注文住宅の営業 Yさん|お客様の人生に深く入り込む仕事・「家を売る」意義【職業図鑑No.002】
「一生に一度の買い物」と言われる家。金額が大きいだけではなく、立地も間取りも妥協できないお客様が多く、実際に購入するまでに多くのハウスメーカーをめぐる人も少なくありません。
今回は、大手ハウスメーカーで注文住宅の営業をなさっているYさんをインタビューしました!
インタビューを通じて、家を売ることがそのお客様の人生に関わることを教えていただきます。そして、ある出来事をきっかけにYさん自身が変わったエピソードも語っていただきました。
お客様の理想のものを形にして売りたいから
―― 早速ですが、お仕事の内容を教えていただけますか?
私の場合はハウスメーカーでも「注文住宅」の営業になります。すでに出来上がった家を売る「建売住宅」ではなく、お客様のご要望に合わせて、理想の一軒家を探って作り上げるのが仕事です。
具体的には支店が管轄している住宅展示場にいらっしゃったお客様の接客や家づくりのサポートになります。
―― 家を買うとなると、お客様と長く付き合っていくと思うのですが…
だいたい1年間、大きな家になるとそれ以上のお付き合いになることもあります。100平米以上になると、1年以上かかわらせていただくことになりますね。
―― なるほど!1年間ずっとお客様に関わるのでしょうか?
そうですね、途中で設計士とかも関わらせていただくのですが、お客様に最初から最後まで関わるのは私たち営業職ですね。
まず家づくりの情報提供から始まり、ハウスメーカーの決め方も含めてお話をします。多くの営業さんは見取り図が描けるのですが、私は描けなくって…(笑)
ここまで決まれば「請負契約」を結びます。建売のハウスメーカーさんだと「売買契約」になるのですが、私どもの場合はお客様の希望をうかがってから建てる「注文住宅」。ですので、工事を請け負う契約を結びます。
その後、間取りはもちろんコンセントの位置まですべてお客様と相談して決定して、ようやく着工に入ります。引き渡しまでには1年ほどかかるので、それまでお客様とずっと関わっていく仕事です。
―― 想像してたより長いですね…
お客様の要望はもちろん、預貯金額や家族の関係性、相続のことまで考えないといけないので、もっと長いお付き合いになるかもしれませんね。
でも、引き渡しのときに「Yさんに相談してよかった!」と言っていただけると、とてもうれしいですね!
あとは長い期間お客様と関わることもあって、損得関係だけの間柄ではなくなります。私は今の会社に10年以上勤めていますが、1年目に担当したお客様の冠婚葬祭にご招待いただくこともありますよ。
過去にはお客様から「娘を嫁に、どうだ?」と言っていただいたこともありまして、お客様にそれだけかわいがってもらった結果なのではないでしょうか?(笑)
ある出会いで変わった、営業と家の意義
―― Yさんは、最初からハウスメーカーに就職しようと考えていたんですか?
いや、実はそんなことなくて、就職活動のときにやりたい仕事が見つからなかったんです。四季報を読んだりして情報は集めたんですけど、私は人の生の声も知りたかった。でもどこにもなかったので、就職活動のときに苦労しましたね。
―― なんと!では、今のお仕事はどうやって決めたんでしょう?
小さいころからレゴブロックが好きでして…(笑) 大学時代のアルバイトもレゴブロックの販売員をやっていたんです。
この経験を振り返ったときに、私は完成している商品を売るのではなく、何かをお客様と作り上げて売りたいと思ったんですね。それが今お世話になっている会社に就職した理由です。
だから、最初は「3年でトップセーラーになって転職する」と考えていました。お客様には「とにかく家を買ってほしい」という売込みのスタンスで接していたと思います。
―― 今はスタンスが変わったと…?
私、3.11(東日本大震災)のとき、宮城県の営業所にいたんです。その時にお会いしたご家族と関わらせていただいたのが、いまのスタンスにつながっていますね。
―― 差し支えなければ、詳しくお話を伺ってもよろしいですか?
3.11ではご存知のとおり、多くの方が津波で亡くなりました。当然、家も被害に遭ってしまって建て直しのご相談も多かったのですが、その中でも印象に残っているご家族がいます。
そのお客様は、家にいた妹さんを津波で亡くされた方でした。たまたま妹さんだけが家にいて、一緒に流されて…という状況だったそうです。
もちろん、弊社にお越しいただいたので建て替えを考えていらっしゃったのですが、本当に建て替えていいのかを決めかねていました。心の傷がそう思わせていたのではないかと思います。当時の家はお客様にとって「負の家」になっていましたからね…。
で、「なんで家を建てるのか」と伺っただけで、私は話をただ聴いていただけでした。家の性能の話とか、一切しなかったと記憶しています。というより、聴く以外に何もできなかったのが本音です。
でもお客様の中には、建て直さないことで亡くなった妹さんに対して失礼なのではないか?とのお客様の想いもあり、最終的に「家族で再スタートするための家」として建て替えを決断されました。
完成して引き渡すとき、私はどんな顔でお客様がいらっしゃるのか不安でした。でも、顔が良い表情に変わったのを、いまでもはっきり覚えています。
「妹の話は家族の中でタブーになっていた。でもこの家を建てたことでタブーではなくなりました。ようやく妹に報告できます。」
私はこの経験で、家の存在意義と営業の役割を考えたんです。
いまでもそのご家族は「再スタートするための家」にお住まいです。お客様にとっても私にとっても大きな意味のある家になりましたね。
売るのではなく、引き出す
―― 「家を売る」ってことは一筋縄ではいかないんですね
一軒家に限らずマンションもそうですけど、お客様が潜在的に持っている「理想の家」がわかると、その家に価格とは違う価値を見出してくださいます。住宅ローンの捉え方も変わるので、前向きに払ってもらえる人が多くなる気がしますね。
だから私、説明のときに家の性能の話をしないんですよ(笑)
―― え(笑)でもそれじゃあ選ぶ方が大変になるのでは?
私の意見ですけど、大手ハウスメーカーの住宅性能ってそんなに変わらないと思っているんです。見せ方を各社の営業マンが工夫しているだけで、どんぐりの背比べだと思ってもらえれば…(笑)
逆に言えば違いってそれぐらいしかなくて、最後は人で決まると思っています。
弊社の別の営業担当からも「Yさんは住宅アドバイザーみたいですね」と言われたことがあるんですけど、それを大事しているんです。
ぶっちゃけるとマンションでも良いと思うんですよね(笑)でもお客様の心の中には一軒家がいいという潜在ニーズがある。それを明確にするのが私の仕事だと思っています。
―― こちらが進めるんじゃなくて、お客様に決めてもらうんですね
そうです。だから完成した家へのこだわりもすごくて、クレームをいただくこともあります。「こんなはずじゃなかった」って。ハウスメーカーの業界って「クレーム産業」とも言われるほどクレームが多いんですが、真摯に対応すると不思議なことにお客様を紹介していただけることが多くて…。
家は高いので、60歳・70歳になっても住宅ローンを支払い続けるのが一般的だと思うんです。その住宅ローンを負債と感じてしまうと、家の存在意義がなくなってしまうと思っています。
家は「家族の生活を豊かにする」ものなので、ただ負債と感じてしまわないためにもなぜこの家が買いたいのかを見つけ出すことが大切です。
―― Yさんの考える「仕事」とは何ですか?
パッと出てこなかったんですけど、すぐに思いつくのは「目的と現在地を測れる場所」ですね。
私は生き方と仕事はつながっていたいタイプなんです。仮に大金を持っていて仕事しなくても生活できるとしても、仕事はしていると思います。嫌なこともあるんですけど、そんなときに「自分の目的は何だったかな?」と思い返せる、現在地がわかる。これが仕事の意味だと思うと…。
あとは成長の場ですね。仕事が人生とは思っていないのですが、大切なことだと思います。仕事は人生の一部ですからね。
編集後記
今回は匿名でお話いただきましたが、もし私が家を買うならYさんから買いたいと思えるお話でした。
お客様の中にある理想の一軒家を形にするために向き合う難しさやバックグラウンドを通じた考え方をこちらが学ばせていただくことになったインタビューでした。
同席したインタビュアーの中には3.11の話で涙ぐむ者も…。人の人生に深く入り込む、だからこそ奥深い仕事なのだと、改めて実感する機会をいただけたことに感謝申し上げます。Yさん、本当にありがとうございました!
【取材&ライティング】