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『父と娘の往復書簡』から人生と役者を考えるはなし
少なくとも僕の場合、人生というのは、計画を立てて、そのとおりにコツコツと物事をこなし、「ああ思いどおりだ…」と感慨深く振り返るものではないように思うのだ。その証拠に僕などは、目の前の仕事を夢中でやっているうちに、気づけば還暦を過ぎ、子供たちはそれぞれに役者になっていた…」というのが感想で…
『ハムレット』を演じている時は、世の中の憂鬱を一身に背負ったような顔をしていたらしい。
他イクツさんは本を片手に説明しています。
「子どもの夜泣きにキレたり、仕事がうまくいかないと当たり散らしていたにもかかわらず、自分を支え、子供たちを育てていた奥さんに、感謝せざるを得ないと話しています」
「幸四郎の子供」というレッテルをひきづってのデビュー「恵まれた重荷」と格闘する中、今現在の君たちが「在る」ということを、僕は心から誇りに思う。
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自バッタさんは、本の世界から現実の世界に戻ってきました。
「……そっか…ありがとうよ」と、自バッタさんの目には、今にもこぼれそうな涙が光っています。
「しかし、やるせないよな…だってよ~2006年から連載になっていて、2008年には文藝春秋から発行されていたんだろ?今、何年だよ?って話さ…」
他イクツさんから受け取った本を手にして、自バッタさんはジタバタジタバタドタドタ跳んだりひっくり返ったりして、流れそうになる涙を吹っ飛ばしているのです。
たたみに置かれている本は、『父と娘の往復書簡』
他イクツさんが読んでくれたのは、「第14回 歳月を経るということ」
松本幸四郎さんから松たか子さんへの手紙だったのです。
僕は本質的に、役者は仕事で評価されることが最優先されるべきだとずっと思っていた。
自バッタさんは、女優としても歌手としても、松たか子さんが大好きなのです。
「だから…だからこそ…自分はこの仕事を選んだのだ」という思いがこみ上げてくるのでした。
「あ……だから、松だったのですね…」
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(終わり)