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新解釈:四十九日…五七日
ついに五七日まできた。
閻魔大王さんのお顔を見る日が来るなんて。
ゆみさんは、“見た目よりも怖くない”と言っていたが、それは見た目は怖いということではないのだろうか。
私は閻魔大王さんが入室するまで頭を下げていた。というより、ゆみさんや傍聴席の人までが頭を下げたので、みんなに合わせたのだ。
『頭を上げなさい』
そう言われ、頭を上げた。恐怖半分、興味半分。
中学・高校の生徒指導で竹刀を持っていそうな、いかにも怖そうな顔だ。
怒っていないのはわかるが、表情が見えない。
無表情が一番怖いのかもしれない。
『私の顔が怖いのか?』
閻魔大王さんの最初の質問だ。
10歳未満で亡くなる子どもにも、そんな質問をするのだろうか。子どもだったら泣きながら首をふるだろう。
「いや、そんなことは………、あ、はい、少し。」
私は訳の分からない回答をした。
『まぁ、よい。今までの裁判の記録・事前に提出があった、そなたの資料に目を通させてもらった。 そなたが人生で一番後悔しているできごとを述べよ』
五七日は“人生で一番後悔しているできごと”を聞かれる。閻魔大王さんが予め目を通している資料と相違がないかを確認するのが今回の裁判だ。
「はい、一番の後悔は……」
一番の後悔を話すのは息が詰まる。
『ゆっくりで構わないが、弁護人の力を借りずに、できるだけ自分の口で説明をするのだ。』
「父のことです。私の血の繋がっている方の父。」
めまいがする。過呼吸になりそうだ。
『血の繋がっている方の父と言ったが、“血の繋がっていない父親”がいるのか?』
閻魔大王さんは資料を見ているはずだから知っているはずなのに意地悪だ。
しかし少し落ち着くことができた。
「はい、私は養女になりました。父の姉夫婦に子どもがいなかったので。」
「私は勉強が得意ではなかった。父はとても厳しく、小学4年生くらいになると、テスト80点をとった結果ですら私は、父に見せることができなくなった。
小学6年生の時に私は事件を起こしました。塾でのテストの結果で面談があるとのことで、父が塾に話を聞きに行く日が近づいていました。今思えば、決して悪い結果ではなかったのですが、どうしても、どうしても父に成績を知られたくなかった。」
ふぅーーと息をつく。
「学校の屋上への鍵を壊して……………………、はぁ。」
気になって閻魔大王さんの顔を見た。
さっきの無表情とは微妙に違い、ほんの少し穏やかな表情をしていた。
もう一度深呼吸。
「気づくと私は飛び降りていました。」
だめだ、涙が止まらない。
嗚咽で言葉が言葉になっていなかった。
『1度休廷しよう。』
30分休みが与えられた。
ゆみさんは『大丈夫、きちんと説明できているし、このこと1発で地獄行きになるわけでもないから。』と励ましてくれた。
30分後、
『それでは続きを説明してください。』
閻魔大王さんの口調が優しくなっていた。
「すぐに病院に運ばれました。3階建てだったのと、飛び降りた先に植え込みがあったことで、少量のケガですみました。
私は病室で父に会うのを頑なに拒みました。父に責められると思ったんです。“こうなったのはお父さんのせいだ”、“お父さんが来たら今度はしっかり飛び降りてやる”と泣き叫んで、小学6年生が知っている言葉で父を片っ端から罵倒しました。」
ゆっくり、ゆっくりとした口調だったが、閻魔大王さんはじっくり話を聞いてくれた。
『それからお父さんとは会っていないのか?』
「会ってません。そんな私に父の姉夫婦は養子縁組の話を持ちかけてくれました。本来は弟を養子にする予定だったのを、変更したんです。これで父と会わなくて済む、と考えてその提案を受けました。お葬式や法事などの親戚の集まりにもほぼ参加せずに、母とは時々会っていました。」
職場の人にも言っていないどす黒い内側、話し終わった私は、“最低な人間だ…”とぽそっと漏らしていた。
『ここまで話した今、どう後悔しているのだ?』
閻魔大王さんが聞いた、表情はもう怖くない。
「私が父のことを拒み続けたことで、父をずっとずっと苦しめたことを後悔しています。母から聞いた話から、父は私のことを責めないとわかっていました。婚約者はこんな私をすべて知った上で、婚約を機に父に会おうと提案してくれました。それでも会うことができませんでした。」
『よくわかった。それでは六七日に判決を言い渡す。ここからは私の独り言と思って聞いてほしい。』
そう言うと続けた。
『お父さんは娘がそこまで追い詰められていたことを受け止めて、静かに見守っていたと思う。そなたがお父さんに会いたくなるまでじっと待っていたのだと思うよ。その証拠に、お葬式・初七日・二七日と一度も欠かすことなく来ていますよ。
終わります。おつかれ様でした。』
五七日が一番印象的な裁判になったのは言うまでもない。
【五七日】
五七日を司るのは、かの有名な閻魔王(地蔵菩薩)です。
閻魔帳に書かれたこれまでの裁きの結果、さらには「浄玻璃の鏡」と呼ばれる水晶に映し出された生前の行いから、故人が来世に生まれ変わる世界を決めます。
参考資料