サックスを始めるのにキッカケは要らない。
ある日ふと、サックスを吹いてみたいと思った。昔からストリートでサックスを吹いているのをみてカッコいいなとは思っていたが、自分でやりたいとは思っていなかった。吹奏楽の経験は全くなく、好きなサックスプレイヤーがいるわけでもなかったのだが、なぜか突然思い立った。いてもたってもいられず、ネット検索していると、家の近くにスクールがあるではないか。連絡すると体験レッスンができるというので2日後を予約。手ぶらでスクールに行き、初めてサックスに触れた。最初の数分でモノとしての美しさと音のカッコよさに魅了されてしまった。
スクールの先生が楽器を買うなら付き合ってくれるというので、早速お茶の水の下倉楽器に行きヤマハのYTS-82Zを購入した。ふと思い立ってからここまでが一週間である。安い買い物でもないので、我ながらスピード感が早すぎるかもと思ったが、何かを始めるときはこんなものであろう。モータースポーツを始めた時も同じように衝動に身を任せ、あっという間にハマっていった。
ここで疑問に思ったのが、衝動とは何なのかということである。おそらく、全くゼロの状態から突然サックスを吹きたいという衝動は生まれない。これまでの人生で耳にしてきたサックスの音や、読んだ本、観た映画、色々な楽器に触れたときに感じた楽しさなど、沢山のインプットが知らず知らずのうちに積み重なり、ゆっくり水を注がれたコップからある時水が溢れ出すように、分水嶺を超えた瞬間が衝動なのだと思う。遅かれ早かれ水は溢れ出しただろうから、サックスを吹きたいと思ったのは、私にとって必然だったのだ。
もちろん、衝動が生まれたからといって、毎回それに身を任せられるわけではない。時間的、金銭的制約などから衝動を抑えつけざるをえない場合もあるだろう。ただ、衝動に身を任せることは快感だし、日々に活力が生まれる。今後の人生もきっと衝動が次から次へと生まれるだろうが、なるべくそれらを抑え付けずにいたいものだ。
さて、話をサックスに戻すと、現在一週間に一回スクールに通いつつ、毎日川辺で練習しているのだが、目に見えてうまくなっていくのが自分でも感じられるので非常に楽しい。しかもサックスから生み出される音が心地よいので吹いていると自分に酔える。もちろんまだまだ下手なのだが、なんとなくサマになっているように思える。
これを書いている今、購入してから10日経ったが、一つ思ってもみなかった効果が出てきた。体重が減ってきたのである。以前ロングブレスダイエットというものが流行ったが、意図せずに同じようなことをしているのかもしれない。楽しいだけでなく健康になるとは、なんと素晴らしい楽器だろうか。唯一の心配は飽きっぽい自分がいつまで続けられるかだが、この趣味は長く続く気がする。数年後、どこかの街角でテナーサックスを吹いている自分を想像している。
衝動に身を任せた結果、また一つ人生を豊かにするものを見つけてしまった。世界は楽しいものに溢れている。
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