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コーチング 内藤響|「お母さん」みたいな存在になりたい!日本語教師からコーチへ【職業図鑑No.012】
複雑化する現代、心の在り方が問われる時代になってきました。選択肢が多い分、目指すべき道の選び方に迷うことも多いように感じます。
今回は、コーチとして人々の心を解く内藤 響さんに、「コーチングとは何か」「日本のコーチング普及」についてお伺いしました!
コーチングを始めたきっかけや大切なこと、内藤さんがじっくり答えてくださいました。
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【自己紹介動画】
心からの「ありがとう」がほしい
―― そもそもなんですけど、コーチングってどのようなお仕事なのでしょうか?
言葉で表すのは難しいのですが、質問を通してその人の価値観を深掘りし、目標達成までの道のりを明確にしていく仕事です。
―― コーチって聞くと、何かを教えるイメージがあるのですが違うんですね。
そうですね。悩みや目標に対して答えを用意するティーチングやコンサルティングとは異なり、コーチングはその人が心の奥に持っている考えをその人本人に気付いてもらうのが目的です。
ですから、コーチ自身が何かを教えることはなく、話を傾聴し質問して目標を達成するサポートをしています。
―― なるほど。日本ではまだコーチングって聞きなれないかと思うのですが、内藤さんがコーチを目指したきっかけはどこにあったのでしょうか?
僕はもともと、留学生に日本語を教える日本語学校の教員をしていました。留学生のなかには、日本のアニメが好きで留学してきた人も多くいました。好きなものに対するひたむきな努力に心をうたれ、日本語教師の仕事にやりがいを感じていた部分もあります。
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しかしコロナ禍でオンライン授業に切り替わり、学生たちの様子が直接見られなくなって、自分が役に立っているのかが分からなくなってしまいました。それが、転職のきっかけでしたね。
―― 教員とコーチは似ているものがあったのでしょうか?
実は、日本語教師をやっていたときからティーチングの限界を感じていました。学生本人にやる気がないと、教師がどれだけ介入してもうまくいきません。一方的に何かを教えるのは限界があるなと……。
―― そこからコーチングへとつながったんですか?
留学生には年上が多かったので、学校教育以外のことも学ぼうとマネジメントについて学んでいました。そのなかでたまたまスポーツコーチングの本を読んで、コーチングに興味を持ったんです。
そこから実際にコーチングを受けたり、コーチングの場に同席させてもらったりして、心からの「ありがとう」がもらえるコーチングの仕事をしようと決めました。
―― 心からの「ありがとう」ですか。
挨拶のように交わされる「ありがとう」ではなく、本当にしてほしかったことをサポートしてもらえたときの「ありがとう」ですね。
コーチングなら、その「ありがとう」がもらえるのではないかと考えました。
―― 実際にお仕事をされて、そういった場面はありますか?
一番印象に残っているのは、初めてコーチングをした方ですね。その方は自分の夢について悩んでいました。
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ビジネスの世界には、それこそ「世界で活躍したい」といった大きな夢をもっておられる方が多くいます。そのためその方は、周囲の夢に合わせて本望ではない夢を語っていたそうです。
でも僕のコーチングを受けて、「大きな夢でなくてもいいんだ」「自分が本当にしたいことがわかった」とイメージが固まったようでした。そういったサポートができて、「ありがとう」と言われることにやりがいを感じています。
日本ではまだまだ一般的でないコーチング
―― 日本ではまだまだコーチングが普及していないように思いますが、やはり欧米ではより一般的なものなのでしょうか?
確かに、日本と欧米の文化の違いのせいか、日本ではコーチングが一般的ではないと感じています。欧米ではメンタルトレーナーやセラピーを利用して、自分自身をケアするのが一般的です。
しかし、日本人は自ら他人に助けを求めるのが苦手なのかもしれません。自分のメンタルにお金をかけて、サポートを受けることに対して抵抗があるのかなと。
―― たしかにそうかもしれません……。
でも、核家族化やコロナ禍で他人とのつながりが気薄になるなか、より一層コーチングやセラピーの重要性は高まってきているのではないかと思いますね。心療内科にかよう人も増え、心のマイナスの部分についてサポートを受ける土壌はできてきているように感じます。
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ただ、調子のよいとき、心がプラスの状態でメンタルトレーニングやコーチングを受けることについてはまだまだな部分があるかなと。
―― 心がプラスの状態で、コーチングを受けるメリットって何でしょう?
目標や気持ちがより具体的になることが、一番大きなメリットだと考えています。
人間は、自分が想像できることしか叶えることができないんですよね。たとえば、何をどこで食べたいって想像できるからこそ、自らレストランに行けるわけじゃないですか。
それと同じように、たとえば「お金持ちになりたい」って考えている人がいるとします。でも自分がどんな「お金持ち」になりたいか、言語化できないとそこまでの道のり、お金持ちになる方法ってわからないんです。
―― なるほど。本当の目標達成における最短の方法を知れるのがコーチングのメリットなんですね。
コーチングでは、目標までの道のりを想像してもらって、そこに行き着くまでの行動や価値観の変化を言語化して明確にしてもらいます。ですから、本来目標を達成するまで10年20年かかるところが、もっと短い期間で達成できたりするわけです。
―― たしかに、1年前も同じ夢を語っているなって人いらっしゃいますもんね。
そうなんです。悩みを抱えて、考えがぐるぐると回ってしまって結局行動できない。
実際にコーチングを利用される方は、目標はあるけどそこに向かってどう進めばよいかわからないケースが多いように思います。
そんな方の考えをまとめ、目標までの過程を具体的にイメージしてもらうのがコーチングのメリットですね。
コーチに求められる「黙る能力」
―― コーチになるには、何か資格が必要なのでしょうか?
日本ではコーチングスクール独自の資格があります。僕自身は、東京コーチング協会でコーチングのコースを受けて学びました。
国際資格を取れば、国際的に一定水準のコーチングスキルがあると認められます。多くのコーチが目指す資格であり、実際に僕も取得しています。
―― コーチングに必要なスキルって何でしょう?やはり向いている人、向いていない人がいると思うのですが……。
そうですね。一番大事なことは、「黙る能力」だと思います。
コーチングのなかでクライアントが考え込んでしまったり、ゆっくり考えたりすることはよくあります。そうなると次々に質問したり、質問を変えたりしがちなのですが、コーチングではクライアントが黙っている時間も大切にしていますね。
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よく言われるのが、話す割合は「クライアントが8割、コーチは2割」です。コーチは人の話をじっくり聞く努力をできるか、黙れるかどうかというのは大きな素質だと思います。
―― 黙る能力ですか。どちらかというと、コミュニケーション能力が必要なイメージでした。
コミュニケーション能力というのも、どこまでを示しているのかが難しい表現だと思います。
僕が思うのは、相手の表情や所作、語感を五感で読み取ることがコーチングに必要なコミュニケーション能力かなと。
ただ黙って相手の話を聞くのではなく、話のトーンや話しているときの表情や手の動きを観察して、非言語的なメッセージを相手にフィードバックしていきます。
―― 言葉には出てこない観察力が大切なのですね。
そうですね。コーチの間で知られている名言に、「クライアントのことは信じても、クライアントの言葉は信じるな」というものがあります。
これがやりたい、こうしたいと話していても、実際には心の奥底に別の考えが潜んでいることもあるんです。本人も自覚していないことを引き出すためには、やはり観察力は大切だと思います。
―― なるほど。そのほかに、コーチに必要なスキルや素質はありますか?
もうひとつ重要なのが、人としての在り方だと思います。
質問力や傾聴スキルはコーチングスクールや本のなかで学べます。しかし、相手に興味を持つことやサポートしたいといった気持ちなど、人としての在り方はスクールでは得られません。
人として人にどう接するか、みたいな考え方がないと、実はコーチにはなれないんじゃないかと思っています。
コーチングをポピュラーな文化に
―― 内藤さんが、今後取り組みたいことはありますか?
やっぱり、まだ日本ではコーチングが普及していないので、広めていきたいなと考えています。文化や環境の変化で、「頼れる他人」がこれからどんどん必要になってくると思うんですよね。
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コーチがいることで、「人生がよりよくなるんだよ」っていうのは伝えていきたいですし、コーチングがポピュラーな文化として広まっていったらいいなと。
―― 内藤さん自身は、どのようなコーチを目指していますか?
僕の夢は、「お母さん」になることです。
―― 「お母さん」とは?(笑)
日本人がより自分勝手に生きられるようになってほしい、というのが僕の根底にあります。自分勝手というと、マイナスなイメージを持たれるかもしれませんが、周りの影響を受けずうまく受け流したり、情報を吸収して好きなことをしたりとか。
そういった自分勝手な部分を引き出し、自分の軸を持って生活をしてもらう。そんなサポーターになりたいと思っています。
そのために、無償の愛や承認を与えていく存在になりたいですね。そういう存在って「お母さん」と一緒だなと。だから、夢を聞かれたら「お母さんになりたい」と答えています(笑)
―― それで「お母さん」ですか!「自分勝手に生きる」という言葉にもグッときますね。
やっぱり、無償の愛や承認を与える存在になりたいっていう気持ちは、日本語教師をしていた経験からきているのかもしれません。
―― すべてつながっているんですね。内藤さんにとって、仕事とは何でしょう?
仕事と一口に言っても、ライスワークとライクワーク、ライフワークがあると捉えています。
ライスワークは食べるためにお金を稼ぐことを目的とした仕事、ライクワークは好きなことが仕事になっているパターン。そして「人生の目的」がそのまま、仕事になっているライフワーク。
もちろん、いろいろな働き方があると思うのですが、僕自身が最高だと思うのはライフワークですね。今のコーチングという仕事は、心からの「ありがとう」がもらえるライフワークだと思っています。
―― 3つのワークですか。
仕事に対してどういった役割を求めているのかを考えることで、これから選ぶ仕事や今の仕事に対し、考え方も変わってくるのではないでしょうか。
編集後記
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内藤さんは、ティーチングでは難しいと感じた教えることの限界から、コーチングによる人に寄り添い、その人の本質を引き出すお仕事をライフワークと選ばれました。
心のマイナス面に対するセラピーについては、だんだんと広まりつつあります。しかし、心がプラスの状態のときにコーチングを受けることについては、日本ではまだまだ一般的ではありません。
そんなコーチングを日本に広めたいと語ってくれた内藤さん。昨今の日本人を見ていると、「自分勝手に生きる」のは難しく感じます。コーチングによって、心のしがらみから抜け出し、自分らしく生きられる道が見つかるのではないでしょうか。
内藤さんのお仕事についてもっと知りたい方は、以下もご覧ください。
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