【山谷の人生模様を見て】
山谷の歯科医院で働いて
山谷での歯科医師としての仕事は、かなりのカルチャーショックをうけたが、次第に新たな世界を知れて楽しいものへと変わっていった。
僕の働いていた歯科医院には、長年地元に住んでらっしゃる一般の方々のほか、8割以上は簡易宿泊所の生活保護を受けている方々であった。
朝からお酒を飲んで酔っ払っている状態でくる方、一日ギャンブルに明け暮れる方、全身入れ墨が入った方、吉原で働く方、一日近所の池で釣りしかしない方、など色々な事情を持った方々がたくさんいた。
今となっては良い思い出だが、酔っぱらった患者さんが待合室で寝てしまい、警察を2回呼んだこともあったほどだ。
当初、自分はこのような方々とどのように接するか非常に困惑したのを覚えている。
しかし、困惑すること自体が医療者として差別をしてることであり、自分は医療を提供する立場として、ただ患者さんを治すということを念頭に、ありのままで接することへと変化していった。
とにかく口腔内の衛生状態は悪く、歯科治療としてはとてもやりがいのあるものであった。
山谷の人生模様 ~世の中を生きていくために~
しばらく働いたところで、有難いことに、だんだんリピーターの患者さんができ、雑談もよくするようになった。実際にはおしゃべり好きのとても良い人が多かった。
ギャンブル好きの人にはパチンコの景品を差し入れで持ってきて頂いたり、アルコール好きの人からは自分の生活保護費から買った缶ビールをもらったりした。
当時の想いとして、どんなブランド品をもらうより嬉しかった記憶がある。
この山谷地区の患者さんは、話を聞く限り、様々な事情を抱え生活保護を受給している方々が大半であった。
・病気で働けず生活保護になった方
・自分の会社が倒産して生活保護になった方
・保証人で借金を負わされ生活保護になった方
・薬物、アルコール、ギャンブル中毒で生活保護になった方
・ヤクザを辞めて生活保護になった方
・刑務所から出てきたばかりで生活保護になった方
・関西最大のドヤ街、西成から流れてくる生活保護の方
など、まだ他にもたくさんの事情を抱えていた。
みんな、自分よりはるかに壮絶な人生経験をしており、自分にはその方々の話が、とても勉強になった。
そして、働き始めて4年目に、自分の人生で出会った人の中で、おそらく最も壮絶な人生を送った患者さんと出会うことになるのである。