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空気がたくさん入った服
トーゴの首都ロメにある、アベポゾという町で初めてドレスを仕立ててもらった。アフリカ専門のジャーナリスト、岩崎有一さんの長年の友人である、Epifaniにお願いをした。
ロメのマーケットで散々迷いながら生地を決め、(オランダ製でゴールドの部分はメタリックな光沢のある、大ぶりの花柄に決定)Epifaniの自宅兼テーラーの仕事場に持ち込む。まず、壁に貼ってあるスタイルの見本写真から、どの形にしたいかを選ぶ。(下記写真の右上)モデルはふくよかでナイスバディ、そして全身を覆うようなワンピースやツーピーススタイルが主流。自分の体型に重ね合わせて想像するのが難しく、最後はえいやと決める。日本に帰っても気軽に着られるようにしたいと思い、上下別々になるツーピースで、ボトムはマキシ丈の巻きスカートにとお願いする。
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クールビューティのEpifaniは、赤ちゃんを背負いながら手際よく採寸を済ませ、型紙を当てることなくさっさと生地の裁断にとりかかる。このとき一緒に行ったメンバーで合わせて6着ほどをオーダーしたが、3日後には出来上がるという。
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Epifaniの仕事場は、通りと中庭に面したドアが両方とも開かれていて、外の眩しい光と風が通る。通りをゆく人が、ときどき挨拶していく。軒先では雑貨やお菓子も売っている。はす向かいの教会から歌声が聴こえる。黒いクラシックな足踏みミシンの、カタカタと縫い上げる音が心地いい。
子ども達もまわりで自由に過ごしていて、兄弟でふざけあったり、落ちているハギレで遊んだり、ときどきEpifaniの作業をじっと見つめたり。寝かせていた赤ちゃんが泣き出したら、またおぶってやりながら作業を続行。
![iOS の画像 (3)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/45098386/picture_pc_bc9c719cd53ddd33becd8f5fa3d0fd72.jpg)
中庭ではEpifaniの姉妹たちが昼食の準備を始めた。炭火の煙や、魚を煮込むソースのにおいが漂ってくる。アルミの鍋をかきまわすカンカンという音が響く。ああ、Epifaniとその家族の生活の中で、服が縫われていく、と思う。彼女たちの生活の空気がいっぱい含まれている。いろんな音のなかに混じって。
![iOS の画像 (2)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/45098627/picture_pc_70c18fb3f57ddff22b0b3345a26939c1.jpg?width=1200)
3日後に受け取ったのがこちらドレス。(一緒に写っているのは泊まったホテルのスタイリッシュなお姉さん。毎日イメージの変わる服を着ていて素敵だった)身体のラインがあまり出ない、シャープなシルエットのデザインを選んだからか、大胆な柄もあまり気にならない。トップスには綺麗な裏地と、背中に下から上へと開くファスナーが付いており、とても着やすい。
![iOS の画像 (4)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/45097670/picture_pc_54b1ae568bed048c52cde2930fb1f7e9.jpg)
持っているどの服よりも派手だけれども、とても「しっくりくる」服だと感じた。生地もデザインも自分が好きで選んでおり、採寸してもらっているので自分に合った心地よいフィット感がある。そして、誰が・どんな場所で・どのような空気感の中で作った服なのか、自分の目でよく見て感じられたことに喜びと安心感のようなものを感じる。1枚の布から服になった過程に不明瞭なことも、無理なこともないと感じられる。
そして何より、作ってくれたEpifaniに対して、一層親しみとありがとうの気持ちが湧いた。大事にします、と。
![iOS の画像 (5)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/45097651/picture_pc_0699f7922f443d927967fcb38dd898b9.jpg?width=1200)
(嬉しくて、この服のことを描いて年賀状にした。これをきっかけに、トーゴで見たものを色々と描くように)
こうやって仕立ててもらえることが、こんなにも嬉しいことだとは思わなかった。代え難い愛着と「私のための服」という喜びがじわりと沸き起こる。そして、不思議と”Epifaniと共同でつくられた服”という感覚がある。
トーゴの人にとって、服とはこういうものなのか。
トーゴでも、既製品や古着を着ている人や、ドレスに仕立てず、布地のままの状態で腰に巻いたりしている人もいる。けれど彼らにとって”服”のスタンダードとは、こうした仕立て服にあるのではないかと感じる。マーケットでも、街中でも、通りでも、こうした色とりどりの仕立服を纏った人が男女ともに行き交う。
ただ買って、着るだけ。
飽きたら、合わなかったら、捨てるか売るだけ。
そんな風には、とてもできない一着だ。
つくられた時の空気が、たくさんはいった服。
着るたびに、光とわずかな砂の入り込む、あのEpifaniの仕事場の空気も一緒にまとっている。
![スクリーンショット 2021-02-09 1.08.14](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/45098245/picture_pc_86f8bafc9cce57ea184e8758086a5b22.png)