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単語埋め込みとは?言葉を数値化。コンピュータに「意味」を理解させるAIの基礎技術

私たちは、日々言葉を使ってコミュニケーションを取っています。しかし、コンピュータは言葉をそのままでは理解できません。そこで登場するのが「単語埋め込み(Word Embedding)」という技術です。

単語埋め込みは、言葉を数値の集まりである「ベクトル」に変換することで、コンピュータが言葉の意味を理解し、様々なタスクに応用できるようにする魔法のような技術です。

なぜ単語埋め込みが必要なのか?:コンピュータが言葉を理解できない理由

コンピュータは、内部で全てを数値として処理します。そのため、「猫」や「犬」といった言葉をそのまま入力しても、コンピュータはそれが何を表しているのか理解できません。単語埋め込みは、これらの言葉をコンピュータが理解できる数値データに変換します。

単語埋め込みによって変換されたベクトルは、意味的に近い単語同士が、ベクトル空間上で近い位置に配置されるという特徴を持ちます。例えば、「猫」と「犬」のベクトルは、「リンゴ」のベクトルよりも近い位置に配置されます。この性質を活用することで、コンピュータは言葉の意味を理解し、様々な自然言語処理タスクを実行できるようになります。

単語埋め込みのメリット:言葉を数値化するメリット

単語埋め込みは、単に言葉を数値に変換するだけではありません。以下の様なメリットがあります。

  • 意味の捉え方: 単語の意味を、ベクトルの距離や方向によって数値化できるため、コンピュータが言葉の意味を理解しやすくなります。

  • 関連性の発見: 意味的に関連性の高い単語が、ベクトル空間上で近くに配置されるため、単語間の関係性を発見できます。

  • 文脈の理解: 文章全体の意味を、単語ベクトルの組み合わせによって表現できるため、文脈を理解した処理が可能になります。

  • 応用範囲の拡大: 機械翻訳、質問応答システム、感情分析など、様々な自然言語処理タスクに応用できます。

代表的な単語埋め込み手法:それぞれの仕組みと特徴

ここでは、代表的な単語埋め込み手法である、Word2Vec、GloVe、FastTextについて、その仕組みと特徴を詳しく解説します。

1. Word2Vec:文脈から単語の意味を捉える

Word2Vecは、2013年にGoogleの研究者によって発表された手法です。大量のテキストデータから、単語と単語の関係性を学習し、高次元のベクトル表現を生成します。Word2Vecには、主に以下の2つのモデルがあります。

  • CBOW(Continuous Bag-of-Words): 周囲の単語(文脈)から、中心となる単語を予測するモデル。

    • 仕組み: 例えば、「猫 が 庭 で _」という文章があった場合、CBOWは「猫」「が」「庭」「で」という単語から、空白部分に入る「遊んで」を予測するように学習します。

    • メリット: 学習が高速で、頻出単語のベクトル表現を効率よく学習できます。

  • Skip-gram: 中心となる単語から、周囲の単語(文脈)を予測するモデル。

    • 仕組み: 例えば、「猫 が 庭 で 遊んで」という文章があった場合、Skip-gramは「遊んで」という単語から、「猫」「が」「庭」「で」を予測するように学習します。

    • メリット: 学習に時間がかかるものの、稀な単語や専門用語のベクトル表現も、精度よく学習できます。

数学的な背景(オプション)

Word2Vecは、ニューラルネットワークを用いて学習します。CBOWとSkip-gramは、いずれも3層構造のニューラルネットワーク(入力層、中間層、出力層)を使用し、ソフトマックス関数によって確率を計算します。学習には、勾配降下法が用いられます。

2. GloVe(Global Vectors for Word Representation):単語の共起性を重視する

GloVeは、Stanford大学で開発された手法です。Word2Vecのように文脈から単語を捉えるのではなく、単語の共起性(同じ文脈に現れる頻度)を考慮して、ベクトル表現を生成します。

  • 仕組み: GloVeは、大規模なテキストデータから単語の共起行列を作成し、この行列を分解することで、各単語のベクトル表現を学習します。共起行列とは、単語と単語が同じ文脈にどれくらい登場するかを記録した行列です。

  • メリット: 単語のグローバルな共起情報を捉えるため、より安定したベクトル表現を生成できます。学習が高速で、大規模なデータセットにも適用しやすいです。

数学的な背景(オプション)

GloVeは、共起行列を分解する際に、行列分解の手法である特異値分解(SVD)や、確率的勾配降下法(SGD)を使用します。損失関数は、実際の共起頻度と、モデルが予測した共起頻度との間の誤差を最小化するように設計されています。

3. FastText:サブワード単位で単語を捉える

FastTextは、Facebook AI Researchによって開発された手法です。単語を文字単位で分割し(サブワード)、そのサブワードを学習することで、未知の単語やスペルミスにも対応できます。

  • 仕組み: FastTextは、単語をn-gram(例えば、3-gramなら、単語を3文字ずつの連続した部分に分割)に分割し、それぞれのn-gramをベクトルとして学習します。その後、単語のベクトルは、含まれるサブワードのベクトルを足し合わせることで生成します。

  • メリット: 稀な単語や未知の単語、スペルミスなどにも対応できるため、より実用的な単語埋め込みを実現できます。

単語埋め込みの応用例:実世界での活躍

単語埋め込みは、様々な自然言語処理タスクで活躍しています。

  • 検索エンジンの関連語提案: ユーザーが入力したキーワードに関連性の高い単語を提案する機能。例えば、「旅行」と入力すると、「ホテル」「観光地」「飛行機」などが提案されます。

  • 機械翻訳: ある言語の文章を、別の言語の文章に翻訳する機能。単語の意味を理解することで、より自然な翻訳が可能になります。

  • チャットボット: ユーザーの質問に適切に答える機能。単語の意味を理解することで、ユーザーの意図を汲み取ることができます。

  • 感情分析: 文章に含まれる感情を数値化し、ポジティブ・ネガティブを判別する機能。例えば、レビュー文章から、製品に対する感情を分析できます。

  • 文書分類: 文書を、特定のカテゴリに分類する機能。例えば、ニュース記事を、スポーツ、政治、経済などのカテゴリに分類できます。

最新動向:TransformerとBERTの登場

近年、自然言語処理の分野では、Transformerと呼ばれる新しいモデルアーキテクチャが台頭しています。TransformerをベースとしたBERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)などのモデルは、単語埋め込みだけでなく、文章全体を理解する能力が高く、様々なタスクで高い精度を達成しています。

  • Transformer: 文脈を考慮して単語の意味を理解する「Attention機構」を導入したモデル。

  • BERT: Transformerをベースにしたモデルで、大量のテキストデータを用いて事前学習を行い、様々な自然言語処理タスクに活用できます。

まとめ

単語埋め込みは、言葉をコンピュータが理解できる数値データに変換する、非常に強力な技術です。この技術の発展によって、自然言語処理の様々な分野が大きく進歩しました。この記事が、単語埋め込みの理解の一助となれば幸いです。

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参考文献

  • Mikolov, T., Chen, K., Corrado, G., & Dean, J. (2013). Efficient estimation of word representations in vector space. arXiv preprint arXiv:1301.3781.

  • Pennington, J., Socher, R., & Manning, C. D. (2014). GloVe: Global vectors for word representation. In Proceedings of the 2014 conference on empirical methods in natural language processing (EMNLP) (pp. 1532-1543).

  • Bojanowski, P., Grave, E., Joulin, A., & Mikolov, T. (2017). Enriching word vectors with subword information. Transactions of the Association for Computational Linguistics, 5, 135-146.

  • Vaswani, A., Shazeer, N., Parmar, N., Uszkoreit, J., Jones, L., Gomez, A. N., ... & Polosukhin, I.

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