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[前編]300年前からずっと気持ちいい布-香川県/保多織-
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今回、日本諸国テキスタイル物産店の広報紙「民ノ布」に登場した「保多織(ぼたおり)」は香川県高松市の伝統的工芸品です。
いつまでも丈夫で「多年を保つ」ことから、保多織。
そう名付けられた 生地は、高松藩の門外不出の技で織られ江戸時代は殿様や上級武士しか着ることが許されなかったそう。
そんな秘蔵の生地は、いまでは一般庶民のわたしたちでも手にとり、身にまとうことができるようになりました。
今回は保多織を大切に織り続ける老舗「岩部保多織本舗」で県指定の伝統工芸士でもある四代目の岩部卓雄さんに生地の特徴や魅力、その歴史について、おはなしを伺いました。
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お殿様の大切な布から発展
民さん(以下/民)
このインタビューでは
岩部保多織本舗さんの生地や
会社の歴史について
おはなしを伺っていきます。
どうぞよろしくお願いします。
岩部卓雄さん(以下/岩部)
よろしくお願いします。
まずは保多織の歴史から
簡単にご説明しましょうか。
わたしどもでは、現在は
綿や絹の糸で織っていますが
江戸時代に保多織がうまれた当初は
絹織物が主でした。1689年、高松藩主の
松平頼重公が地元の産業開発と
幕府へ貢献するため、京都から
織物師の北川伊兵衛常吉を
呼び寄せて創られたのが始まりです。
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殿の着物や幕府への献上品として
藩の保護を受けて発展してきた保多織ですが
その独特な織り方は職人の北川家が
六代にわたって一子相伝の「秘法」として
大切に受け継いできたのです。
わたしたち岩部家は
その北川家と姻戚関係にあり
「岩部保多織本舗」は明治維新後の
明治19年(1886年)に
岩部家の初代・岩部恒次郎が始めました。
初代の岩部恒次郎は
保多織を絹から綿中心に切り替え
また、同時に機械化も進めたことで
その用途を広げ、上流階級ではない人も
保多織を使えるようになりました。
当時つくっていたのは着物生地が基本でした。
民
最初はお殿様用の生地だった
というのが興味深いですね。
そんな長い歴史をもつ保多織ですが
現在も織り続けるのは
岩部さんだけなんでしょうか?
岩部
そうですね。1960年前後は地場産業として
保多織を作る織物会社が県内に
数社ありましたが現在では
わたしどもだけになりましたね。
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民
卓雄さんは、いつから岩部保多織本舗で
お仕事をされているのでしょうか?
岩部
わたしは高校を出て、19歳で
家業を継ぎました。
もう50年も前のことになります。
先代のころ、保多織の製造が地場産業として
ピークを迎えた1960年前後は特に
保多織のシーツがよく売れていましたね。
シーツはいまも主力の商品です。
当時、地元ではほとんどの家に
保多織のシーツのストックがあった
と聞いたことがあります。
法事などで親戚の家に泊まる習慣
というものが一昔前は、まだありましたが
県外の方が香川の親戚の家に泊まったときに
布団にかけてあったシーツの
肌ざわりのよさに驚いて
保多織を知ってくださり
わたしどもの店舗を訪ねてくださった
といううれしい話もありました。
民
ほとんどの家に保多織があった
ってすごいですね。
特にシーツの肌ざわりって
リラックスしているときに感じるものなので
上質なものだとそのよさが
よりダイレクトにわかる気がします。
岩部
保多織は、北川家が生み出した
独特な織り方によって、
とても肌ざわりのよい生地を
つくることができるんです。
しかも、風合いのよさとともに
丈夫さも兼ね備えていて、日常使いする
シーツにはぴったりなんですよね。
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岩部
現在わたしどものシーツの製造量は
ピーク時ほど多くはありませんが
暑い時期にこそ、心地よい生地が
求められたんでしょう。
また、浴衣の生地としても
評判をいただいています。
クーラーがなかった時代の夏、
保多織の着心地のよさは
汗をかきやすい時期にこそ
本領発揮できたのだと思います。
保多織のよさを実際に使うことで
知ってくださった方のリピーターも
とても多く、ありがたいことです。
夏も冬も、どの季節も心地よい
民
ご自身が保多織の製造に関わって
50年以上とのことですが、
岩部さんが考える保多織のよさって
どんなことでしょうか?
岩部
ひとつは、ふわりと軽いのに
とても丈夫で機能的なことですね。
保多織は平織の変形で、ワッフル状の
凸凹が生地表面にあります。
その凸凹がうまれる理由は、
生地をつくる糸と糸の間に
「空間」ができる織り方を
しているからなんです。
そしてその空間のおかげで
肌ざわりがよく、
通気性と吸水性にすぐれていて
夏は涼しさを、冬はあたたかさを
感じることができます。
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民
空気を含んだ「空間」が生地にあることが
保多織の特徴なんですね。
岩部
そうですね。その空間、凸凹の風合いが
生地にしっかりあらわれているものは
特に「保多織らしいな」と感じますね。
次に、強さや丈夫さがうまれる
秘密なんですが、先ほどお話しした
特徴的な「空間」ができる一方で
糸同士がすごく密になるところもできて
糸が動きにくくなるのが
保多織の織り方です。
くわしく説明すると、こうなります。
生地は経糸と緯糸を交差させて
織りますが、すべての糸を1本ずつ
交差させる「平織」に対して
保多織は、糸を通すタイミングで
4回に1回、緯糸を浮かせて織っています。
民
糸を「浮かせる」?
岩部
はい。3回は平織と同じように糸を通して
4回目は浮かせる。
そうしてできたしっかりからんだ部分と
浮いた部分で生地に凹凸ができ
強さと軽さを兼ね備えた生地に
仕上がるんです。
保多織をよく見ると、表と裏があります。
緯糸が浮いて見えるほうが「表」で、
色の異なる経糸と緯糸で織ると
表と裏で色が違うように見えます。
織り方の説明は言葉にすると
とても難しく感じますが、実際は
かなりシンプルなんですよ。
店頭の織機で織りながら説明しましょうか。
作り手による生地解説〈前編〉まとめ
家業を継いで50年以上の岩部保多織本舗の
4代目、岩部卓雄さんのお話〈前編〉では
保多織のよさを知り尽くした職人だからこそ
わかる生地の魅力と特徴的な構造について
くわしく教えていただきました。
日常使いするシンプルな綿のシーツから
美しい風合いをいかして織る絹織物まで
多種多様な生地をうみだす技をもつ岩部さん。
次の〈中編〉では、店頭にある木製の織機で
織る様子を実際に見せていただきます。
(中編につづきます)
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岩部保多織本舗(香川県高松市)
取材日:2021年5月28日
取材・執筆:杉谷紗香(piknik/民ノ布編集室)
撮影:岩崎恵子(民ノ布編集室)
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