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イギリスのアオガラは牛乳泥棒:失われた小鳥の知恵

アオガラ(英語でblue tit、学名Cyanistes caeruleus)は、イギリスの庭では比較的良く見かける。黄色と水色のコンビネーションが綺麗な小鳥だ。

牛乳瓶の上にとまるアオガラのイラスト

1960年代に出版された、イギリスで見られる鳥に関する子供用の本を持っている。この中に、アオガラが牛乳瓶の上にとまって、瓶のアルミのふたに、くちばしで穴を開けている絵がある。

絵の説明には「ブルーティットは賢く、簡単な問題ならば解決でき、牛乳瓶の蓋を開ける事を学んだ」といった趣旨のことが書かれている。これは、牛乳配達人(ミルクマン)が、イギリス各家の玄関口に、瓶入りの牛乳を配達するのが一般的だった頃の話だ。

私がイギリスに来たばかりの頃は、もう80年代後半になっていたが、まだ、こうした、アオガラがミルク瓶の上にちょこんと座っているイラストの入ったグリーティングカードなども、時折見かけた。本物のアオガラがミルク瓶の上にとまっている姿は、残念ながら、見たことはないのだが。

美味しいクリーム食べたいぞ

かつて、玄関口に配達されていた瓶入りの牛乳の上部には、液体から隔離されたクリームが凝結しており、イギリスのアオガラ達は、ふたのすぐ裏にくっついた、このクリームに目をつけたわけだ。

そして、1950年代までには、クリームを食べるために、牛乳瓶のアルミのふたを、くちばしでこじ開ける技をマスター。

鳥類は、乳糖(ラクトース)を消化できず、牛乳を飲むと下痢をしたりするらしいが、分離したクリームには、乳糖がほとんど含まれていないために、美味しいエネルギー源にはなっても、腹壊しの心配は無し。

もっとも、この時代のイギリスのアオガラは、証拠はないが、クリームを頻繁に食べるうち、多少、乳製品消化に適応していた可能性もある。だとしたら進化論の世界だ。

ロビンとアオガラ、何が違ったか

アオガラのみでなく、ロビン(ヨーロッパコマドリ)の中にも、蓋開けの技をマスターしているものがいたようだ。

けれど、ロビンは縄張り意識が強い鳥で、単独行動が主であるため、技は、鳥から鳥へと、幅広く伝授されなかった模様。よって、ロビンは、クリスマスカードの定番ではあるが、牛乳瓶の上に留まる姿がイラストとして定着することはなかった。

一方、独り立ちしたばかりの若い時は、10羽ほどの集団で行動する事の多いアオガラ社会の中では、隈なくこの技が知れ渡り、70年代には、イギリスの多くのアオガラは、ミルク瓶の蓋を開けるすべを知っていたのだとか。

時には、牛乳配達のワゴン車を追って飛び、牛乳配達人が、家のドアの前にボトルを置くや、その上に舞い降り、数羽が次々と蓋をつつく姿も目撃されたという話も伝わっている。

多少のクリームをつまみ食いされても、器用にくちばしを使い、朝食を味わう彼らの姿は、街の人々にとって微笑ましい光景だったろう。ヒッチコックの映画「鳥」のような、恐怖を感じるほどの大群でない限りは。

社会性を持つ生き物

特定の地域に住むサルの群れが、他の場所に住むサル達が知らないような業を、世代を超えて伝授しているのと同じような現象だ。人間を含め、社会性を持つ動物達の強みは、こうした知識と技術の伝達にある。

やがて、牛乳瓶の蓋は、徐々に、くちばしでは開けにくいものへと変えられ、牛乳を戸口に配達させる家庭も消えて行った。かつては、イギリス文化の一部でもあった牛乳配達人も、今や絶滅危惧種だ。実際、まだいるのかもわからない。

そして、今ではこのユニークな技を知るアオガラも、もういなくなってしまった。

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