ラジオ番組「TR2 Monday」で流れていた、旅の語りと洋楽がめっちゃ好きやったなぁ
かつて、J-WAVEで深夜2時から放送されていた「TR2」という2時間の番組があった。じぶんとしては当時よく聞いていたな~と思っていたけど、いま確認してみたら、楽しみにしていた石川 實(みのる)さん担当の期間は2002年度のたった1年間だったことがわかって驚いたりしている。
その中で、毎回アメリカ合衆国での旅の経験が語られて、そのあとに流れる洋楽までの時間帯がとても好きで、いつもMDディスクに録音していた(大阪でもふつうのラジカセで受信できていました)。
この5月の連休に、MDをひっぱり出してプレーヤーにかけてみたのだけれど、2枚のうち1枚はディスクの金属部分が錆びていたりと保存状態はよくなくて、エラーで再生できず。もう1枚も、トラックによっては語りの途中で止まってしまい、その先に進めないことがわかった(残念!)。
以前から、石川さんの旅のモノローグはまとめて本にしたらいいのにと思っていた。旅行に行くひとのための情報ではないから、とくにテーマもなく、アメリカの地で経験されたとても個人的な語りだった。聞き終えるたびなんとも言えないやさしい気持ちになるのでした。
ニューヨーク、ロサンゼルスのような都市だけでなく、長距離バスで移動されていたり、日本の映像の仕事でアメリカ南部で撮影されたりしていたので、あちこちの地名が出てきていた(ちなみにわたし自身は合衆国の地を一度も踏んだことがありません)。ニュースで伝えられる海外でもなく、観光に役立つ情報でもなく、市井(しせい)の人びとの話だから惹かれるのかもしれない。
それにしても聞きなおすのは、何故、いまこの時期?とも思った。それは、振りかえるだけの気持ちの余裕があるからでしょうか。または、だれにでも内側には破壊に向かう欲動をもっているのだろうけど、それでも人間のなかには "善き性質" の部分が、少しはあることを思い出したいと感じているせいかもしれないですね。
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<1>エルパソからフォートワースへと向かう長距離バス(テキサス)
この日の放送は、長距離バスで通る途中の町から乗ってきてとなりの席に座った、とても礼儀正しい言葉使いのネイティブアメリカンの男の子とかわした会話の話でした。まっすぐな黒髪を質素にふたつに分けて、夏なのにボタンダウンのシャツを一番上まできっちり留め、まるでお爺さんからもらったかのようなスーツに身をつつんだ彼は、7ヵ月間の牧師になるための学校に入るので、ダラスの隣の町まで行くのだという。
石川さんの語りのあと、静かに流れてきた女性ヴォーカルの曲は、 ♫ Goodbye My Friend - Karla Bonoff(カーラ・ボノフ)でした。YouTube
<2>メルローズにあったカフェによく行ってた話(ロサンゼルス)
石川さんがロサンゼルスのエコー・パークってところにしばらく住んでいて、メルローズにある馴染みのカフェに行っていた話。何カ月か経って、やっぱり日本に帰ろうって決めて、ひさしぶりにそのカフェに行ったら、たまたま知りあいの店員さんはみんなビーチに行っちゃって不在の日で、はじめて会うスタッフだったけど、そのフランスから来て写真の勉強してるウエイトレスさんが「あなた日本人のMinoruでしょ?みんなから聞いてる」と言って、映画のKurosawaの話をしたりして。カプチーノ代を払おうとしたら、ここに来るのはきょうが最後なんだからお金は受けとってもらえなくて。すごく思い出のカフェなんだけど、もう閉店して無いそうです。
♫ Get Together - The Youngbloods(ザ・ヤングブラッズ)YouTube
<3>自動車でヴェンチュラ・ハイウェイをひたすら走っていたときの話(南カリフォルニア)
海岸線を通るヴェンチュラ・ハイウェイを北上して、サンタ・バーバラからモントレーに向かって自動車を走らせたとき。絶景といっていい壮大な景色のなかを走って、やがて日も暮れて立ち寄ったガソリン・スタンドで給油して。長く走ったこともあってフロントのシールドには虫がいっぱい付いちゃって。金髪の頭を丸刈りにしたおそらく10代の若いスタッフが、洗浄成分が入ったウインドウ・ウォッシャーは無いけれども、代わりに「水ならあるんですけれども・・・」と言って水道ホースから水を入れてくれて、小さな町で育ったであろう一人のアルバイトさんの、そんな親切がとてもうれしかった、と。
♫ So Young - Ron Sexsmith(ロン・セクスミス)YouTube
<4>とても暑いピーチ・カウンティで撮影をしてたとき(ジョージア)
日本のスタッフと一緒に、畑のなかで映像の撮影をしていた。農場に勝手に入るなと、ライフル持ったひとに言われてピリピリしていたけれども、夜にはその土地の別の農場主のような人が、飯を奢ってやると。撮影隊一同で、看板も何もないレストランに誘われた。古くはカーボーイたちの宿屋だったという、そのまわりを松の木に囲われたレストランを出てみたら、月が出ていた。「あ、おじさん、俺この景色知ってる!レイ・チャールズが歌ってた”松の木を通した月のあかり”――まさにそれを今俺はみてるんだよね!」。たいへんな思いをした南部で、温かくもてなされた最高の一晩だったのです。
♫ Georgia on My Mind - Ray Charles(レイ・チャールズ)YouTube
<5>雨のセントラルパークで佇んでいた馬たち(ニューヨーク)
59丁目あたりに何頭も馬たちが並んでいる一画がある。目隠しみたいなのを付けて。雨がふってるから観光客なんて来るはずないのに、石畳の歩道ぞいにじーっと我慢して待ってる寂しげな馬たち。あるとき汚れたよれよれのシャツを着た兄さんが傘もささずに歩いてきた。その兄さんがある一頭の馬の顔を両手で撫ではじめたら、いつもはきちっと並んでいる馬たちが、兄さんの方へ歩道を乗り上げてきた。前足を二つとも歩道に乗せて。ほんとうに気持ちよさそうに。都会の真ん中で、ひょっとしたら同じ土地の匂いをもつ者どうしが抱き合うように。やがて彼は立ち去るのだけれど、もう兄さんの姿は見えなくなったのに、馬たちは歩道に前足を乗せたままそっちの方向をずっーと見ていたのです(涙)。
♫ You've Got a Friend - James Taylor(ジェームス・テイラー)YouTube
<6>初めてのアメリカ。そしてワールドトレードセンター
日本の大学の夏休み。19か20歳の石川さんが、はじめて行った海外。アンカレッジ経由のフライトで行ったのがニューヨークだった。アメリカに呼び寄せてくれた英語の先生が、ワールドトレードセンターのなかで仕事をしていた。石川さんは毎日、朝ワールドトレードセンターから一日をはじめて、また一日の終わりにワールドトレードセンターに戻ってくる。ちょっとずつ毎日、遠くへ行ってみるっていうマンハッタンの歩き方をしていた。それを番組では "小さな冒険" と呼んでいた。語りの最後は「そのビルも、エレベータで偶然乗り合わせたビルのなかの人たちも、一年前に、なくなってしまった」というラジオの声で締めくくられていました。
♫ New York State of Mind - Billy Joel(ビリー・ジョエル)YouTube
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あと、音源は残ってないけど、その他に覚えているエピソードとして、
などがありました。
ひとつひとつが短編映画のようだったなぁ。そうそう、書き忘れたけどDJ石川さんのモノローグには、いつも(曲名はわからないけど)ゆったりして心地よいギターがバックグランウンドで流れていたんだよね。雰囲気はライ・クーダーにとても似ていました。
♫ Cancion Mixteca - Ry Cooder
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番組でかかっていた曲(の一部)
・I See a Darkness - Johnny Cash
・It's Too Late - Wilson Pickett
・Home Again - Carole King
・Waltzing for Dreamers - Richard Thompson
・Father and Son - Cat Stevens
・Do Right Woman, Do Right Man - Aretha Franklin
・Don't Give Up on Me - Solomon Burke
・Allelujah - Fairground Attraction
・In the Arms of an Angel - Sarah McLachlan
・A Song for You - Leon Russell
・Talking to The Moon - Don Henley
・Chain of Fools - Aretha Franklin
・A Horse with No Name - America
(終わり)