競馬の払戻金にかかる税金について
先日、お笑いタレント「インスタントジョンソン」の「じゃい」さんに税務調査が入り、競馬にかかわる所得について巨額の追徴課税が課せられたというニュースが話題になりました。
「じゃい」さんは馬券が的中し、6,400万円もの高額な払戻金を受け取りました。「雑所得」として確定申告をしていたのですが、税務調査が入り、高額の追徴課税が課されることとなったようです。税務署は「一時所得」に該当すると判断したものと思われます。
今回はこのニュースについて解説します。
競馬の払戻金は「一時所得」として税金がかかる
宝くじやスポーツくじの当選金には税金はかからないのに対して、競馬、競輪、オートレース、ボートレースの払戻金には税金がかかります。
所得税法上、所得は10種類に区分され、その区分によって所得税の計算方法が異なります。競馬等の払戻金は、原則として「一時所得」に該当します。
払戻金に係る一時所得の金額の計算方法は次のとおりです。
① 払戻金に係る年間受取額を計算する
② 払戻金に係る年間投票額を計算する
③ ①-②-50万円した金額を計算する
④ ③×1/2した金額を計算する
つまり、他に一時所得がない場合には、払戻金に係る年間受取額から払戻金に係る年間投票額を差し引いた金額が50万円以下である場合は、一時所得の特別控除最大50万円を受けることにより、課税される所得はゼロということになります。
この一時所得の特別控除があることにより、競馬をする人はみんながみんな確定申告が必要ということにはならないのです。必要経費は限定的であるとはいっても、④の計算式により、実際に課税される金額は「1/2」となります。昔は三連単、WIN5などの巨額の払戻金がでるような馬券もありませんでした。税法なりに一定の配慮をしているのです。
この一時所得の計算方法に重要なポイントがあります。
それは、払戻金から差し引くことができるものは『払戻金に係る投票額」に限られるということです。
例えば、1万円の馬連を10点購入し、そのうち1点が的中、オッズが100倍でで100万円の払戻しを受けたとします。この場合、払戻金の受取額は100万円で、そこから差し引く投票額は1万円となります。10点購入しているので、10万円使っているはずなのですが、「払戻金に係る投票額」は1万円なので、それだけしか差し引くことができません。
つまり、外れ馬券の購入代は差し引くことができないのです。
さらに、他のレースはほとんど当たらず、実際には100万円以上使っていたとしても、それらはまったく考慮されません。
そのため、競馬で収支がマイナスだったとしても、確定申告をして税金を支払わなければならない、ということが起こります。
「雑所得」なら外れ馬券の購入代を差し引くことができるのだが・・・
これに対して「雑所得」という区分になれば、必要経費の範囲の考え方が変わり、収入を得るために使ったものは経費に含めることができます。先ほどの馬連を1万円×10点購入したケースでは、少なくとも10万円を経費にすることができそうです。
詳しいことはわかりませんが、「じゃい」さんはこちらの計算方法で確定申告をしていたようです。
しかし、この競馬の払戻金が「雑所得」となるケースはかなり限定的なのです。
国税庁の通達では次のようなケースでは「雑所得」となり、外れ馬券を経費にすることができることとされています。
馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して定めた独自の条件設定と計算式に基づき、又は予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って、偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入するなど、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら多数の馬券を購入し続けることにより、年間を通じての収支で多額の利益を上げ、これらの事実により、回収率が馬券の当該購入行為の期間総体として100%を超えるように馬券を購入し続けてきたことが客観的に明らかな場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する。
少し難しいのですが、ポイントは次のとおりです。
①回収率が100%を超えるようにソフトウェア等を使って偶然性の影響を減殺し、工夫していること
②ほぼ全レースを購入するなど、機械的に購入し続けていること
ここまでやるともはや娯楽で一時的に儲けたというよりは、営利に近い行為なので所得区分上も「雑所得」としましょう、ということです。
なので、普通の人が馬券を買って、たまたま高額の払戻金を受けたような場合にはまず該当しません。
また、この通達は最高裁判決を踏まえて改正されたものなので、現在のところは最終のものです。
「じゃい」さんは、その後、国税不服審判所に不服申し立てを請求すると公表していますが、おそらく結論が変わることはないでしょう。
何か腑に落ちないのは「担税力」が考慮されていないから?
このような課税に違和感を感じる人も多いでしょう。
なぜなのか考えてみました。
税金を課税するための考え方に「担税力」というものがあります。
担税力とは、税金を負担する能力に応じて課税するという考え方です。所得が多い人、資産が多い人により多くの税金が課せられるのは担税力があるからなのです。逆に所得が少ない人、資産が少ない人に多くの税金を課すと、その人は生活が維持できなくなってしまいます。だから、この担税力という考え方はとても大切です。
ここからは私見です。違っていたらごめんなさい。
高額の払戻金を一時に受け取ったのであれば、その時点では手元に現金はあるはずなので、そういう意味では担税力はあるとも言えます。しかし、一時所得の計算方法ではそうではないケースで税金が生じることもあります。
競馬は一日何レースもありますし、宝くじなどよりは当たりやすいため、払戻金を得るために毎レース複数点数の馬券を購入するのが通常です。多くの人は勝った負けたは1レース、一日や一定期間のトータルの成績で考えます。トリガミと言って、馬券が当たっても損をするようなケースもよくあります。1レース、1日、一定期間などの単位で見ると必ずしも担税力があるとは言えないようにも思えます。
ギャンブルとしての性質、参加するときの考え方や現実の収支などと課税所得の計算方法が合致していないことがあるので、納得感がないということではないでしょうか。それに、実際のところ、課税される一時所得が生じている人のうち、どれくらいの割合の人がきちんと確定申告しているのかもわからない。
公平に課税されるような制度にして欲しい
不正の排除と正確な収支計算を前提として、「一年間の収支を計算してプラスの場合は税金がかかる」というようにすれば、特別控除がなかったとしても多くの人は受け入れるのではないでしょうか。
「不正の排除と正確な収支計算」が難しいのであれば、いっそのこと控除率を引き下げて非課税にすることも一つでしょう。データがないのでわかりませんが、競馬の払戻金にかかわる税収なんてそれほど多くないのではないように思います。販売額からすると微々たるものだとすれば、ほんのわずかに控除率を引き下げるだけで税収と同じ額を確保できるかもしれません。
税金において公平感や納得感は重要なこと。より公平に課税されるような制度にして欲しいですね。
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