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物語好きと小説好きの違い ~それぞれの魅力と楽しみ方~


物語形式説明 「桜色の物語論争」


「桜色の物語論争」
春、新学期の風景
桜満開の東京・板橋の高校で、校門近くの桜の下で桜井真琴がふとした仕草で花びらを見上げる。
「やっぱり春はいいなぁ。この桜も、まるで物語の序章みたいだね。」
そんな言葉とともに歩き出す彼女は、高校2年生の映画部員。幼い頃から映画や漫画、ゲームといった視覚的な物語に心奪われてきた真琴にとって、物語は生活の一部そのものだった。

教室に入り、見知らぬ顔ぶれを見回すと、一人の男子生徒が目に留まる。黒崎雅人。硬派な雰囲気を醸し出す彼は、入学式の日からクラスメートの間で話題の的だった。
「話しかけづらそうだなぁ。」と感じつつも、不思議な引力に引き寄せられる真琴。

映画部のポスターを貼ろうと校内を歩いていた真琴が偶然図書室に立ち寄ると、そこには雅人がいた。山積みの分厚い小説の前で真剣な眼差しを向ける彼に、真琴はつい声をかける。
「黒崎君、だよね?何読んでるの?」

雅人は少し驚いた様子で顔を上げ、冷静な声で答える。
「カフカの『変身』。読んだこと、ある?」
「えっと…映画の名前なら聞いたことあるかも?」
真琴の答えに雅人はクスリと笑う。
「映画好きなんだね。でも、小説の方が物語の深さを感じられるんだよ。」

この一言に少しムッとした真琴は、負けじと反論する。
「映画だって、映像だからこそ伝えられる感動があるんだよ!」

そんなやり取りが続くうちに、二人の間には自然と会話の糸が紡がれていった。

新学期最初の映画部の集まりで、真琴は転校生の水野美咲と知り合う。明るく元気な彼女は映画部に興味を持ち、見学にやってきたのだ。
「映画も好きだけど、小説も読むよ。どっちも素敵だと思わない?」と語る美咲は、二人の議論を興味深げに聞きながら口を挟む。
「例えば、原作の小説が映画化された作品ってどう思う?私、映画で先に観てから原作を読むことが多いんだけど、どっちも違った魅力があると思うんだよね。」

「映画の方が先に観たら、キャラクターの顔や声が固定されちゃわない?」と雅人が反論する。
「でもそれが、その作品をもっと身近に感じるきっかけになることもあるんだよ!」と真琴が答える。

美咲は二人の間に立ちながら笑顔を浮かべ、提案する。
「じゃあさ、次はみんなで何か一緒に観たり読んだりしない?」

その提案をきっかけに、三人は月に一度、共通のテーマで映画を観たり小説を読んだりする会を開くようになった。ある日は映画館で話題作を鑑賞し、別の日には図書館で関連する小説を探して読書会を開いた。

ある日、三人で黒沢明監督の『羅生門』を観た後、原作の芥川龍之介の短編小説を読むことに。
「映画だと視点の切り替えが映像の演出でわかりやすかったけど、小説だともっと曖昧で、人間の心理が深く描かれている気がする。」と雅人が語る。
「でも、映像の光の使い方とか雨の音の演出が、小説では感じられないリアルさを加えてるよね。」と真琴が答える。
美咲は二人の意見に頷き、
「どっちもその世界に引き込まれるのがすごいなぁ。」と感心する。

物語の楽しみ方が異なる二人だが、共通点も見つけ始める。真琴は雅人の影響で小説の魅力を知り始め、雅人もまた、真琴が紹介したアニメ映画に心を動かされることが増えた。
「映像表現ってこんなにダイレクトなんだ。」と感想を漏らす雅人に、真琴は思わず嬉しくなる。

一方、美咲はその日によって二人の意見に賛成したり反論したりしながら、物語の楽しみ方の多様性を広げる存在となっていた。

春が終わり、梅雨の季節が訪れたある日、三人は学校近くのカフェで語り合う。
結局、どっちが優れてるとかじゃないんだよね。」と美咲が言う。
「それぞれに楽しみ方があって、それを認め合うことで新しい発見がある。」

真琴は頷きながら、桜の季節に出会った頃を思い出す。雅人の冷静な分析に反発していた自分が、今では彼の言葉に多くを学ぶようになった。
「本当にそうだよね。それぞれの視点があるから、物語がもっと面白くなるんだ。」

雅人も微笑み、静かに言う。
「物語を共有することで、僕たちの世界も広がる。これからも、いろんな物語を一緒に楽しもう。」

エピローグ
夏が近づき、次の映画部の活動が決まった。三人は新しいテーマを話し合いながら、次の物語の旅へと心を弾ませていた。
それぞれの視点を尊重し合うことで、彼らの間には固い絆が生まれていた。

「物語好きも、小説好きも、どっちも最高だよね!」と笑う美咲の言葉に、真琴と雅人は同時に頷く。

桜の季節に始まった彼らの物語は、新たな展開を迎える準備が整っていた。


説明 「物語好きと小説好きの違い ~それぞれの魅力と楽しみ方~」

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