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July.5 強い男
「もっと早く買いに行けば良かったのでは? もう夜じゃありませんか」
隣を歩くガクが、ぶつくさと文句を言う。
こいつが昨日ぶちまけた小麦粉を買うためスーパーまで買いに行き、今はその帰り道。小麦粉以外もいろいろと買っていたらそこそこ遅くなり、夕方に出かけたはずがもうすっかり暗くなってしまった。
「お前が朝なかなか起きなかったせいだろ」
「昼頃にはちゃんと起きてましたよ。そのとき買いに行けばよかったでしょう?」
「昼のクソ暑いときにわざわざ出たくねぇだろ?」
「僕は別に構いませんけど」
「そうかよ」
言い合っても終わらないのでここらで折れる。
見た目からして暑さに弱そうなこいつに合わせて、昼に出ることを避けたんだがな。まぁこいつ俺に口で負けたくないだけだろうし、俺の気遣いも無駄じゃないはず。
「それはそうと僕も荷物持ちますよ」
「え、……あーいいよ。俺が持ちたいから。それにいつも持たねぇだろ」
思いもしない提案に若干面食らった。今日買ったレジ袋2つ分、全て俺が持っている。こいつは何も持っていない。非力なこいつに持たせる気は毛頭ないので別に構わないし、こいつもこいつで俺が荷物持ちをして当然という態度をとる。いつもならの話だが。
「ほらたまにはいいでしょう?」
ガクは寄越せと言わんばかりに手を差し出してくる。
非力なお前にこんなの持たせたら腕プルプルしてよたよた歩くことになんだろ、とはさすがに言えない。確実に拗ねる。いつもならこんなことしないのにどういう風の吹き回しだ……などと思いつつ頭を回転させ、小麦粉ぶちまけて買い物に付き合わせたことをこいつなりに気にしているのではという結論にたどり着く。多分合っていると思うが、言っても認めてくれるわけがない。だからと言ってこのまま一袋渡したらこいつの腕が死ぬ。要はこいつの気持ちを無碍にせず、腕も死なせない方向でなんとかすればいいんだな。
脳内で最適解を出した黒滝は両手に持っていたレジ袋を片手にまとめて持ち直し、空いた手でレジ袋の中を漁る。
「何してるんです?」
「あー、あった。ほら」
訝しむガクにレジ袋の中から探し出した小麦粉を渡す。
「……レジ袋1つ分くらい持てますけど」
「どうしても荷物を持ちたい俺なりの譲歩だ。これ以上は譲れねぇよ」
これでもまだ引き下がるならこいつの腕が死ぬのを見届けるしかなくなるが、どうだ……?
「そうですか、殊勝な心がけですね」
どうやら納得してくれたらしい。バレないように心の中で安堵する。
「それはそうと何作ろうとしてたんだ?」
「内緒です」
「お前はそればっかだなぁ」
相変わらず秘密ばかりの男だ。でも俺、結構お前のこと、理解してきたと思わないか? 最近思うようになったが、口にする気はない。これからもしないだろう。意地っ張りでプライドの高いこの男が肯定するわけないのだから。