ライフシフトイノベーター 稲泉 誠|人の生と死を同時に見た男が考える「シニアの未来」【職業図鑑 No.010】
人生100年時代と叫ばれる昨今。超少子高齢化は止まらない一方で、団塊の世代が後期高齢者と呼ばれる存在に足を踏み入れ始めました。
そんななかで、今回取材させていただいた稲泉 誠さんは「シニア世代の頑張りで、日本のGDP(国内総生産)を1%上げる」を目標に「成熟した大人の寺子屋塾」を開設!
自らも「ライフシフトイノベーター」または「シニアイノベーター」と名乗る稲泉さんの経験や熱い想いをご紹介します。
7つの顔を持つ男
―― 稲泉さんのお仕事である「ライフシフトイノベーター」とは何ですか?
話す相手によっては「シニアイノベーター」とも名乗るけど、僕は人生100年時代を考えたときに、いくつになっても変幻自在・自由自在に化すことができる人にならないと生き残れないと思ってるんですよ。
口で言うのは簡単だけど、そうなるには心と身体の健康を手に入れる。そんなシニアの見本になるべく「ライフシフトイノベーター」「シニアイノベーター」を仕事としてます。僕の造語だけどね。
日経ビジネスで特集された「くすぶるな50代」の解決策こそが「ライフシフトイノベーター」なんですよ。
―― 「変幻自在・自由自在に化す」ってどういうことでしょう?
「化」という字は「七つの人」と書くんです。つまり人には7つの顔や役割があって、その役割を果たして生きているということになります。
―― なるほど!稲泉さんの7つの顔は何があるんですか?
具体的には…
それから、夫婦と親の顔の2つ。 …これで7つある?(笑)
―― ええっと…はい、あります(笑)
この顔は全部つながっていて、人生の転機を考える仕事なんですよ。
例えば「出版プロデューサー」の仕事。一般的にシニア世代の電子書籍というと「終活」の意味合いが強いんじゃないですかね? 過去をきれいに整理して残すものを残す。
―― たしかに、そんなニュアンスかも…
もちろんそれでもいいとは思うんですが、僕は電子書籍やペーパーバックでの出版は未来史だと思っているんです。人生はいずれ閉じる時が来るけれど、そこを始まりとしてそこまでにどんな人生を送るのか、今どんな行動をしていけばいいのかを記すように伝える。
そして記すこと=人生の始まりをどうするのかを明確にするために、琉球占導師やプロコーチの顔も持っているんです。主催している「成熟した大人の寺子屋塾」だって、ひとりでできないことを達成するために必要な人たちを集めて、その人が未来を実現できるようにしているんです。
未来を作ってそれを肥しにして経験を積む。シニア世代もそう考えて良いと、僕は思うけどね。身体は衰えていくけど、角度高く立ち上がらないと始まりにたどり着けませんよ。
生と死を同時に見た50代
―― もともと稲泉さんは占術や人材育成の興味があったんですか?
知らねーよ全然(笑)僕、もともと土木のエンジニアだから(笑)
千葉の大学にある土木科を卒業してから、沖縄の大手ゼネコンに就職。現場監督として沖縄にある橋とかトンネルとかの建造に参加しました。
で、グループ会社が現在の那覇空港を作るとなったときに「おまえ企画で参加しろよ」と言われて、開発課長として転職したんです。そこで経営や情報システム、マネジメントなんかの人脈を作りました。
それで、僕は那覇空港の社長になりたかったんだけどいわゆる社内競争に負けちゃって…。
―― 波乱万丈ですね
「やることないからどうしようかな~」となったときにとある会社から声をかけてもらってCGの会社を設立。30代からやってきてそれなりに大きくなったけど、フルCGの映画作ったらお金が足りなくなっちゃって…。毎日道端に大金落ちてないか探したよ(笑)
結局、某大手通信キャリアに事業をバイアウト(売却)してさ。CG以外でも「iモード」の着せ替えコンテンツを提供してたけど「iモード」のサービスはiPhone・スマフォの登場で崩壊しちゃったでしょ?それでだめになっちゃって、個人でできるコンサルに変えようと思って変えたんです。
そのタイミングで、母親の介護と子育てが始まったんだよ。
―― え、そうなんですか?
ちょうど僕が53歳のころに、母親が認知症で介護が必要になったタイミングで、沖縄に帰ったんです。正しくは介護のために会社を畳んだんだけど、今まで人生の終わりを見てこなかった。本当は予想できたんだけど目をそらしてきたのかな?そんな感じだよ。
命の火が今にも消えそうなものを見て、法人が時代の流れに対応できずに存在意義を失っていく様と重なりました。母親に毎朝「あんた、誰?」と聞かれたり、薬に書いた数字の順番がわからないのは、本当につらかった。
それとほぼ同時に息子を授かるんだけど、630gっていう早産で生まれてきて…。生と死を同じタイミングで経験したよね。発達の課題を抱えているけど、一生懸命生きようとする命も同時に見ましたね。
―― 壮絶ですね…
結局母親は亡くなるんだけど、そのときには息子もおばあちゃんを看取ってさ…。そのときに思ったんだよね。
人って財力とか名誉とか関係なく、個の花を咲かせて静かに亡くなっていくんだな。地球の一部で自然。Natural-Beingだな。
Natural-Beingっていうのは僕がその時考えた造語なんだけど、その前は経済性の豊かさを上げていくWell-Beingを重視してた。けど、それとは異なる!そんな心の声というか魂の声というか、母からの心の相続だ!そうだNatural-Being!自然の存在は母からの心のメッセージと気が付いたんだよ。
―― なるほど…
息子は今8歳で、僕は63歳。彼が20歳になるまで十数年あるけど、僕が生きているとは限らないでしょ?
じゃあ、僕の使命や天命はなんなのかってことを考えたら、笑顔になってもらいたいと思ったんだ。それで「成熟した大人の寺子屋塾」を作ろうと決心した。少子高齢社会の中で寺子屋はニーズを満たせるんじゃないかって思ってね。
時間を大事にすることは命を大事にすること。僕はそう思ってるよ。
夢っていう漢字は「有芽」と書くんだ
―― 稲泉さんの今の原動力はお母様と息子さんから得たんですね
そうそう。母のため、息子のためにどんなことをすべきか探しまくりました。
コーチングでもいい先生を見つけたけど…カタカナが多すぎてさ(笑) そこで出会ったのが1400年前から伝わる陰陽学だった。昔、天皇の側近には陰陽師が官僚として存在していたんです。
そして神道もしかり…。現在は日本学ユニバーシティで三大皇学を深めています。自分を生涯成長させご縁する人たちを笑顔にしていくこと!そう思ってその世界に飛び込んだよ。
いいと思ったら飛び込む勇気も、年齢関係なく必要だね。
―― 実際に寺子屋の塾生さんに変化を感じたことはありますか?
僕は「ありがとう、人生変わりました!」って言ってもらえたときが一番うれしいんですよ。この言葉って、一歩踏み出す前の半歩を踏み出した瞬間に出てくる。
例えばとある塾生が「電子書籍書きます!」と言って行動を変えてくれたわけ。頭の中でやろうと思ってても、実際に動かないと変わらないし、手に入れたいものも手に入らない。
僕はその夢をサポートする対価として、お金を受け取っています。それが世の中のお金のルールだと思ってるから。
思考してイメージを作ることも大事だけど、次は言霊として発することが大事です。寺子屋だと、それが電子書籍の出版なんですよ。
長くなったけど、半歩踏み出した瞬間にもらえる「ありがとう」が一番うれしいよね。
―― 稲泉さんの今後の夢を教えてもらえますか?
僕は人はすべて天才だと思っているし、自分の無限の可能性を信じて興味・関心ある社会で個の花を咲かせて社会に貢献する人が育ってほしいと思っています。
―― …というと?
大前提として、僕は「夢」という漢字を「有芽」と書く。叶えるものではなく、花や果実と一緒で咲かせるものだと思っているからね。
花や果実をよりよく育てたいなら、なにが大事だと思います? 土なんですよ、土壌。興味関心のあることを花咲かせたいのなら、それを蒔く土壌を探さないといけないんですよね。つまり、入る組織やコミュニティ、業種・業態によって花が咲くかどうかは違ってくると思うんです。
僕であればNatural-Beingで人生を終わらせたい。そして寺子屋というものをとおしてみんなの幸せを支援して自分自身も幸せになることが志事だと思っています。
果てしないと思うだろうけど、芽が出る可能性がある以上、叶わないものはないんです。理想の花や果実を咲かせるためにどんな土壌を選ぶのかによるけど、夢が実現するかどうかはこれに尽きる。僕は自分の有芽が叶うと思ってるよ。
しいて叶うかどうかわからないものを挙げるなら、僕はアメリカ大統領の執務室に座って、各国首脳を相手に世界の危機について話をしてみたいかな(笑)
あとは来世でしかできないこと。男性が子どもを産んでみたいとかそういうのかな? 夢ではあるけど芽は出ないよね、現時点では…。
―― 最後に、稲泉さんにとって「仕事」とは何ですか?
仕事の段階は、仕事→志事→師事の3段階だと思っていて、仕事は人生を成長させるための土壌だと僕は思います。
志事は人生をかけて天命に生きることであり、現生の役割を全うすることでもある。最後の師事は多くの人の師匠となって無限の可能性を説く存在。今の僕はまだ志の志事だから、この寺子屋を通じて師になりたいし、塾生も多くの人の師匠になってほしいです。
編集後記
稲泉さんの言葉のひとつひとつに重みを感じたインタビューとなりました。取材はオンラインで行いましたが、稲泉さんの語る経験や想いが画面越しからひしひしと伝わってきた。この感覚は、いくつも取材を重ねてきた私たちも初めての感覚だったので驚いています。
同時に、生と死という相反するものを同時に見てきた稲泉さんにしか語れないお話をうかがえたことは、人生の大切な経験にもなりました。
時折ジョークなどを織り交ぜてお話していただき、終始和やかで、しかし緩急のある稲泉さんのお話に魅せられた編集部なのでした。
稲泉さんのお仕事について詳しく知りたい方は、次のリンクもご覧ください。
【取材&ライティング】