江戸川橋住みで「神楽坂の方」とぼかす…埼玉出身MARCH卒女の悔し涙 窓際三等兵・連載タワマン文学「TOKYO探訪」神楽坂
「元祖タワマン文学作家」窓際三等兵先生(X)の連載「TOKYO探訪」。死にたいくらいに憧れた花の都「大東京」で繰り広げられる「見栄と妬みのマウント合戦」、待望の第2話の舞台は「神楽坂」です。江戸から受け継ぐ伝統の街に迷いこんだ彩の国のMARCH卒女子が、家賃・地価高騰という現実に拒まれ、南砂町に都落ちしていく――。
芙蓉の高嶺を雲居に望み、紫匂える武蔵野原に厳しくそば立つ善国寺。見よ見よ神楽坂、自由の神楽坂
明日、神楽坂から引っ越す。
社会人3年目、はじめての一人暮らしで思い切って契約した家賃8万円の1K。別々に家賃払うのも勿体ないしと、彼氏と同棲した家賃18万円の1LDK。
収入からすると少し背伸びしていたかもしれないが、後悔はしていない。神楽坂という街で過ごした思い出の全てが、いつまでも輝いて色褪せない思い出だ。
この街には全てがあった。
昭和の残り香が漂う和菓子屋、肩肘張らないフランス料理店、静謐な雰囲気をたたえた赤城神社。路地を一本入れば渋い佇まいの飲食店がひしめいていて、夕方以降は歩いているだけで心が弾んだ。歴史と伝統の合間にコンビニやドラッグストアなどのチェーン店が溶け込んでいて、週末の白銀公園には子供たちの笑い声が溢れていた。
高層ビルが立ち並ぶ東京都心にあって異質な、過去と現代が交差する贅沢な空間。道行く高齢者の背筋はピンと伸びていて、野良猫ですらも優雅に歩いているようなこの街が、神楽坂が、好きだった。
忌々しい、埼玉県民のアイデンティティが薄まっていった
埼玉県出身、川越女子からの立教経営学部卒、日立の直系子会社勤務。「中の上」の人生を要領よく、軽やかに渡ってきたと思う。メガバンの一般職として働く友達よりは仕事にやりがいを持てたし、かといって早慶を出てバリキャリを目指すような子たちほど肩肘張る必要もなく、肩の力を抜いてほどよい塩梅に暮らしてきた。
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