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HSPが活躍できる職業「メディエーター」とは?最新論文からのヒント


 HSPとは、ハイリー・センシティブ・パーソン(Highly Sensitive Person: 以下HSP)の略で、環境や人間関係に対して敏感に反応する人のことです。HSPは個人の性格や特徴を表すパーソナリティの一つと考えられます。

 今回は、ビジネスでHSPの特性を活かすヒントを得るため、実際にビジネスに携わる人々へのアンケート調査に基づく最新の論文をご紹介します。

 Mediators and the Trait of Sensory Processing Sensitivity: Study Reveals A Significant Correlation
Charlie Irvine, Barbara Wilson, Jo Saunders, 2023)

(著:Bergamot



 どのようなビジネス現場でも、様々な状況で人の意見を聞いたり調整をするように、仲介や調停を必要とする場面があります。論文ではそのような立場の役割をメディエーターとしています。

メディエーターとは

 メディエーターとは、対立する当事者間の仲介や調停を行う専門職を指します。
 メディエーターの主な役割としては、

  • 当事者それぞれの本質的なニーズや願いを丁寧に聴き取ること

  • 対立の根本的な原因を見極めること

  • 双方が納得できる解決策を見出すためのサポート

  • 感情的になりがちな場面でも冷静さを保ち、対話を建設的な方向に導くこと

などが挙げられ、対話促進や傾聴力、紛争解決の手法などのスキルが求められます。

 そのようなメディエーターのスキルや紛争解決のプロセスに影響を与える性質には、生まれつきの特性や資質があるのか、それともトレーニングで身につけることが可能なのかをアンケートの結果より考察していきます。



メディエーターにおけるHSP特性の発見:感受性の影響を探る


 まずは、メディエーターは生まれつきの特性を持っているのか、それともトレーニングで身につけるのかという問いに答えるために、感覚処理感受性(sensory-processing sensitivity:以下、SPS)というHSPに顕著な特性に注目します。

 HSPとは環境からの刺激に対して敏感に反応する人のことですが、実際にアンケートに回答した様々な職業のメディエーターでは一般的な平均よりも高い割合に見られました。
 このHSPの特性はメディエーターにとって有利なものであると考えられ、その影響や意味については研究が必要です。


  • 調査方法

    • メディエーターにおける HSP の割合を一般社会と比較するのが目的

    • アンケート調査にはアーロン博士 の HSPの チェックリストを利用

      • アンケートの27 項目のうち 14 項目以上に該当した人は、「おそらく非常に敏感である」と自己認識がある

    • 性別、勤務年数、職業(弁護士など法律係、社会福祉系、金融系、カウンセラーやセラピスト、医療およびヘルスケア、教師など教育系、心理士系、その他)、地域など

  • 参加者

    • 2013 年 7 月から 10 月までに 181 人が回答

    • 半数近くが米国から、40%以上が英国から

  • 調査結果

    • 181 人のうち 113 人 (62%) が HSP と判定され、サンプル中の HSP の割合は一般の15~20%より高かった

    • HSP アンケートの平均スコアとしての該当項目数は 15.46 で、最頻値は 16 だった

    • スコアの分布は正規分布に近く、メディエーターは感受性(感覚処理感受性:SPS)が高く、HSPの人が多いと言える


HSP特性のメディエーターへの影響:感受性の理解と対策

では、感受性はメディエーターにどのような影響を与える可能性があるでしょうか。
感受性が高いHSPメディエーターとなる場合の特徴や課題は以下の点が考えられます。


  • HSPのメディエーターとしての有用な特徴

    • 内省性やインプットの重視

    • 他人の感情や微妙な情報に敏感

    • 注意力や行動計画に関する脳の活性化

  • HSPのメディエーターにとって不利な結果に直面する可能性や課題

    • 恐怖や興奮や落ち込みの増加

    • 困難な状況の回避

    • ストレスや燃え尽き症候群のリスク

 上記のようにHSPがメディエーターとなった場合には利点と課題点があります。
さらに考察を進めるためにも、続いてHSPの感受性について見ていきます。


感受性がもたらすHSPの世界

  1. HSPの人は、感受性が高い 感覚処理感受性 (SPS) という特性を持ち、新しい刺激に対して静かに警戒する傾向がある。

  2. SPSには根底に神経生物学的メカニズムがあり、刺激に対する反応は「戦う/逃げる/固まる/我慢して仲良くなる」と一般に説明される生理学的ストレス反応とも異なる

  3. SPS は興奮性の高さと感覚の洗練さをもたらし、クリエイティブな分野で活躍する可能性がある。

  4. SPS は幼少期のトラウマやキャリアの選択にも影響を与える。

  5. HSP はより鋭い感覚を持っていることを意味するのではなく、彼らの脳が他の脳よりもはるかに詳細にデータを選択し取得する(HSP は物事が良く見えるのではなく、見たものをより多く記録する


 HSPの人は新しい刺激に敏感であり、感覚処理感受性(SPS)によって詳細なデータを処理する能力が高いです。この特性はクリエイティブな才能に影響を与え、個人の経験やキャリア選択にも関連しています。
 メディエーターであれば、HSPの特性を活用し自身の経験も踏まえながら、多くの情報に基づき判断を行い、仲介や調停を行います。


アンケートからわかる感受性が職業選択に与える影響

 論文内のアンケート結果より、HSPの人がメディエーターに多いことがわかりました。以下、調査結果を項目別に詳細に見ていきたいと思います。

  • 性別:アンケートより女性の方が男性よりもHSPとして分類される割合が高い。これは社会の男性らしさの規範に反するため、男性は感受性を抑制する傾向があるという仮説を支持する。

  • 勤務年数HSPのメディエーターは非HSPのメディエーターよりも現場に留まる年数が少ない。HSPの特性がメディエーターのストレスや疲労に影響する可能性があることを示唆する。

  • 職業:HSPと職業の間に最も統計的に有意な関連性が見られたのは弁護士など法律関係であった。
    メディエーターとしての弁護士の職種では、HSPの人は調停として家族間の問題を扱うケースが多い一方、商業的や国際的な分野に少ない
    家族間の調停についてはHSPの特性が人間関係の調和に適しているからと考えられるが、逆にビジネス規模が大きくなるような商業的な訴訟には非HSPのほうが向いているからかもしれない。

 アンケートにより、感受性が高い人々が職業選択において特定の傾向を示すことが明らかになりました。
 特に、HSPの特性を持つ人がメディエーターや弁護士として活躍する際には、感受性がどのように役立つか、または障害となるかのヒントが得られます。さらに、HSPの人が職場で直面する可能性のある課題について深く理解することも必要です。これにより、HSPは自らの感受性を価値あるものとして活用し、職業選択においてもその特性を最大限に生かすことができるようになります。



HSPであるメディエーターの繊細なバランス


 メディエーターは生まれつきのものか、それとも作られたものかという最初の問いにについて、決定的な回答はありませんが、HSPの感覚処理感度(SPS)という特性がメディエーターに高い割合で見られたのは非常に興味深いです。



  1. HSPの高い感受性は、当事者の感情やニーズに敏感に対応できる能力を持つが、同時に過剰な刺激やストレスにも弱いという特徴がある。

  2. 他者の争いにあえて介入することになるHSPのメディエーターにとっては、自己認識は非常に重要である。

  3. 自己認識を高め、長所を活かし、短所を補うために、セルフケアや内省的な練習を行うことも必要である。

  4. 感受性の高いHSPは日常から重要な情報を抽出する能力があるが、それが全体的な視野を失うリスクもある。一方で感受性の低い人々は、より迅速な戦略的思考を持ち、問題解決において詳細を見逃すこともある。

  5. HSPと非HSPの共同調停による観察学習は、HSPが持つメディエーターとしてのスキルを育成するのに役立ち、互いに協力することでHSPの負担も軽減すると考えられる。

 これらのHSPの特性を相互に理解することで、周囲からの支援を受けながら他の人の仕事のやり方を学び、同時にストレスを減らすことも可能となります。自分の特性を仕事に活かす方法を探り、成長を遂げることが仕事を続けるモチベーションにも繋がるでしょう。

 HSPのメディエーターとしての役割は、個人の内面に留まらず、社会全体にも影響を及ぼす可能性があります。その繊細な感受性は、対人関係やコミュニティの調和において重要な役割を果たし、より良い理解と共感を促進します。
 つまり、このような特性を持つ人々が自己認識とセルフケアを通じて自らの能力を最大限に発揮することで、社会はより包括的で理解のある場に変わっていくことを期待されます。



◼︎ ストレス反応に対処する3分間瞑想

Source : 瞑想チャンネル for Leaders


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