私は最近、下着を外に干している。

あなたは高梨沙羅さんをご存知だろうか。

スキージャンプの日本女子選手であり23歳のうら若き乙女である。

私は彼女と同い年である。最近自分がうら若いとは思えなくなってきたが、高校生の頃テレビに映る彼女を見て素朴で素敵な選手だなと思ったものである。

今も彼女は変わらず可愛らしい笑みと美しい姿で私の同年代の憧れの一人であるのだが、つい最近SNSで彼女のバッシングに対する記事を見つけてしまった。

整形疑惑、彼女の化粧、スポーツカーの購入、理想の男性のタイプ、などである

それに対し様々なスポーツ選手が彼女の何がいけないのかと抗議をしているツイートが相当数の反響を呼んでいる。

真偽の程は本人にしかわからないが、仮に全てが事実だったとして、化粧をして、整形をして、スポーツカーを買って、背の高い男性を求めて、一体全体何が悪いのだ。

彼女のジャンプに対する努力と情熱と今まで出してきた数々の結果を一体なんだと思っているのだ。

人並みの努力と怠惰さを兼ね備えたこの平凡な私ですら毎日化粧をするし、整形もしてみたいし、買いたい車はあるし、自分より背の高い男性と結婚したいと思う時もある。が、自分の親にすらそれらを咎められたことは1度もない。

スポーツカーに乗る男性スポーツ選手は世の中に腐るほどいるだろう。彼らはきっと仕立てのいい高いスーツを着て、髪も一流の美容師に切ってもらって、スタイルも気立てもいい美人の嫁が欲しいと言っているはずだ。

それを咎めている人を私は今まで見たことがない。

これらは性別による違いからくるものなのだろうか?それとも職種?彼女の人間性?

馬鹿な私には何もわからない。特にわかりたいとも思わない。きっとこれからも私は分からないだろう。そして彼女を昔と変わらず応援するだろう。

ところ変わって、彼女の多大なる功績とは比較と言うのもおこがましい私の最近の話をしよう。あなたはさして私には興味が無いだろうが、残念ながらあなたはまだこの記事を読んでいる。大変申し訳ないが、あともう少し付き合ってもらおうと思う。

唐突だが、最近私は下着をベランダに干し始めた。

私の部屋は1階だ。表通りには面していないが、盗ろうと思えば盗れるかもしれない。隣との境も特にないので、私もやろうと思えば隣人の洗濯物を盗めるだろう。おじさんのヨレヨレの下着になんの感情も抱いたことは無いし、私にも倫理観というものは存在するので、他人のものを盗もうだなどということは絶対にしない。

何故だかあなたには分かるだろうか?

そうである。犯罪だからである。

人のものを盗むのは犯罪だ。してはいけない事なのだ。私はこれを自分の自我を持つ前から周りの大人に教えられた。自分のものを他人に盗られたくないのに、他人のものを盗ってはいけない。何故なら他人からして私も他人だからだ。

しかし私が一人暮らしを始めるにあたって、周りの大人たちからこう言われた。

下着は部屋に干しなさい。

特に何度も念を押し、これを伝えてきたのは私の母だった。彼女は若い頃一人暮らしをしていて、何着か下着を盗られたらしい。その数日後、隣の部屋に同じ下着たちが男物の服と一緒に干されていたそうだ。

気の弱かった彼女は問い詰めることも出来ず引っ越した。引越し当日にすれ違った隣人の笑みが忘れられないという。

なんとも可哀想な話だ。と思い、私はしばらくは母の言うことを聞いて下着を室内に干していた。

だが、私は気付いてしまった。

そんなの知ったこっちゃないのである。

部屋に干した洗濯物の乾かなさにストレスの限界を感じた私はついに外に下着を干すことに決めた。だって彼らは犯罪者なのである。何を気にしてやることがあるだろうか。私は何も悪くないのである。何故なら私のアパートの住人である男性たちはみーんな外にパンツを干している。

私と彼らの何が違うのだろう?私が男ならば気にせずに居られたのだろうか?

このボロアパートを決める前、親にも親戚にも友達にも、1階はやめろ、オートロックを探せ、治安の悪いところには住むなと言われた。

物の見事に全てを無視して私は物件を探した。

なぜなら知ったこっちゃないのである。

なぜ私が犯罪をおかされないように配慮しなければならないのだ。私はただの夢を追う貧乏人なのである。四の五の言ってると部屋など見つからないのである。

家族も友達も心配してくれたが、アメリカで普通に銃殺が起きる地域で、英語もろくに話せないくせに一人暮らしをしていた私である。気になどしていない。

あの頃もそうだったが、殺されるぐらいなら殺してやるぐらいの気持ちで生きている。別に誰かを殺したいと思ったこともないし、出来れば一生そうならないようにと祈っているが、自分を守って何が悪い。

下着泥棒は警察に突き出すし、もし襲われたなら噛み切ってやると常々思っている。何故なら私は被害者で、奴らは犯罪者なのだ。なぜ私が気を使って私の生活の幅を狭めなければならないのか。

私は特に女性の権利を主張する気は無い。人間としての権利を主張しているだけである。

お金が溜まったら護身術でも習いに行きたい。だが、何故全てのことに金がいるのか、なぜ金を払ってまで自衛をしなければならない世の中なのかと自問自答する日々である。

いいなと思ったら応援しよう!