている

  • 加えて、前提として一定水準以上の給与と福利厚生が整っている

  • 一方で、「体の健康面」に焦点を当てた施策が多く、心の健康面については十分とは言えない

【今後の課題】

  • インターネット上のホームページ等で収集できる情報は、主にハード面で限度がある。ソフト面や中・長期的な結果についての情報を補足するため、別の手段を考える必要がある。
    └現時点の予定…社員訪問、人事部との面談:質問項目等の整理

  • 収集したソフト面の情報を客観的に評価するための方法を検討する

  • ウェルビーイング経営達成に欠かせない「心の健康」を満たすための 方法を検討する

=9月追記分=
研究方針のポイント…独自性を生み出すこと。
これまでは大企業のみに焦点を当て研究を行ってきたが、中小企業も対象にする。特にヒアリングに関しては、量より質を重視。中小企業を対象とた場合は、役員級へのアポ取りにトライする。
(目標総数:4社10名?※一般社員も含む)

Cf. ルビーイン株式会社;ウェルビーイング全体を事業としている会社。社員数4,5名の小企業であり、社内外でウェルビーイングを重視している。
知人の経由で社長にもヒアリング可能。


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