これは……これは……
「みんな!見て!あれがボヤジアンの星だよ!」
明るく元気な声が宇宙ステーションの観測室に響き渡った。
声の主はリナという名前の少女で、金髪に青い瞳が特徴的だった。
彼女は仲間4人と一緒に月周回軌道上にある宇宙ステーション「ゲートウェイ」に滞在していた。
彼女たちは地球から選ばれた優秀な高校生で、宇宙探査プログラム「オープンマインド」の一環としてゲートウェイで学び、実験を行っていた。
ゲートウェイは月周回軌道上に建設される新しい宇宙ステーションである。アメリカや日本など15か国が協力して開発しており 2024年ごろから建設が始まる予定である。ゲートウェイは月面探査や火星探査の拠点として利用されることが想定されている。
オープンマインドは地球各国が共同で行う宇宙探査プログラムである。その目的は若者たちに宇宙への興味や関心を持ってもらうことや、将来的に宇宙開発に携わる人材を育成することである。オープンマインドでは高校生レベルの優秀な学生を選抜し、ゲートウェイや月面基地で様々な活動をさせることが計画されている。
リナが指差した方向に目を向けると、そこには暗闇の中に浮かぶ不思議な光景が見えた。
それは一見普通の星のようだったが、よく見るとその形は不規則であり、時々暗くなったり明るくなったりしていた。
それがボヤジアンの星だった。
ボヤジアンの星は正式にはKIC 8462852という名前であり 2015年に発見された変光星 の一種だった。
変光星とはその名の通り光度が変化する星のことだが、ボヤジアンの星はその変化が非常に大きく不規則であり 通常の変光星とは異なっていた。
その原因については様々な仮説が立てられていたが 一番注目されていたのは「異星人が作った巨大な構造物」 だった。
KIC 8462852は恒星カタログ「ケプラー入力カタログ」(Kepler Input Catalog)における番号である。この恒星は地球から約1500光年離れた位置にあり ケプラー望遠鏡 によって発見された。
変光星(variable star)とは光度(明るさ)や色(温度)が変化する恒星(star)のことである。変光星はその変化の原因や周期によって様々な種類に分類される 。変光星は天文学的現象や恒星進化の研究に重要な役割を果たしている。
ボヤジアンの星は2011年から2013年までケプラー望遠鏡によって観測されており その間に22回も光度が減少する現象が記録されている 。その減光率は0.5%から22%まで幅広く 減光の周期やパターンも一定ではなく、通常の変光星とは異なる特徴を示していた。この現象の原因については様々な仮説が立てられたが、その中でも最もセンセーショナルだったのは、ボヤジアンの星の周りに異星人が作った巨大な構造物が存在するというものだった。この構造物はダイソン球と呼ばれるもので、恒星のエネルギーを利用するために恒星を覆うように作られたものだと考えられていた。この仮説は科学者のタブサ・ボヤジアンが提唱したことから、彼女の名前を冠してボヤジアンの星と呼ばれるようになった。
タブサ・ボヤジアン(Tabetha Boyajian)はアメリカの天文学者である。2015年に「Where's the Flux?」という論文を発表し、KIC 8462852の異常な変光現象について報告した。彼女はその後もKIC 8462852の観測を続けており、2018年には「The Most Mysterious Star in the Universe」という本を出版した。
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