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イギリスの将来がヤバい

ヨーロッパでは冬期休暇が終わって、先月からEU離脱の交渉が再開しました。

日本に住む方々は、「で、EU離脱したら、結局イギリスどーなんのよ」、とお思いかもしれませんが、そんなこと、現時点で分かるはずないじゃないですか。

イギリスに住んで、EUがらみの政策や統計情報に触れる機会が一般人より多い立場にいても、先行き不透明なのに。ただ、EU離脱「反対」派の個人的立場から言わせてもらうと、このままいくと、イギリスの将来、ヤバいんじゃないでしょうか。

EU離脱派の中には、些末な情報や最近の統計の短期速報だけをとって、「ほーら、離脱したほうが経済にとっていいじゃん!」とか言ってる人がいますが、彼らは針小棒大というか、おしなべて総括的・長期的分析に欠けています。

もうツッコミどころが多すぎて、当ブログで論ずる気にもなれません。(というか、真剣に書くと長くなるので、めんどくさい)

なので、そういうことは、政策討論の場や今後の報道、そして、専門分野の研究者の言質に任せたいと思います。

重要かつ複雑な件案なので、ネット上で言ったもん勝ちのレベルではなく、ちゃんとしたデータをもとに冷静かつ入念に論議されるべきことです。

具体的には何も決まっていないBrexit

イギリス・EU間の交渉は、昨年のクリスマス前に「第一段階を何とかクリアした」ということになっていますが、実のところは、大して何も決まっていません。

政治上のやり取りと並行して何となく感じるのは、イギリスという国が内向き志向になっていっている、ナショナリズムも一部で強まっている、という点です。(なんか日本の状況みたい)

それに加えて、イギリスの「強み」であった、国際的金融市場としての立場とか国民保健制度 (NHS) とかが、それはもうガタガタと揺らいでいます。

昨年(2017年)の夏から秋にかけて、Goldman Sachs、 Morgan Stanley、 JP Morgan と、ロンドンのシティにオフィスを構える大手企業が、揃ってドイツのフランクフルトにオフィスを開設する手配をして、「ロンドンはもはや見限られたのか」と噂されました。

一方、医療分野では、医師、看護婦、助産婦さんの数が激減しています。とくに、優秀なドイツ出身の看護婦さんが減ったのが痛い。各地のNHSは求人募集をし続けていますが、いっこうに人手が集まらず、医師・看護婦が圧倒的に不足している状態です。

いまだ不透明なEU市民の「移動の自由」

イギリスのメイ首相は、クリスマス休暇に入る直前に、「現時点でイギリスに住み、働いているEU市民の権利は守られます。離脱前にイギリスに来る人も含めて」と、発表しましたが、ほとんどの人は、「そんなことはわかっとるわ。その後の措置の詳細を明確にせんかい」、と思ったんではないでしょうか。

確実なのは、「ある特定の日」を境に、EU市民の「移動の自由」に変化が生じます。が、そもそも、この「特定の日」がいつになるのかすら、現時点では、まだ正式に決定されていません。

イギリスがEUを離脱するのは 2019年3月29日ですが、「移動の自由」に新しい措置が適用される「特定の日」は、離脱手続きが完了する猶予期間後だろうというのがおおかたの見方でした。

EU側は、2020年12月末までの猶予期間を示唆していますが、イギリスは離脱後2年間の猶予期間をほのめかしていました。が、今日になって、メイ首相は唐突に、「離脱日の 2019年3月29日をもって移動の自由は制限される」と言い放って混乱を巻き起こしています。

もちろん、「移動の自由」だけでなく、他にもいろいろ懸案事項はあります。

EU側の言葉をかりると、「すべてが詳細にわたって合意に達するまでは、何も合意されていないと認識すべき」状態です。今の段階では、詳細が不明なので、今後どう転ぶかわかりません。

昨日(2018年1月31日付け)のニュースによると、英国政府がひそかに調査委託・作成した白書が、「離脱後、どう転んでもイギリス経済は悪化する」という報告結果を出したそうで、それを政府が必死で否定している状況です。

その報告書の全容はまだあきらかにされていませんが、なんだか「今さら感」満載です。

経済だけについていうと、一時的に落ち込んでも、軟着陸が上手くいけば長期的には持ち直す、という見解もあるにはあります。しかしながら、EU離脱の問題は、マクロ経済への懸念にとどまりません。

長期的な問題は、イギリスの人的資源への影響です。

人材流出はふせげるのか

離脱派は、「ビンボーな東欧諸国からの安い労働者なんて出てってもらっていいのよー、ロンドンにいる金融関係者も、EU出身者は出てってもらって、高所得の仕事はイギリス人に返してちょうだい」、などという強気な発言もありますが、それを埋める労働力や人材の確保は容易ではありません。

低賃金の労働力を確保するために、イギリスはEU圏外の外国からの移民労働者への依存を強めざるを得ない可能性も出てきています。

一方、高所得の金融関係の仕事は、外資のメガ・バンクが、ヨーロッパ大陸に機能をどの程度シフトするかの裁量次第でしょう。

そして、これらの分野以外にもひずみは出てきています。
在英のEU市民だけでなく、イギリス人の中にも、イギリスに愛想をつかして他国へ移住する人が増えています。聖書の出エジプト記("Exodus": 「大規模な脱出」) を引用して、"Brexit exodus" と呼ばれる現象です。

その一つが、イギリスの大学からの研究者の海外流出です。
これについては次回に書きます。