見出し画像

もしもうちの猫が話せたら…

「なあ、ちょっと聞いてくれない?」


ある朝、うちの猫が突然しゃべった。声は低めで落ち着いている。驚いて固まる私をじっと見つめ、ふわりとしっぽを揺らす。


「毎日ちゃんとごはんくれてありがとな。でもさ、もうちょいウェット多めがいいんだよね。」


え、文句? いや、要望か。混乱しつつも、私は「了解」とつぶやく。


「あとさ、最近ちょっと撫で方が雑。もっと首の後ろを重点的にお願い。」


ふてぶてしいけど、可愛い。思わず笑うと、猫はわずかに目を細めた。


「それと……お前、たまに落ち込んでんのわかってんぞ。」


予想外の言葉に息をのむ。

「俺、わかるんだよ。お前が静かにため息つくとき。そういうとき、わざと机の上歩いたりしてんの。気づけよ。」


猫は私の膝にぽふんと乗り、丸くなった。


「お前が元気じゃないと、俺もつまんねえんだ。だからまあ、無理しすぎんな。」


撫でると、喉を鳴らす。いつも隣にいてくれた理由が、わかった気がした。


「……ありがとう。」


「ニャー。」


それが最後の言葉だった。次の日から猫はまた黙ったままだ。でも、その視線には言葉以上のものがある気がする。私はそっと頭を撫でた。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集