さまざまな行政手続きを経た私たちが思うこと ~もっと便利になる方法って?
「やらないといけない手続きなのに、どうしたらいいの?」
最近増えているオンラインサービスの利用時に、こうした疑問や不安、不満を感じたことはないでしょうか。
実際のオンラインサービスに触れるなかで、戸惑った経験をお持ちの方は多いように感じています。みんなに必要なサービスだからこそ、そこにはさまざまな課題が見え隠れしているはずです。
「いま見えている課題は何か?」、「未来に向けて取り組むべきことは何なのか?」
これからの公共サービスのデザインを実践するにあたって、私たち富士通デザインセンターのメンバーが、エンジニアやゲストとともにホンネで課題と向き合い、ディスカッションしていきます。
引っ越しの手続きは“証明書ツアー” 縦割り行政によって起きる課題
引っ越し・結婚・出産・離婚・介護・税務申告・法人設立――。
人生の様々なタイミングで発生する申請・手続きには色々なものがあります。こうした手続きを経験するなかで、一般ユーザーはどのようなことを感じているのでしょうか。そこには、公共サービスの未来を考える上でのヒントがあるはずです。
今回は、申請・手続きの際の課題について、経験者たちのリアルな声をリサーチしました。
Aさん 私はこれまで何度か引っ越しをしているのですが、転入出の際の手続きって大変じゃないですか。区役所で住民票の書き換えをし、警察署に行って運転免許証の住所変更をして、子どもがいたら保育園や学校の手続きもしないといけない。その都度、証明書を発行してもらったり、管轄機関を廻るので、このときの手続きを私は“証明書ツアー”と呼んでいます。
Bさん 一箇所で済ませられたらいいけど、建物や場所がそれぞれ異なっていて大変ですよね。
私は会社勤めをしながら、個人で仕事を請け負うために法人を設立したのですが、会社登記の際は税務署、役所、法務局など、あちこち回ってこんなにも大変なのかと痛感しました。
しかもそれぞれ場所が微妙に離れているんです。
Cさん コンビニでも住民票などの公的証明書の取得ができるようになって便利になったけど、それでも色んなところを廻らないといけないので時間を取られますよね。
Aさん それぞれ管轄が違うので仕方のないことだとは思いますが、もう少し地域内や行政内の情報の連続性があったらよりスムーズに手続きが進み、生活しやすくなるんじゃないかなと思います。
ただでさえ複雑な手続き オンラインサービスに求められるのは全体像の見える化?
Bさん 法人登記だと、例えば行く順番を間違えると、また別の場所に行き直さないといけなかったりします。
私の場合、会社登記に関する民間サービスを活用し、そこに添付されていた全体マニュアルが随分参考になったのですが、自治体によって微妙な違いもあるし、そもそも手続き全体の流れが分かりにくいところはありますよね。
Aさん 行政のホームページをみるとずらっと文字で詳細が書かれていたり、直接役所に行けば窓口の方が順番を指示してくれるので分かりやすいですが、オンライン上の手続きとなると全体像がなかなか見えてこなくて、混乱してしまうと思います。手続きの流れがフローチャート化されているだけでも、分かりやすくなるのではないかと感じます。
Cさん 私は、離れて暮らす親の介護保険の申請に直面したことがあるのですが、その際に各自治体の繋がりや手続きの流れの全体像が見えてこず、戸惑いました。行政からすれば、こちらから言いさえすればなんとかしてくれるのでしょうが、申請者としては一体どのタイミングで何をすればいいのか、もっと効率の良いやり方があるんじゃないかと不安になりました。もう少し透明性と前捌き的な感じがあると、スムーズに行くような気がしています。
Aさん 全体像が良く分からないから、経験者の書いたブログや、SNSの口コミを参考にすることはよくあります。申請や手続きをよりスムーズに進めるには、自分で情報を探しに行かないといけない現状はあると思います。
行政サービスのデジタル化促進には伝え方も重要?
Bさん 手続きや申請の際って、書類に何度も名前と住所を書きますよね。実はけっこう手間がかかる作業ですし、何枚も書かなくて済むようにならないのでしょうか。
究極なことをいえば、全国どこに行っても名前と住所は書かなくていいとなったら、作業効率、生産性も上がって、イノベーションだと思うんです。
Cさん 実際にどのくらいの効率が上がるか計算して、数字を目の当たりにしたらインパクトはありそうです。書類の半分が名前と住所の欄だということを踏まえると、事務処理の半分はそこにとられているわけだから、すごく効率が上がると思います。
Aさん その手間を省くための方法のひとつがマイナンバーカードだと思うのですが、なかなか普及が進んでいませんよね。私もマイナンバーカードを持っていて、引っ越しの際に利用しようとしましたが、SNSで「行政の人がマイナンバーカードの操作に慣れていなくて、窓口で時間かかった」という口コミを見て、結局紙ベースで手続きをしました。
Bさん マイナンバーカードを取得したのはいいけど、使う実感がなかったり、マイナス面が聞こえてきたりして、普及にはまだまだ課題があると感じます。国は普及のためにマイナポイント事業を行っていて、たしかにそれは一定の効果はあるかもしれない。でも、ばら撒かなくても普及が進む方法ってあるんじゃないでしょうか。
Aさん たしかに、これからはどんな書類でも、マイナンバーカードを使えば名前と住所を書かなくて良くなるんです!って、強調されたら、すごく便利だなって私は思います。
Bさん そもそも、民間のサービスには一度作成したアカウントに、個人情報が紐づいているものもありますし、技術的には不可能ではないと思うんです。
デジタル化というと、全ての書類が電子化されていることを理想にして、ついそれを求めてしまうかもしれませんが、できるところからやっていく形でも良いと思うんです。それよりも、規模のほうが大事なんじゃないかな。いち市町村だけで進めるんじゃなくて、些細なことでも全国一気にやるっていう考え方をした方が広がっていくのではないかと感じます。
Cさん 名前と住所を書かなくても良くなるって、些細なことかもしれないけれど、いざ体験したら、この作業がないだけで楽になったと気が付く人も多いと思います。体験してみないと気が付かない人もいると思うし、デジタル化を進めていくなかでは、そういった人にも届く伝え方を考えていく必要もあると思います。
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次回以降も座談会形式で色々な視点から、公共サービスに向けた「気づいている課題や思い」を本音トークで発信していきます。