[前編]ピュア爺のつくるピュアな布-岡山県/ギャバジン-
三代続く児島地区の「老舗」
民さん(以下/民)
このインタビューでは、
「みんふ」のねまきで使用した
石井織物工場さんの生地や会社の歴史について、
おはなしを伺っていきます。どうぞよろしくお願いします。
石井八重蔵さん(以下/八重蔵)
はい、よろしくお願いします。
私は石井織物工場の三代目で、
創業者は私の祖父の石井喜代太です。
明治32年、1899年の創業ですから今年で122年目。
民
三代続く老舗なんですね。
ずっと同じ場所で操業されてきたんですか?
八重蔵
そうです。工場は父親の代から少しずつ拡張して
いまの大きさになりました。
初代は帯地や紐を製造していましたが、父の代のころ
学生服や作業洋服の生地製造に転換しました。
ちなみに、私の名刺にある
カタカナの「キ」に○のマークは
初代の名前のキヨタの「キ」からきています。
民
八重蔵さんは、いつから
この工場で働いているんですか?
八重蔵
高度経済成長期まっただなかの、
昭和40年代です。
大学を卒業して工場を継いだのが
昭和41年ですから、55年も前の話ですね。
民
三代目となったとき、工場では
どんな生地を織っていましたか?
八重蔵
「ギャバジン」と、「平織」の2種類がメインです。
それはいまも変わりません。
二代目のころ、終戦後は
医療品向けの平織の生地がよく売れたので
平織主体だったそうですが、
時代の流れとともに学生服の製造が
中心となっていったので
ギャバジンが主体になりました。
民
なるほど、児島エリアは
学生服メーカーの多さで有名ですもんね。
八重蔵
児島はデニムの街として
最近は知られるようになりましたが、
元々は、国内の主要な学生服生産地として
発展してきた歴史があります。
ここの工場でも、セーラー服や制服、
トレーニングパンツなどに使われる
丈夫なギャバジンを中心に織り、
よく売れていました。
また、学生服の生地製造は
商社と契約していたので、
その生地の材料となる糸は
自分で仕入れるのではなく商社から届いて、
「織れば、飛ぶように売れる」
という時代を経験しました。
「ギャバジン」と「平織」
民
先ほどのおはなしにも出た、
「ギャバジン」と「平織」について、
もう少しくわしく伺えますか。
まずは、八重蔵さんが織る
ギャバジンと平織の特徴について
簡単に教えてください。
八重蔵
「ギャバジン」は綾織(あやおり)の一つで、
織り目がつまっていて丈夫な生地です。
横糸よりも縦糸の本数が多いため
生地に厚みが出ます。
「平織(ひらおり)」は、
横糸と縦糸の本数が同じで、パリッとした生地です。
うちで織る平織は、
法被などに用いられることが多いです。
民
八重蔵さんご自身は、織る技術を
どうやって身につけていったんでしょうか。
八重蔵
ギャバジンは、先代の親や
当時の職人さんから教えてもらいましたが、
平織は独学で覚えました。
自分のモットーは「技は盗むもの」と
「経験は失敗からうまれる」のふたつ。
織り方をていねいに教えてもらった記憶はなく、
親や職人が手を動かすところを
見て、まねて、身につけてきました。
「人は苦労しなければならない」
という想いもありますね。
民
たくさん苦労を経験なさってきたんですね。
八重蔵
ひとつの生地ができあがるまでにも、
糸が切れたりシャットルが飛んだり
機械そのものの調子が良くなかったりと
いろんな「失敗」に向き合います。
その失敗のたびに、なぜそうなったのか、
どうすれば改善できるのか、
「失敗」から勉強して
次につなげていくしかない。
工場を継いで50年以上たったいまでも、
失敗を経験しながら織り続けています。
民
八重蔵さんが織る生地で
特にこだわっているところは何でしょうか。
八重蔵
一番のこだわりは
糸にストレスをかけない織り方で
ゆっくりと織り上げることですね。
民
糸にストレスをかけない!?
八重蔵
はい。ストレスをかけない方法は
いろいろありますが、一つは
糸そのものに糊付けをしないことですね。
そうすると生地の仕上がりが
やわらかく、しなやかになるんです。
民
そうなんですね。確かに、生地を手にとると
織り目はしっかりとつまっていますが、
手ざわりは、おっしゃるとおり
とてもやわらかい風合いです。
それが“ピュアな布”の秘密の一つなのかも。
八重蔵
糊付けをしないもう一つの理由は
うちの生地のお客さんに
製品染めをする人が多いから。
糸に糊付けをした生地は、染める前に
糊を落とさないといけないんですよね。
そうすると糊落としの手間と工賃が
余分にかかってしまうから、
糊なしで仕上げると喜んでもらえます。
民
生地を買うお客さまに
喜んでもらえるように、という想いで
糊付けせずに仕上げているんですね。
八重蔵
もう一つは「織機(しょっき)」ですね。
うちの工場で使っているのは
昔ながらの「シャットル織機」です。
工場で織機を実際に動かしているところを
見てもらいながら説明していきましょうか。
作り手による生地解説〈前編〉まとめ
工場を継いで50年以上、という
石井織物工場の三代目、石井八重蔵さんのお話。
〈前編〉では「ギャバジン」と「平織」の
こだわりについてくわしく教えていただきました。
「糸にストレスをかけない織り方」が
“ピュアな布”をつくるうえで
なにより大切と語る八重蔵さんでしたが、
どんな風に織り上げていくのでしょうか?
〈後編〉では、シャットル織機で
織る様子を実際に見せていただきます。
(後編につづきます)
石井織物工場(岡山県倉敷市)
取材日:2021年3月24日
取材・執筆・撮影:杉谷紗香(piknik/民ノ布編集室)