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「百のキスと転生の世界」

「やっとここまで来たか。」

俺は駅のホームで一息ついた。財布から切符を取り出し、改札へと向かう。ここ数日はずっと緊張していた。いや、もっと前からだ。俺には「100回キスをしたら死ぬ」という呪いがかかっている。
しかも、その「キス」とは唇が何かに触れること全てを意味する。食事も、飲み物も、ちょっとした触れ合いもカウントされる。100回目が来たら、俺は死ぬ。

高校生の時、この呪いの存在を知った。父から受け継がれたもので、どうやら俺たちの一族に代々伝わるらしい。
無数の親戚がこの呪いで命を落としてきたが、なぜかその話は一族外には決して漏れない。俺も当初は信じられなかった。

しかし、ある日、指で数えていたキスの回数が確実に増えていくのを目の当たりにしてから、恐怖は現実のものとなった。

「残り3回だ。」

この1週間、俺は極力食事を避け、喉が渇いても水分は最低限しか取らなかった。うっかりものを口に入れたら、それで最後かもしれない。唇が何かに触れる瞬間が、命取りになる。恐怖に耐えきれず、俺は家族に別れを告げて、知り合いのいない遠い町へ逃げることにした。

しかし、その町に着いても安心できるはずはなかった。電車に乗り、町へと向かう間も、唇をしっかり閉じたまま何も食べないよう心がけた。もう残された回数はほんの僅か。触れてしまえば終わりだ。

電車が目的地の駅に到着したとき、俺の体に異変が起きた。目眩がし、足元がふらつく。気づけば唇が乾燥してひび割れていた。慌ててリップクリームを取り出し、塗ろうとしたが、その瞬間に思い出した。

「しまった……これもカウントされる。」

唇がリップクリームに触れた瞬間、それは99回目の「キス」だった。冷や汗が背筋を走る。あと1回。もう後戻りはできない。

駅のホームに降り立った俺は、ふらふらと歩き出す。意識が朦朧とし、視界がぼやける。心臓が鼓動を速め、呼吸が浅くなる。

「あと1回……?」

その瞬間、俺の視界に一人の女性が映った。彼女はどこか懐かしさを感じさせる顔をしていた。もしかして、これが最後のチャンスなのかもしれない。逃げることはできない。彼女がゆっくりとこちらに近づいてくる。俺の足が自然に彼女へと向かった。

そして、彼女が俺の耳元で囁いた。

「ようこそ、最後のキスへ。」

その言葉が耳に届いた瞬間、俺の唇は彼女の指先に触れた。

100回目のキスだ。

つづく…

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