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「トヨタ君は期待はずれだね」慶應志木→三河→メガベンチャーをネトウヨにした悪魔の街…窓際三等兵・連載タワマン文学「TOKYO探訪」麻布十番
(オリジナル記事はみんかぶマガジンで2022年12月15日に配信したものです)
麻布十番といえば窓際三等兵先生(X)のライバル、タワマン文学作家・麻布競馬場先生のホームグラウンド。このたび、窓際先生が敵地に殴りこみます。連載「TOKYO探訪」第6話の主人公は東京カレンダーと港区女子に憧れた埼玉出身・慶應(志木)ボーイ。新卒トヨタで身に付けた「伝統のA3資料術」と「なぜなぜ分析」を駆使し、新天地・麻布十番で人生のカイゼンを企てる。果たして埼玉県民の運命は変えられるのか――。
雑誌に載っているような街に住みたかった…が、
「韓国政府はー、竹島をー、返還しろー!!」街宣車のスピーカーが発する騒音が響く。もう少し寝かせてくれと布団をかぶるが、愛国心に満ちた罵詈雑言(ばりぞうごん)が容赦なく鼓膜を揺さぶり、1Kの部屋に逃げ場はない。大人が通う街、麻布十番。週末の朝がこんなに騒々しいとは、東京カレンダーには書いていなかった。
30歳になるのと同時に転職し、生まれ育った関東に戻ってきた。7年ぶりの東京はどこに行ってもクレーンが動いてて、新しい生活、そして新しい人生への期待で胸が膨らんだ。残念ながら結婚の予定はないが、幸い貯金は1000万円ある。せっかくだし雑誌に載っているような街にしよう、と麻布十番を選んだ。
慶應経済を卒業し、トヨタ自動車に入社。7年間を三河で過ごした。ロードサイドの風景も、パチンコと風俗と駅伝の話で盛り上がる同僚も、熊谷育ちで志木高出身の自分にとって違和感はなく、すんなり受け入れられた。でも、刺激や娯楽と引き換えに手に入れた安定は、20代の若者には少し退屈すぎた。
メガベンチャーへの転職が決まり、真っ先に電話した不動産屋。学生時代、毎日2時間かけて三田まで通学していたトラウマを払拭するため、港区というのは絶対外せない条件だ。「予算は…10万だとちょっと狭い部屋しかないですが」。仲介業者の慇懃(いんぎん)無礼な態度すら、東京の洗礼といった趣でむしろ興奮した。
「ギンギンに飾った部屋に女の子を呼んで鍋パに勤しむ」そんな自分に興奮
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