読まれるリード文には、パターンがある
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった
川端康成著『雪国』の冒頭。あまりに有名な一節である。印象的な書き出しは読者の目だけでなく、心をも引きつけて離さない。
逆にいえば、導入でつまづいてしまった文章は、その後も頭に入ってこない。たとえそれが内容的に良い記事であっても、読み進めていくのは困難だ。
先日書いた記事で、こんな感想をいただいた。
これは自分でも意識していたことなので、かなり嬉しかった。
ライター・編集者界隈では、タイトルの重要性が叫ばれることが多い。もちろんタイトルはかなり大切だが、リード(導入)文がダメな記事は、読み進めても頭に残らない。その意味で僕はリード文こそ、ライターの力が如実に現れる箇所だと思っている。
しばらく研究していると、良いリード文にはいくつかのパターンがあることに気付いた。今回はいくつかの記事をピックアップして、そのパターンを紹介していく。
作品の引用
“ コンクリート・ロード どこまでも
森を伐り 谷を埋め
西東京(ウエストトーキョー)多摩の丘(マウントタマ)
故郷は コンクリート・ロード ”
映画『耳をすませば』の中で、主人公の月島雫が『カントリーロード』の替え歌をつくっていた。そこで皮肉交じりに歌われるのは、かつて山だった場所を切り開いてできた多摩の街並みだ。
引用:大学生だった私。“耳をすませば”の街「聖蹟桜ヶ丘」で感じた自己責任の生き方
有名な作品から、一部引用して紹介するパターン。ちょうどこの記事の冒頭がそうである。
時を越えて使われてきたフレーズはやはり強力だ。壮大な意味を持つものが多いし、その意味が曖昧であったとしても、絶妙なリズム感で引き込まれてしまう。
これは、読書量が反映されやすい書き出しなので、簡単そうに見えて割と難しかったりする。
▼ほか参照
台詞
バカじゃないのって僕は思った
その日、2014年4月7日は月曜日で、僕はいつものように会社に行こうと神楽坂を歩いていた。
坂上の交差点から神楽坂を登れば、道はなだらかに伸びていて、六丁目の角でゆるやかに曲がっている。
引用:―本屋は世界に必要ないのか― 出版の街「神楽坂」で校閲として考えたこと
冒頭に台詞を持ってくるパターン。取材中に出た印象的な言葉や、強い感情表現を用いることが多い。
とりわけ、当記事が素晴らしいのは、この強烈な台詞を記事内で繰り返し使っているところだ。
僕の呼吸は浅くなり、吐いてばかりで、息を吸うのを忘れている。
座っていられない、だけど立ってもいられない。
「どういうことだ? どういうことなんだ!」
だから僕は思った。
バカじゃないのって僕は思った。
「お前は、結論の決まった未来を、薄く細く延ばしているんじゃないのか?」
「お前は、ずっと売れないものをつくってきたのか?」
「お前は、自分の会社に入った希望に満ちた新卒に、この仕事が15年後にも存在すると言えるのか?」
お前というのは僕のことだ。
バカじゃないのって僕は思った。
「バカ」の対象が何なのか。それが読み進めているうちに明らかになってくる。導入で仕掛けた伏線を回収する鮮やかな文章芸だ。こんな上手い文章はそうそうない。
▼ほか参照
・「ワイン界の神様」を唸らせた女性醸造家 斎藤まゆ。ガレージで歌い踊る、その理由。
・カギは「社員を信じられるか」 CINRAのフリー出社制度に学ぶ、自由な働き方実現のヒント
・なぜ「子どもを育ててこそ一人前」という思い込みに縛られるのか?
問いかけ・疑問
子どものころ、安心できる時間はどんなときでしたか?
友達と一緒に遊んでいるとき、家族と一緒にごはんを食べる時間、一人で本を読んでいるとき。さまざまな情景が目に浮かぶのではないでしょうか。
だけど、もしそんな安心できる時間や場所を突然失ってしまったら…。
引用:震災を経験した子どもたちが、安心して夢を描けるように。カタリバが熊本の仮設住宅で運営する放課後学校「ましき夢創塾」
読者に問いかけ、引きつけるパターン。人は疑問を投げかけられると、ついつい考えてしまう。それが自分に向けられたものであれば、なおさらだ。
ここ最近は「こんにちは、ライターの●●です。」から始まる記事も多いが、その下に続くのは「突然ですが、みなさんは●●ってご存じですか?」という表現だ。
とても使い勝手が良いので、使いすぎに注意が必要な書き出しである。
▼ほか参照
・地元にいつか帰りたいですか? 「小田原」、そこは東京から一番近い田舎町
概要
小学校の授業に一風変わった教育手法を持ちこみ、子どもたちのモチベーションを上げまくっている先生がいる。東京学芸大学附属世田谷小学校の沼田晶弘先生の授業風景は、まるで司会者とひな壇芸人のようだ。
「皆さんがイメージしている普通の授業が国会答弁みたいな感じだとすると、僕の授業はそういう決まった形がありません」
沼田先生が問いかけると、子どもたちはどんどん話す。そこにツッコミを入れつつ、話を広げたり、ほかの子に振ったり、最後に先生がオチを持っていこうとすると、また子どもたちが取り返す。
引用:この小学校先生がすごい! 子どもたちのやる気を引き出す数々の仕掛けとは
記事の概要や、記事内で取り上げる人・物を紹介するパターン。SEOにも効果的な書き方なので、検索を取りたい場合などにも使える。
この記事ではリード文で台詞の引用もあり、授業風景が巧みに描かれている。内容的にも素晴らしい記事なので、これもぜひご一読いただきたい。
▼ほか参照
・【BRAND NOTE】「植物のある暮らし」を始めたい。でも一体、何からすればいいの?
・世の中に必要とされたいあなたへ――松浦弥太郎が考える「愛される人間」のきほん
調査結果・数値資料
「自分はダメな人間だと思うことがある」
国立青少年教育振興機構の「高校生の生活と意識に関する調査報告書」によると、そう答えた日本の高校生は72.5%。これは日本・アメリカ・中国・韓国の4カ国中、最も高い数値であった。
引用:どうやったら自分らしく生きられる? 個別指導塾Withdomが考える自己肯定感を高める方法
調査結果や数値を持ってくるのもテッパンだ。専門機関が出す情報や具体的な数値はやはりインパクトがある。
1700。
これは日本に存在する●●の数である。
のような形式で使うと、なんか良い感じに見える。
▼ほか参照
・【熊本震災支援イベント】黒川温泉に100人集めて「お金を落として」「情報発信しよう」
以上、5パターンを紹介してきた。
良いリード文に共通するのは、短さだ。ダラダラと長い文章が最初に目に入ってくると、読むのがしんどくなる。結果、文章を読むリズム感が狂ってしまい、読まれなくなってしまう。
これを徹底しているのが、古賀史健さんのnoteである。
書き出しは決まって一行しか書かない。その一行から派生していくように次の段落に移っていく。実にきれいな文章構成だ。
とはいえ、上に挙げたことを真似して、全ての記事が問いかけで始まっていたりすると、メディアとしての見栄えは良くない。やりすぎはマンネリ化も招く。
また、ここには5つのパターンしか挙げていないが、ほかにもさまざまな種類がある。大事なのはこうした基本の型を踏まえつつ、適宜応用していくことだ。普段から注意深くリード文を読んで、バリエーションを増やしていくと良いだろう。
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