「無くても困らない」は味気ない世界のはじまり
先日告知した日本諸国テキスタイル物産店、始まっています。
普段はECメインのセルフプロダクション(※企画からお客様の手に渡るまでの工程を一貫して担う事業者の意)を運営しているのですが、去年から、自社製品ではなく仕入れ商品の行商を始めました。
前回は、仕入れ商品を販売する手段としてECだけではなく行商もすることにした。と書きました。
今回は、なぜ自分が作ったもの以外を販売しようと思ったかを書こうと思います。
本題の前に
このような話は巷にたくさん転がっていて、ここ10年の"気分"はちょっと高いがこだわりがある時代性のないシンプルな服を長く着ること。
人ってどうしても気分にムラがあるから、この手の話自体にも時代性があります。
ファッション史や生産技術を勉強してこなかったハンパ者の自分が競争に参加するのは不毛だなと思って、10年前に独立する時におしゃれ着界から降りました。(おしゃれ着→キツい呼び方だがこれしか浮かばない…)
そこから10年、
・機能性がありながら機能素材を使わない服
・「道具としての衣類」というスタンスでデザインする
・消耗品として”消費”される衣服を否定しない
というマイルールをつくり、その枠の中で服をつくっています。
伝統工芸布、枯れ生地に惹かれる
服をつくり売るのは私の生業であり適職。
とてもやりがいのある仕事だけど、縁があった産地で工場見学をさせてもらううちに、完成品である服自体よりも生地の方が自分にとって大きな存在になってきました。
しかも、斜陽感甚だしく海外勢に押され続けて数十年、な国産織物、特に昔ながらの製法で作られた枯れ生地(正絹織物のような華やかなものではなく庶民の為の素朴な布)に愛着を持つようになり、もっと光を当てることが出来ないかとも考えるようになりました。
そこで、上記のマイルールと国産織物を用いた衣類のブランドみんふを立ち上げたのです。
使うのは、昔ながらの手法で織られた天然素材の枯れ生地がメイン、そして装寝具というジャンルを選択。
いわゆる"パジャマ"は不変的なデザインだし、着る人を選ばないから毎シーズンデザインを変えるコストが省け、その分を価格に反映することが出来ます。
無論、パジャマ自体を着ずに眠るひとがほとんどだと言うのは承知の上。
それでも、パジャマという寝ることに特化した衣服を身にまとい眠ることで、忙しい現代人にくらしの折り目を付けることを提案出来るのではないかと考えました。
きっかけは、あの感染症
諸々の試算や仕込みを終え、さぁローンチだという時にやってきたのがあの感染症。
暫くは他人事でしたが、半年過ぎた辺りから続々と廃業のお知らせが…。
服のパーツ縫いなどを受けている内職さんやおっちゃんひとりの裁断場、そして使っていたボタンの会社まで…。
その時改めて、部品や材料、途中工程、どれが欠けても最終製品は成立しないこと、服づくり出来る環境がいつまでも近くにあるとは限らないことを実感したのです。
自分のルールを一旦置く
自分のブランドだけでちんたらしてたら間に合わない…
横の繋がりを強めて、ひとりではなくみんなで国産生地の流通量を増やしたい。
そう奮い立ち、急ごしらえで立ち上げたのが日本諸国テキスタイル物産店(当時は民ノ布)でした。
そして、新たなプロジェクトを立ち上げるにあたりおしゃれ着はやらないというルールを一旦横に置きました。
マイルールに拘っていては、お客さんの層も厚くならないし、何よりワクワクしてもらえないと感じたからです。
枯れ生地が本当に枯れる前に認知度をあげ、多くのクリエイターの素材候補に入れてもらうためには、一般の方も引き込んで大きなうねりを作らないといけません。
ひとつのブランドで、しかも日用品としての衣類だけではトキメキの魔法は掛からないよね~というわけです。
コスパより直感を大事にする時代
長い前説明となりましたが、そういう理由で他者がつくった衣類を仕入れて販売する事業を立ち上げたのでした。
リアルイベント第一回のゲストブランドである高松のツムギさん、そして今回のOsodeさんは、それぞれ独自のコンセプトを元に、私にはない華やかな感性を服に落とし込んでおられます。
その優雅な表現が私の選んだ素朴な生地達と出会った時、意外性を出してくれる。
その意外性(=ワクワク)をお客様が楽しんでくださるのでは、そう思って企画しました。
私がセルフプロダクションを立ち上げた10年前とは、時代の風向きが変わってきています。
物心ついた時から不況という環境。
「効率よくコスパがいい」暮らしを目指し、よくも悪くも変わらない日常が「落ち着く」と自分に言い聞かせてきた10年でした。
しかし、感染症や、この記事を書き始めた頃に始まった戦争などを目の当たりにして「自分の直感に素直に生きたい」と思う人が増えたのではないかと思います。私もそのひとりです。
本来の意味での服とは、身体を外界から守るためのもので、そこに個性や主張が乗ってなくてもいいんです。
でも、それだけじゃ味気ない。
自分の好きな服を着て鏡の前に立つことが明日への活力になる。
選んだ服に背景があり、服を買うことで誰かの励みになったり支援になる。
そういう納得感のある買い物を求めるお客様が増えていることを実感しています。
自分なりの彩りある世界を、ひとりひとりがつくれる世の中にしたいですよね。
これからも各産地に散らばる個性豊かなデザイナー達とのつながりを増やして、衣服を通した彩りある世界を皆様に提案していきたいと思ってます。
(岩崎恵子/民ノ布編集室)