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ニワトリとタマゴ、どちらが先に生まれたか

「ニワトリとタマゴ、どちらが先に生まれたか、なんてね。ずいぶんと哲学的な、いや、むしろ哲学っぽいことを考えちゃいますよね。こんなことを夜な夜な考え込んで、寝不足になった若者もいるんじゃないでしょうか。まあ、そんな深刻に考えることもないのかもしれませんが、この世の始まりを考えさせられる、面白い問いだと思いませんか?」


プロローグ


桜井真琴(さくらい まこと)は、山々に囲まれた小さな村で生まれ育った。村は自然の静寂と平和に包まれ、鳥のさえずりや川のせせらぎが日々の生活の中で調和を奏でていた。
村の人々は皆、伝統を守り、外の世界と接触することなく、自給自足の生活を送っていた。
世代を超えて変わらないこの生活が村人にとっての安心と幸せの象徴だったが、真琴にとってはどこか息苦しいものに感じられていた。

幼い頃から真琴は、他の村の子供たちとは少し異なっていた。
彼は自然や動物、天候の変化に興味を示す一方で、さらに深く、世界の仕組みそのものに強い好奇心を抱いていた。
村の図書館には古い書物がいくつか置かれており、真琴はそれらの本を夢中で読み漁った。特に彼を惹きつけたのは、哲学や科学の基礎が書かれたページだった。

その中でも、真琴の心を捉えて離さなかったのは、古代の謎「卵が先か、ニワトリが先か」という問いだった。
どちらが先に存在したのかという、まるで永遠に解けないようなこの疑問に、真琴は深く心を奪われた。
単なる遊びや冗談のような問いに見えるが、彼にとっては世界の根源的な真理に触れる重要な問題であり、この問いを解き明かすことが世界の本質を理解する鍵だと信じていた。

ある夕暮れ、真琴はいつものように家の縁側に座り、ぼんやりと空を見上げていた。
彼の瞳には遠くの山々と、その向こうに広がる空が映り込んでいた。
村の外に広がる未知の世界を、彼はいつも夢見ていた。
村の人々がこの地で生涯を終えることを当たり前のように受け入れている一方で、真琴は常に外の世界に対する強い憧れを感じていた。

「この村だけじゃ、僕の疑問には答えられない。」

真琴は心の中でそう呟いた。
彼の中で次第に膨らんでいくのは、この村を出て、広い世界を旅し、数多くの賢者や学者に会い、答えを求めるという夢だった。
真琴の胸には、この謎を解き明かすことへの熱い想いが沸き上がっていた。

しかし、村の大人たちは真琴の問いや考えに興味を示さなかった。
「卵が先か、ニワトリが先か?」と真剣に聞く真琴に対して、彼らは決まってこう返した。
「そんなもん、どっちでもいいじゃないか」
「そんなことで悩むなんて時間の無駄だよ」と笑い飛ばされるだけだった。真琴は、そのたびに口を閉ざし、再び一人で考え込むしかなかった。

両親もまた、真琴の考えを理解することはなかった。
彼の父親は村の畑で毎日働き、母親は家事や畑仕事を手伝いながら、村の生活に誇りを持っていた。
真琴が「村を出て外の世界を見たい」と話すたびに、母は心配そうな顔をし、父は「外の世界なんて危険なだけだ」と言ってたしなめた。
それでも、真琴の心に燃える探究心は消えることはなかった。

そんなある日のことだった。
真琴は、いつものように村の図書館で古い書物を読みながら、ふと一つのページに目が留まった。
ページの端に小さく書かれた古代の格言が、彼の心に強く響いたのだ。

「答えは、求め続ける者だけに与えられる。」

その一文は、まるで真琴自身に語りかけているかのようだった。
真琴はこの言葉に運命的な意味を感じた。
自分が追い求めている答えは、村の中にあるのではなく、自ら旅に出て探し続けることでしか見つけられないのではないか?
この問いを追い求めるためには、村を出て広い世界へ踏み出すしかないという確信が、心の中でますます強くなっていった。

その夜、真琴は眠れぬまま、窓から夜空を見上げていた。
星々が輝く中で、彼の心は決意に満ちていた。
「僕は旅に出る。この村を出て、世界の真理を求めて歩くんだ。」
翌朝、真琴は出発の準備をし、心の中で静かに誓った。

次の日の朝、真琴は家族にその決意を伝えた。
両親は最初こそ反対したが、真琴の固い意志を感じ取り、最終的には彼を見送ることにした。
母親は泣きながら「お前が戻る場所はいつでもここにあるからね」と言い、父親は無言で肩を叩いた。
家を出る直前、真琴は幼い妹の頭を優しく撫で、「しっかりやるんだぞ」と声をかけた。
妹は涙ぐみながら小さく頷いた。

村の出口に立つと、真琴は村の風景をもう一度振り返った。
山々に囲まれた静かな集落。
その景色は、これから自分が旅立つ未知の世界とは対照的に、安らぎと静けさに満ちていた。
しかし、真琴の胸にはもう迷いはなかった。
彼の心は、答えを見つけるための新たな旅へと向かっていた。

「僕の答えは、きっと外の世界にある。」

その思いを胸に、桜井真琴は小さな村を後にし、広大な世界へと一歩を踏み出した。



第1章:出発と出会い


桜井真琴が村を出発する日は、静かに、しかし確かな決意に満ちた朝だった。
彼の住む村は、四方を山に囲まれた小さな集落で、外の世界との接触はほとんどなく、村人たちは長い年月をこの地で静かに過ごしてきた。
しかし、真琴は幼い頃からこの閉ざされた世界に息苦しさを感じ、もっと広い世界、そしてその世界に隠された謎を知りたいと願っていた。

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