リピーター
リピーターを作るということ
歯科医師として患者さんと接するうえで、一番大事にしていることは固定患者=リピーター=ファンを作るということだ。どの業種でも共通することだと思う。
その一番の理由は、自分がした治療の経過をしっかり見て、学びたいいうことであるが、医療はサービス業でもあり固定の患者さんが来てくれるということはとてもうれしいことでもあり、とても有難いことでもある。
山谷でのリピーター作り
山谷で働いていた当初、とにかく一刻も早く仕事を辞めたかった。病院に来る患者さんは酔っ払い、働けるのに生活保護を受けている若者、浮浪者に近い格好をした人たちなど、大げさな表現でなくいわゆる『ヤバい』人たちであった。医療人としてどのような環境でも働かないといけないことはわかっていたが、正直かなりキツかった。
すぐに投げ出すのは自分のポリシーに反するので、その環境で学べることは学び、歯を治すことだけを考えればよいのだと開き直った。
山谷地区の人はとにかく歯が悪い方が多く、それゆえ難症例にも遭遇することができ、治療がだんだん面白くなり、自己満足としてとにかく歯を治したいと思った。そして次第に余裕ができると、今度は患者さんと関わりたくなった。患者さんと雑談をすると、自分の知らない面白い発見があった。そして、今度はその方々を、自分のリピーターにしたいと思った。
働いてから1年くらいたつと、定期的に通ってくださるリピートの患者さんが増えてきて、同じ簡易宿泊所の知り合いを紹介してくれたりするようになり、自分の勤務する日は予約患者さんでしっかり埋まるようになった。自分はこれが嬉しく結局7年、山谷の歯科医院では働かせてもらった。
『ケツパーの三ちゃん』(余談)
当時山谷で僕の診させていただいた患者さんで、気性は荒いが、時々缶ビールを持ってきてくれる患者さんがいた。
自分の生活保護費を削ってまでビールを買ってきてくれて本当にうれしかった。しかし、この患者さんはある日急に来なくなった。
そしてニュースでその所在を知ることになる。
そのニュースは、他人のズボンの尻ポケットから財布を抜き逮捕されたというものであった。
その方は同じ容疑で40年に渡り何度も警察に捕まり、警察からは「尻=ケツ」、財布を示す隠語「パー」にかけて「ケツパーの三ちゃん」と呼ばれていたのである。自分がもらっていたビールも一部、被害者のお金で買われていたかもしれないことを、思うと何ともやるせない気持ちになった。
先生
歯科医師はなぜか『先生』と呼ばれる。自分はこれに対しある時から非常に違和感を覚えた。人生経験がないのに、ただ歯科医師免許を持っているだけでそう呼ばれる。今までの歯科医療はいわゆる『先生』が自分の自己満足を達成するために、自分が良いと思う治療を一方的に患者さんに押し付けていた。
これからはそんな時代でないことは明白である。
患者さんにも人生のバックグラウンドがあるし、歯科医師はそれを尊重しお互いでウィンウィンになるゴールを見つける共同作業が必須である。
それを達成するには、患者さんをいかに自分のリピーターにさせるか、それに尽きると思う。
今の時代『リピーター』は馬鹿ではない。
本質を提供しリピーター自身のことをきちんと理解しないと、手を抜いた瞬間にリピーターは去っていく。
その為にまずは技術=本質を一番磨かないといけないし、サービス業としても、幅広い知識・リピーターへの感謝の精神を持ちたいと思う。