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樋口徹という男

明日9月26日は僕の古くからの友人、樋口徹プロが店長を務めるオプションという麻雀店にゲストで呼んで頂いている。
せっかくなので以前書いた樋口徹の記事を、少しだけ手直ししてアップしようと思う。
徹が王位戦で優勝した直後に書いたものを手直ししたものだ。
暇つぶし程度に読んでくれたら嬉しい限りである。

今からもう13年くらい前の話。

当時福岡に住んでいた僕は麻雀プロではなく、ただのバンドマンだった。
月1〜2回のライブ、スタジオでの練習、時々長崎や熊本に遠征に行ったり、楽器や機材を揃えたりと何かとお金が必要なバンドマン。
27歳の頃に選んだバイトが麻雀店スタッフだった。

その名もブルードラゴン福岡天神店。
日本プロ麻雀連盟九州本部事務局も兼ねているすごいお店だった。

僕が働き出して3ヶ月ほど経った頃だろうか。
僕の1つ年下の和製トムクルーズみたいな男が入ってきた。
1つ下でバイトでも後に入ってきたということで、その後何年も僕に対して敬語で話してきたその男は、その言葉遣いとは裏腹に僕に対して敬う気持ちなど一切持ち合わせておらず、失礼で気さくで真面目に不真面目な樋口徹という名の面白い奴だった。

すぐに仲良くなった僕と徹は勤務中によくくだらない話で盛り上がり、時には盛り上がり過ぎてドリンクのオーダーに気がつかないこともあった。


ある日、お客さんがたこ焼きの出前を頼んだ。
そのたこ焼き屋はとても美味しくよく出前を頼まれる。
1パック8個入りで550円。
しかし2パック頼むと10個入りになるという不思議なシステムだった。
小腹が空いた夕方頃、徹に提案する。
「2人で550円出してもう1パック頼まないか」と。
そうすることでお客さんのたこ焼きも2個増え、まさにウィンウィンなのである。

徹はこれに快諾し、さらに追加の提案を出してきた。
「じゃあジャンケン11回して550円の内訳を決めましょう」

なるほど。
面白い。
受けて立とう。

結果は8勝3敗。
徹は400円出した。

「後10回ジャンケンして、たこ焼きを何個食べるか決めましょう」

よほど悔しかったのだろう。
徹がリベンジを申し出る。

僕は普通にジャンケンするのでは、この聖戦に対して失礼だと考え、軽快なリズムと動きをつけてジャンケンすることにした。

「あたっこ〜あたっこ〜。たっこやっきじゃ〜んけ〜ん、じゃ〜んけ〜んぽん!」

1回目のあたっこ〜のところで右手の親指と人さし指で作った輪っかで右のほっぺたを押し込みたこ焼きを作る。
2回目のあたっこ〜も同様、今度は左にたこ焼きを作る。
たっこやっきじゃ〜んけ〜んのところで両手を左右に伸ばし、高速で波のような動きをしてタコの足を表現。
じゃ〜んけ〜んぽん!で普通にジャンケンをする。
即席だけどいい振り付けができた。

ちなみにこれをしているのは2人とも麻雀店スタッフとして勤務中である。

この動きで完全にテンションが上がりきった徹が、今までの人生で出したことがないであろうチョキの出し方を編み出す。
それはまるで天から降り注ぐ流れ星…いや、隕石という方がしっくり来る。
本来手を出す位置へと天からチョキが降り注ぐ「メテオチョキ」であった。

徹は明らかにこのメテオチョキを出すこと自体が楽しくなり、途中からこのメテオチョキしか出さなくなった。
僕は全てグーを出した。

結果、たこ焼きは僕が7個食べることとなり、徹は400円で3個のたこ焼きを食べるということに。
もともと8個入りが10個入りになるからお得という理由で頼まれたたこ焼きが、彼にとっては本末転倒になった。
完全にアホである。

そんな彼がその麻雀店に入って半年くらいの頃だろうか。
麻雀店のアルバイトを辞めたいと言い出した。
細かい理由は忘れたが、麻雀店ではよくあることだ。
さみしく思う僕や周囲の説得も聞かず、今月いっぱいで辞めさせてくださいと。

徹はそれから次のアルバイトを探し始めた。
そして新しいバイト先に面接に行った。
「ビデオアメリカ高宮店」である。

「今日までにビデオアメリカからの採用の電話がかかってくるんすよ」
面接の手応えはかなり感じていると言う。
自分の面接が終わってすぐに入れ替わりで面接に来ていた別の人もいたが、その人は絶対に落ちているだろうとも言っていた。すごい自信だった。

僕と一緒に働きながら、徹は電話を待っていた。
しかしその日、徹の携帯にビデオアメリカから電話がかかってくることはなかった。

「まだわかんないっす」

慰めようとしながら面白がる僕に彼はそう言った。
それから毎日、1週間くらいは同じセリフを言った。


結局、徹はめぼしいバイトを見つけられず、それからずっとその麻雀店に勤務。一時は正社員にまでなった。


僕が麻雀プロになる時、徹を一緒に誘ったが彼はまだいいと断った。
結局僕の3年後に麻雀プロになった徹。
プロ5年目にして連盟G1タイトルである王位を獲得した。


僕は優勝を決めた徹にこう言った。

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麻雀プロである以上、こういう時には悔しさやジェラシーを持ってしまうものなのだと思うが、徹に関してはただただ嬉しいという感情しか生まれなかった。
本当におめでとう。
本当にありがとうビデオアメリカ。


そんな彼と数年後には東京で一緒にルームシェアしたりすることになるのだが、それはまた別のお話。
明日のオプションゲスト楽しみたぜー!!

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