好きnote 34 「大切なminaのハンカチ」
すごく大切にしているハンカチがある。
それは20年前くらいに購入したmina perhonenになる前のmina時代に販売されていた1枚のハンカチ。
20代後半だった私にとってminaは憧れのブランドだった。
神戸の居留地に海岸ビルヂングにあるセレクトショップでminaの存在を初めて知った。「何て可愛いお洋服なんだろう!」とときめいた。しかしお値段を見て愕然とした。「これは私では買われへん…」と。それにminaのお洋服が似合うのは、私のようなガサツな人間ではなく、華奢でカワイイ女の子しか着てはいけないのではないか!?とも思った。そんな風に思いながらも、何かとそのお店に行ってはminaのお洋服を見てうっとりしていた。
そんなある日、minaのお洋服に会いに行くと、とんでもなくときめく冬物のコートを見つけた。「ユキノヒ」という名前のテキスタイルのコート。
グレーとカーキの2色展開でお店のハンガーにかかっていた。見た瞬間に「うわぁ!」となって、「裏地もとってもカワイイ。グレーでおとなしめのデザインなので、私でも着られるんじゃないか?」と思ったが10万円以上のお値段の値札を見て凍り付いた。「これは買われへん…」と、その場に佇みながら未練がましくコートを眺めていた。
「私には無理や…」そう思いながらも諦めきれなくて、その後も何度もお店に通い「ユキノヒ」をじっと眺めていた。さすがに何度も来ては同じコートを見ているので、店員さんも気づいて声をかけてきた。そのお店の店員さんは割とクールな感じで必要以上に声はかけないし、私がいつも眺めるだけで帰るのも放っておいてくれるような女の人だったのだけど「そのコートいいですよね」と声をかけてくれた。「はい。すごく素敵で…。でも、私ではこんな高級なコートは買えないと思います。本当に素敵で、すごく憧れるのだけど…」とジメジメした答えを伝えると「確かに高いけれど、それ以上の価値があると思いますよ。ダメだと思ってるのは頭の中だけの話で、やろうと思えばいろいろ方法だってあるんですから」と言って、それ以上は語らずにまた放っておいてくれた。
その後、カップルがお店にやってきた。ふたりとも私より少し若い感じで、女の子は華奢で可愛くて身なりも良くてキラキラしていた。屈託のない笑顔で、彼氏に「このコート可愛い! 欲しい!」と言って、あっさり私が憧れていたコートを手に入れていた。私が欲しかったグレーのユキノヒのコート。彼氏がお支払いする際に、声をかけてくれた店員さんはチラっと私を見たけれど、何も言わないでいてくれた。
私には買えないと思っていたけど、目の前であっさり手に入れていく女の子を見て、何だかすごく悲しかった。私の方があのコートのこと好きだったんだから!って思った。でも手に入れる勇気もなく、ただ眺めていただけだったのだから仕方ない。諦めるしかない。でも悔しいし悲しい。そんな自分がすごく情けなかった。
そんなことがあった年のクリスマス。私は1枚のハンカチを買った。minaのハンカチを自分にプレゼントした。私にできる精一杯だったけど、minaなら何でも良い訳じゃなく、ちゃんと心惹かれる気に入ったものを選んだ。鳥なのか魚なのかわからない謎の生き物が2匹いるシンプルなハンカチ。今でも大切に使っている。
変な生き物の刺繍を見る度に「何なんだろう。この生き物…」と思うのが、たまらなく好き。絶妙な距離感を歩く2匹が可愛くてたまらない。レジで会計する際、あの店員さんが対応してくれた。余計なことは言わずに、商品を大切に包んでくれた。
そんな私にとって特別なハンカチに、クリスマスイブの今日、刺繍をしてもらった。ちょうど1週間前くらいに知り合ったミュージシャンの中西悦子さんが、刺繍の作品も作っていて「今度クリスマスマルシェするから、よかったら!」と声をかけていただいた。ちょうどお休みの日に行けそうだなぁと思ってた時に、ふと「私の大切なハンカチに刺繍してもらおう!」というアイディアが浮かんだ。
私の大切なハンカチの不思議な生き物2匹。すごく絶妙な距離でずっと歩いてる。男の子なのか、女の子なのか、何なのかわからないけど、少し離れた距離で歩いているこのふたり(突然ふたりになってしまいますが)の仲を、刺繍で取り持ってつなげてあげたいと思った。「20年間ずっと別々に離れて平行して歩いてきたけど、ふたりをつなげて、これからは一緒に歩いていってもらいたい」そんな風に思って、クリスマスイブの今日、クリスマスマルシェにハンカチを持って行き、その思いを伝えて刺繍をしてもらった。
できあがったハンカチはこちら。
私のオーダーを聞いてくれた悦子さんは「えー!キュンキュンする!」と喜んでくれて、一緒に糸を選び、ハンカチの物語を発展させてくれた。刺繍糸が絡まった時に「こんな風にこじれたこともあったんかなぁ」とか、いろいろ一緒にお話しをしながら、ハンカチの物語を温めてくれた。
できあがった時、何とも言えない嬉しさがこみあげてきた。私が想像していたよりもずっと嬉しくて、ふたりがつながったことが嬉しくてたまらなかった。家に帰ってからもずっとハンカチを見てニヤニヤしてる。きっとこれからもずっとニヤニヤするだろう。
この1枚のハンカチは、私にとって20年前に憧れたあのユキノヒのコートよりもずっと価値のあるものになった。
この嬉しさと価値は私にしかわからないとは思うけど、「私はこれでよかったんだ!」と新しく刺繍されたハンカチを見て思った。
憧れのコートを買えなかったこと。
悔しくて悲しかったこと。
少しでも勇気を出して手を伸ばそうと買ったハンカチを、大切に20年使い続けたこと。
それが全部よかったんだ。
それが今につながって、ハンカチに新しいストーリーが生まれた。
そんな20年かけた私の時間や気持ちがあってこそ、悦子さんが刺繍でつなげた唯一無二のハンカチ。
大切な宝物になりました。