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アルコールに適量はない

日本では、忘年会や新年会など、お酒を飲む機会が多いですね。別に宴会がなくても自宅で毎日お酒を飲む、という左党もおられるかもしれません。

ですが、節酒、できれば断酒する(一定期間の「禁酒」ではなく、一切やめる)なら、早いに越したことはありません。

適量なら体にいい、という意見もありますが、これは長期のコホート研究によると「信憑性に欠ける」とされています(「適量のお酒は死亡率を下げる」という古い報告もありますが、被験者のサンプリングに問題があります)。

これをうけて、イギリスの保健省(Department of Health)は、昨年(2016年)にガイドラインを改訂し、「健康のためにお酒を飲むなどという行為に、正当性は全く認められない」と明記しています。

かくいう私も、昔はものすごく飲みました。ビールなんかじゃ酔いません。一回の飲み会で、ワインならフルボトル1本をひとりでカラにするレベルです(ただし、20代の時の話)。

いまも年に1、2度は学会での晩餐会とかで飲んでしまいますが、日常的に飲まなくなったのと、歳をとってきたせいか、めっきりアルコールに弱くなったので、飲むにしてもワインをグラス半分程度でやめるようにしています。

私がお酒を飲まなくなった一番の理由は、アルコールの脳への悪影響です。

アルコールは脳を委縮させる

イギリスのアルツハイマーズ・ソサイエティによると、長期にわたる過度の飲酒はアルコール性認知症の原因になります。

これは、若い人でもなる可能性があり、加齢による認知症と同様の症状を示します。

過度の飲酒が体に悪いのは言うまでもありませんが、脳の委縮は適量とされている量のアルコールでも起こる、とする研究報告も多数あります。

アルコール認知症をふくめ、アルコールが原因となっている疾患は、通常は断酒によって改善すると考えられています。ですが、年齢や症状の程度と期間、そして関連疾患(脳血管障害など)によっては、悪化するのをくい止めることができても、改善は難しい場合もあります。

脳の萎縮は加齢によっても徐々に起こるので、脳委縮のスピードを遅らせるためにも、アルコールは控えた方がいいでしょう。

私は若い頃に飲みすぎたので、すでに脳の海馬にダメージを受けているかもしれません。私がイギリスで博士号をとったのは、酒飲み時代から何年も後のことですが、油断はできません。これ以上ばかになったら大変です。

一応、まがりなりにも知的職業についている以上、頭を守る努力はせねばなりません。まぁ、生まれつきの部分もあるので限界はあるでしょうが。

飲酒の害:特に女性は要注意

飲酒の害は、もちろん他にも多々あります。
まず、アルコールは発がん性があるので、飲みすぎは各種の癌の要因です。

とくに、WHOをはじめ、医学研究においても、アルコールと乳がんの因果関係が指摘されています。なので、女性は特に要注意です。

また、妊婦さんはお酒は避けましょう。イギリスのガイドラインは、"No level of alcohol is safe to drink in pregnancy"(妊娠中に飲んでもよい安全なアルコール摂取量などというものは存在しない)、と断言しています。

さらに、過度の飲酒は肥満やうつ病を誘発し、依存症につながるおそれもあります。

あと、筋トレしている人も、お酒は控えたほうがいいでしょうね。アルコールは筋肉の増強を阻害しますから。

ちなみに、筋トレにはグリコーゲン(ブドウ糖の貯蔵形態)も必要です。筋トレしてるにも関わらず、お酒飲んで(=筋肉の成長を阻害して)、糖質制限してる(=筋肉の燃料源を削って)とか、愚の骨頂です。効率が悪すぎます。まぁ、女性でそんなことをしてる人は少ないでしょうが。

なかには、「適量のお酒なら体によい」とか、「酒は百薬の長」とかいう医者もいますが、それは多分、その医師本人が酒飲みだから、そう言ってるだけじゃないでしょうか。いわば自分への言い訳です。でなければ、単なる勉強不足です。

病気のリスクを最小限にしたいなら、アルコールの摂取を最小限にすることです。前出のガイドラインにはこうもあります。"All alcohol consumption carries some risk." (いかなる飲酒もなんらかのリスクを伴う)。
自戒を込めて。