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妄想アカデミズムの話をする
こんにちは、檜山ユキです!
「妄想アカデミズム」第2巻、もう読んで下さったでしょうか?
今回は連載が終わったということで、この作品の振り返りをしてみようと思います。
!!!ネタバレを含みますので未読の方は注意してください!!!
作品コンセプトについて
まず企画立ち上げの経緯ですが、受験モノというテーマは初代編集さんと打ち合わせをする中で編集さんの方から提案して頂きました。
恐らく私が受験に対して何かしら思い入れを持っていそうに見えたのでしょう。
結果的にこの選択は第一作目のテーマとしてかなり正しかったと思っています。
この編集さんにスカウトして頂き、アイデアも出して頂けたからこそ今私は漫画家をやれているわけなので、本当に感謝してもしきれません。
ちなみに、本作の大枠のストーリーである
「1年目 一葉合格、莉子不合格」
「諦めようとする莉子と未春の説得 → 莉子の復活」
「ゆうの受験参戦」
「2年目 未春・莉子・ゆうの合格」
の流れは、この立ち上げの時点でほぼ全部決めていました。
さて、受験モノというテーマで行くことになった時に、私が心の内で決めたある方針があります。
それは「この作品中では、受験勉強をあくまでキラキラした素敵なものとして描く」ということです。
この方針を決めたのは私自身の過去の体験が背景にあります。
妄想アカデミズムのキャラクター達と同じように私自身も大学受験を経験しているわけですが、私にとってのその時の経験、受験勉強をしていた高校3年の1年間は、とても楽しいものでした。
内容が理解できていく・知識が繋がっていくのも楽しかったですし、勉強きっかけで友達がたくさん増えました。また、予備校の先生達のことをとても尊敬していました。
「受験勉強をしていた1年間が、今までの人生の中で最も『リア充』だった」と自信を持って言い切れるほど、私にとっては受験勉強が楽しかったのです。
(ちなみに28歳の時にスタートアップ企業に入ることで私の中の「人生の中で最も充実した1年間」のランキングは更新されることになるのですが、それはまた別のお話)
一方で私の中では、世間からの「受験勉強」のイメージはあまり良くないんじゃないかという感覚があります。
「寝る時間もない、辛く苦しい日々」とどうしても思われていがちな気がします。
また、「ガリ勉」という言葉に代表されるように、勉強は時に頑迷、狡猾、鼻持ちならないといった悪い印象と結びつくことすらあります。
こうした傾向はアニメ・マンガの世界においても同様です。
多くの場合、勉強は「キャラクター達がやりたい活動(例えば部活や恋愛など)を制限するもの」だったり、「避けられるなら避けるべきもの」として描かれていることが多いように思います。
例えば、「女の子がアイドルを目指してレッスンする」と言われたらキラキラとしたイメージを持つものの、「志望校を目指して勉強する」と言われたらなんとなく困難な暗い日々が想起されるのではないでしょうか。
私にとっては受験勉強は楽しい思い出だったので、このアニメ・マンガの世界における「勉強という営みの地位の低さ」には少し違和感を持っていました。
勿論そういう表現が悪いということではなく、作品ごとのスタンスの問題でしかありません。
ただ、自分の描く作品はあくまでポジティブな視点から描こう、勉強を「まるでアイドルになるためのレッスンかのように」キラキラしたものとして描いてみよう、と考えたのです。
未春は勉強が苦手なキャラで、「数学が難しい、わからない」くらいは言うものの、「勉強なんてやめてもう遊びに行きたい」といったことは言わないと思います。
それは作品のコンセプトに反するからです。
ところで察しの良い方は気づいたかも知れませんが、ここまで書いたことは第17話(病院のシーン)で未春が莉子に対して啖呵を切った内容そのものです。
未春を受験に巻き込んだことを不安に思う莉子に、未春は「勉強に対する全肯定」で応えました。
あの時未春が言ってくれたことが、この作品を通して一番伝えたかったメッセージだったわけです。
(作品的には、その後さらにインパクトの強い発言が出てくるのであまり印象に残らなかったかも知れないですが……)
受験勉強に関する思い出は人それぞれ色々なものがあると思いますが、本作を通じて何かしら伝わるものがあったら嬉しいです。
キャラクターについて
ここからはキャラクターについて書いていきます!
湯島未春
主人公です。最後まで主人公らしく活躍してくれました!よく頑張ったね……(親目線)
見た目は私が可愛いと思う要素を詰め込んでいます。
ただ、人物としては「いかにも可愛い女の子!」という感じになりすぎない、ちょっと汚かったり泥臭かったりする、三枚目っぽさが「未春らしさ」だなと思っています。
鼻にティッシュを詰めているくらいが似合いますよね。
個人的に主人公は普段はふざけていても、ちゃんとカッコよくて芯がある人物であって欲しいと思っているので、そういう描写を意図的にたくさん入れています。
病院の階段を駆け上がるシーンとか。
(ちなみにあのシーンは「オトナ帝国の逆襲」でしんちゃんが階段を登っていくシーンがモチーフです。笑)
対ゆうではボケ、対一葉ではツッコミがほとんどですが、
莉子に対してはボケになることもツッコミになることもあります。
個人的に好きな部分です。
元々は、「勉強が苦手だけど、実はめちゃくちゃ特殊な才能がある」という、所謂主人公補正的な要素を持たせたかったのですが、ここはあんまりちゃんと見せられてない気がしますね。
26話で出てきた「過集中」という要素はちょっとこの構想が残っています。
あと、個人的に10話で出てきた「実は未春も(莉子ほどではないけど)学校で密かに人気がある」という設定が非常〜〜にツボなんですが……どうですか?笑
名前の由来は湯島天神と、「未だ春(=合格)遠し」。
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室町莉子
莉子は良い意味で、当初の構想通りにならなかったキャラです。
元々は、本当に王子様のような子にするつもりでした。
完璧超人で、女の子の頭を無意識に誰彼構わず撫で、メロメロにさせていく、そんなキャラの予定だったのですが……。
実際に出来上がった莉子はてんで違くて、
スペック自体は完璧なのですが、その割にはあまり自己評価が高くなく、自責的でネガティブです。
挫折を知らないため予定外のことに弱いです。未春との関係が変化することも恐れていました。
他人からの期待に常に応えたいと思っており、ただしそのことは本人の中で重圧ではなく喜ばしいことになっています。
中身が結構複雑で多面的なので、正直描くのが一番難しかったキャラです。
でも、一番「人間らしい」キャラでもあると思っています。
1話の時点で未春と莉子は仲良しだし好き同士なのですが、実はお互いのことを全く理解できていません。
1年かけて二人の相互理解ができていくことが、前半のメインテーマだったと思っています。
17話以降は未春の好意を知り関係性が変化しています。
初代編集さんから「関係性が大きく変化する百合を描いてみて欲しい」と最初に言われていて、それを反映していたりします。
それと、この変化の前後で莉子の髪型も変わっています。(気づいた方いるかな……?)
1年目時点では、「未春の好意に世界で唯一気づいていなかった人物」です。
周りは全員、未春が莉子を好きなことを知っていましたが、本人だけが知らなかったのです。
可愛いね。
あと、莉子を描いて以降、他作品における黒髪ロングのキャラがやたらと好きになるようになりました。黒髪ロングフェチになってしまった。。。
名前の由来は室町時代と、理を重んじる→理子→莉子。
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吉野ゆう
ゆうは一番「普通」の女の子です。そしてツッコミ役です。
だいぶ動かしやすくはありましたが、ツッコミのしすぎでトゲトゲしく見えてしまわないように気をつけていました。
未春とゆうの二人組は、漫才感があって描いてて楽しかったです。
当初はギャルにするという考えがあったようです(すぐ消えた)。
上でも書きましたが、ゆうが東大受験に参加するという展開は最初から決めていたビッグイベントであり、6話で未春に影響を受けているっぽい描写が出てくるのはその種蒔きだったりします。
ちょっとシビアな話になりますが……本作の2巻完結が決定した時点で、そこからゆうの東大参加話をやると話数がカツカツになってしまうため、この展開はカットして別の話をやるというプランもありました。
ただ、私はこのストーリーはどうしてもやりたいと思っていたため、少し展開が急になってでも入れ込みました。
結果、22話(遊園地デート)はとてもお気に入りの回になったため、やっぱりやって良かったなと思っています。 今見返してもこの回のゆうはしみじみと可愛いです。よしよししたい。
それに、作品の都合で登場人物の進路が左右されるというのも可哀想ですしね。
もしもう少し話数があったら、ゆうの心境の変化の過程をもう少しネチネチやっていたと思います。
名前の由来は染井吉野と、成績表の「優」。
名前も普通っぽい感じにしようと意識してつけました。
あと、他のキャラの名前が6音だったので5音にしました。
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三四一葉
一葉は作者が想定していないほど大きな存在になってくれたキャラです。
最初は、「莉子がキレイめお姉さんだから、だらしな系お姉さんも出しておくか……」くらいのノリで作ったキャラでした。
ただ、5話くらいからだんだん糸目系強キャラ路線(?)が定着していき、みんなのことを導いていくようなポジションになり、22話ではゆうのことを手玉に取りながら本当の気持ちを引き出す活躍ぶりを見せてくれました。
正直こういう風になっていくことは全然想定していなかったです。
「妄想アカデミズム」のストーリーは、実は最初から最後まで一葉の掌の上だったんじゃないかと思ってしまうくらいです。
結果的に一葉は、東大で自分のハーレムを作ることに成功しているわけですしね笑。
なお、ゆうを東大に誘ったのは本人の背中を押しただけ……ではあるのですが、10%くらいは一葉自身のエゴも含まれていると思っています。
「追いかけてきて欲しかった」のです。そういう奴です。
そういえば、当初は一葉と莉子が未春を取り合うという構想がありまして、一葉×未春が正式にくっつく可能性もあるように見せようと、ガチで思っていました。
5話はちょっとその雰囲気が残っていますね。
今思うと、いや、そこがくっつく世界線はありえないでしょって感じですが……笑。
あと、一葉は読者さんからの人気が高いような気がします。羨ましいぞ!
名前の由来は三四郎池と樋口一葉。
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おわりに
というわけで振り返りでした。
改めて、読んでくださった方・関わってくれた全ての方に感謝を捧げます!
たくさんの人に愛されとても幸せな作品だったと思います。
「妄想アカデミズム」のことが私は大好きです。
作品としては一区切りですが、気が向いたらこのキャラクター達で何か描きたいなと思っていますので、あまり期待せずに待っていてください。
最後に、私の数学の恩師である故・山下弘一郎先生がいなければ、「妄想アカデミズム」が生まれることは絶対にありませんでした。
先生には数学だけでなく生き方の哲学も教えていただいたように思います。
今は天国でゆっくりお休みください。
それでは!