ドラッグロス解消だと!?現役治験コーディネーターが物申す!
こんにちは!
治験コーディネーター(CRC)として働いています。
今は育休中ですが、来年には現場に戻る気満々です。
現場はしんどさもありますが、楽しいですからね。
さて先日、新薬開発についてこんなニュースがありました。
このドラッグロス、数年前に言われていた〝日本と諸外国で政府の承認速度が違うから、海外で使える薬が使えない〟っていうドラッグロスと意味合いが違うように思います。
私はこのように捉えました。
CRCとしてなぜ日本の病院が国際共同試験の実施施設として選ばれないのか、思うところがあるのでまとめました。
政府の偉い人、議員の先生でも見てくれるといいなって思います。
新薬がないと命がつなげない人って、たくさんいるので。
①医療現場が忙しすぎて臨床でいっぱいいっぱいになっており、治験に手が回らない
CRCって調整役ですから、治験の実務を行うのは医師、看護師、検査技師、薬剤師…などのスタッフになります。
病院って、基本的に非常に忙しい。
臨床業務で常に忙しい。
治験って、テキトーに、気楽にできるものではないんです。
通常臨床の100倍、治験の方が細かいと思ってください。
治験に必要な書類も大量にあります。
医師、看護師、薬剤師などのスタッフに記載してもらわないといけないものもあります。
書類を書く時間だって必要です。
臨床試験に必要な最低限のルールを覚えてください。
治験にかかわる医療スタッフ全てに求められます。
こうみると面倒って思いませんか?
人手が常に足りない医療現場で、治験は面倒な事として嫌がられる傾向があります。
なので、まずは医療現場の人手を増やしていただければ治験は進むかもしれません。
要は
日本政府よ、医療従事者の人数を増やせ、ついでに賃金を上げろ
ということです。
②医療現場の治験に対する使命感が薄い
治験って(私以外の)誰かがやるでしょ?って思っているうちは、医療現場で治験は進まないと思います。
多くの医療スタッフは、大学の時に治験やら臨床試験って名前を聞いた程度だと思います。
治験をやらないと日本では薬が承認されません。
いくら薬の候補を見つけたからって、日本で治験をやらないと、日本で保険適応(=科学的に効果があるとして認められる)で使える薬にはなりません。
薬がないから死を待つだけなの…
海外では使えるみたいなんだけれど日本では使えない
って医療従事者として心苦しいでしょ?
海外で使われてるらしい新薬だからやってみようと思うの
って、アヤシイ治療に高額を投資した結果、効きませんでした、って悲しいでしょ?
安全で効果的な治療薬を日本で増やすためには治験しかありません。
③責任医師、分担医師が治験への理解が少なすぎる
治験を実施する医師の治験への理解は大切です。
製薬メーカーと医学的側面で協議をしていくのは責任医師、分担医師です。
先生方が治験のルールを理解して、製薬メーカーの担当者と直接協議してください。
その方が格段に早く真意が通じます。
(CRCが仲介してもいいけれど、遅いよ?)
また、論文の第一著者になれるような著名な先生の場合、試験のお誘いがあるはずです。
(治験論文の著者の記載順は、登録症例数の多い順であることが多いです)
世界的に著名な先生が責任医師をされている試験を担当したことがありました。
この先生は今まで支えてきた他病院の責任医師の先生と比べて、次元が違いました。
次元が違うポイントは多数ありますが、一言で言うと、とにかくすごい。
治験に対しての情熱が桁違い。
この先生の試験を担当して思いました。
こういう先生が他の病院にいたら、日本で治験はハイスピードで進むのだろう…と。
④第1相試験より日本が参加できていない(がん試験において)
とある先生がおっしゃっていました。
治験を日本に誘致するには、第1相試験より日本が参加できるようにしなければ…と。
第1相試験に参加できる病院は限られています。
数は両手の指の本数か、それより少し多いくらいかもしれません。
First in Human試験といって、初めてヒトに投与する試験の場合、がん試験なら片手の指の本数程度だと思います。
私が思う、第1相試験に参加できる施設の特徴が大きく3つあります。
1つ目は、治験を実施する責任医師や分担医師が臨床試験に詳しく、第1相試験特有の評価(用量制限毒性など)ができること。
2つ目は、治験のより細かい手順に対応できる医療スタッフがいること。
3つ目は、新規作用機序の薬を安全に投与できる環境であること。
1つ目は〝③責任医師、分担医師が治験への理解が少なすぎる〟に関連します。
第1相試験は責任医師、分担医師のより深い治験への理解が求められます。
安全に治験薬を投与するには、医師の治験への理解は欠かせません。
2つ目は〝①医療現場が忙しすぎて臨床でいっぱいいっぱいになっており、治験に手が回らない〟に関連します。
第1相試験では、頻回な研究用採血の実施や、バイタルサイン測定が求められるケースが多々あります。
通常の臨床業務ではあり得ない頻度になりますので、看護師の業務量が増えます。
治験実施にあたり十分な人数のスタッフの確保が必要です。
(ので、お給料を上げて看護師さんを増やせる環境を整えて欲しいよ、政治家さんよ)
3つ目についてです。
第1相試験は新規作用機序の薬を試験することも多いです。
副作用はどの程度か、どんな副作用が出るか、はっきりわかっていません。
作用機序より想定される副作用が重い副作用の場合もありますし、新種の副作用の場合もあります。
医療機関として、そのような副作用が起きた場合にどのように対応するかを明確化しないといけません。
新種の副作用に対応できないと、第1相試験の治験は難しいと思います。
⑤さいごに
国は治験を増やして、承認薬を増やそう!と言っているけれど、実際のところ現場は追いついていないと思います。
ただ、国が目標を掲げないと進む道はわからないので、今回の宣言は大切なことと思います。
実際に治験がより進んでいくには、医療現場の働き方や賃金、マンパワーの改善が必要と私は思います。
治療法がない方、治験ができなければ薬が高額で輸入しないといけない方、残された薬は治験薬しかない方、色々なご病気の方がいらっしゃるので、そういう方が1日でも早く安全で効果的な治療ができるといいな、と思います。
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