猫が2匹いる家庭で生じた愛情の不均衡 ~黒猫の哀愁~
私は一人っ子である。
「んまー! 一人っ子! いいわねーワガママ言えて! 自己中なんでしょ?」
こういうおば様たちにその一点で絡まれてきたが
実は一人っ子はとても大変なのだ。遊び相手がいなければぼっち確定。両親の板挟み(これはとても根深い)、全ての期待、兄弟にもまれることなく突然保育園や幼稚園の大規模社会参加と慣れない同級生の暴力、大人になればなったで両親の介護中心とした日常の問題全ての担当となる。親戚との距離感が特別近くない限り、不妊か独身なら老後はいずれ天涯孤独確定。甥や姪がいる人がそれとなく当てにしてる感じを見ると羨望しかない。
さてそんなことは本題ではない。
このテーマの日記に来ていだける人が皆さん聞きたいのは猫の話のはず。
問題は
我が家の猫は2匹同時に来たことだった。
完全に兄弟のように育つ。オス2匹。
兄弟をどう育てていいか。親戚付き合いも極悪、自分が不妊なので友達がバンバン子供を産むと何となくフェードアウトしてしまい兄弟の成長を目の当たりにする経験ゼロ、という生活の中で、大変な課題が目の前に立ちはだかった。
兄弟を等しく愛する接し方って何?
えどうするの?
子猫の頃は大きな問題ではなかった。
一緒に遊ばせ、私の膝に2匹とも同時に乗っていた。
しかしある日
私の膝から2匹があふれ始め
1匹が乗ると1匹が乗れないという、我々全てが目を背けていた現実が襲い掛かる。
それまでは、おもちゃの奪い合いはあるものの、白猫黒猫はとても仲が良かった。喧嘩は遊びの延長だけであった。それが、「膝に乗る」という一点だけは、シフト制はまるで受け入れられず、早い者勝ち、待っていても圧を下からかけたもの勝ち、となった。
ずっと勝利していたのは黒猫である。
白猫は当時、別にいいんだぜフフンみたいな態度を取っていたのだ。
私もてっきり、なつく猫じゃないんだなくらいに思っていた。
友人たちにも、「あっちはなつかない方の猫」と平気で紹介していた。
後に、複数の友人たちが、私が背を向けて料理を作っている間に
黒猫が白猫をはたき、追いやり、私が振り返った頃には白猫は部屋の遠いところに行っている、と証言する。
「志村! 後ろ!」ばりに友人たちに注意されてきたにもかかわらず
僕ですか? 何もしてませんよ???
という、つぶらな瞳の黒猫を見て、「何かの勘違いじゃな~い?(^^)」と、
完全に黒猫の無垢無実を信じていた。
そんな黒猫との歪んだ蜜月は、白猫の更なる腎不全の悪化で一時停止してしまう。
入退院を繰り返し、2時間おきの強制給餌をし、体温を何となく肌で気にし、自宅点滴をし。餌の工夫、時間、選び抜いたドライフードへの移行。ツボまで調べて人用だけど猫にも腎臓ツボタッピングしてみたり、毎日白猫の様子を見ながら、腎臓食商品散策、点滴を安くやる方法、100は読んでる腎不全猫ブログ、果てはクレアチニン値の推移と生存率の論文、最後は英語論文までいきついた。
そんな白猫にかかりきりの中、にゃ~ん、と黒猫が寄ってきた。寂しかったのだろう。
あーはいはい、と適当に撫でることしか、キャパの小さい私にはできてなかった。
それまでは、私が呼んだら必ず走ってきてくれてた猫なのに。
一緒にソファーに座って一緒にTVを見て(TVを見る猫なのである)
「寝るよ」って言った途端、私の枕の横に走っていってた、忠犬ならぬ忠猫なのに。
にゃー! にゃー! と強く主張してきた黒猫に対し
キャパオーバーした私はついに、言ってはいけないこの一言を言ってしまった。
「あんたはパパのところに行っていなさい!!!」
言った直後にはっとしたが
黒猫の
「あーそうですか。わかりましたよ…」
的な表情は忘れられない。(写真はない)
そこから黒猫、やたらと私に見せつけるように夫と仲良くし始めた。
言葉のわかる猫なのだ。
TVが見れる黒猫は、LINEのビデオ通話もできるため
出張中は夫のスマホで黒猫と会話をしているのだが(「黒猫元気?」「にゃー!」「明後日帰るからねー」「にゃ~!」etc.)
そこでやたらと黒猫が夫といちゃいちゃするように。
嫉妬深い私は身勝手にも夫に「私がいない間仲良くやってんだね」と嫌味を言うが
夫曰く、LINE通話が始まるまで、黒猫は夫に見向きもしないらしい。そして通話が終わるとさっさと離れていくと言う。
それどころか、3日間、LINE通話がなければ姿すら見ないこともあると。餌だけが減り、トイレだけが汚れ、LINE通話が始まると「あら久しぶり黒猫さん」となる、と。
私の嫉妬が面倒で嘘をついてるんだ! ホントはよろしくやってんでしょ! と絡む私に夫はこう提案した。
「あなたの声が聞こえ始めると黒猫が寄って来て仲良さそうに演技する。だから、今度のLINE通話は、かけたら声を一切出すな。本当はどうなってるか見せるから」
半信半疑で次の日通話をかけ、シーッ! という身振りをした夫が、あたりを映すと、本当に猫が全然いない。家中をそーっとうつし、全然離れたところで2匹で仲良く寝ている姿が映し出される。
そしてその日のLINE通話に、いつもの見せつけるような黒猫の姿は、なかった。ばれたらもういいやという感じなのかもしれない。
今は黒猫に謝罪を重ね、白猫も回復し、以前よりもどちらにも時間をかけて関わるように意識してる。どちらも大切な存在なのを、ちゃんと表現したいから。
何だかよそよそしくずっと敬語を使うような感じだった黒猫も元に戻りつつあり、白猫もうまく甘えられるようになり、不器用ながらも関係は前進した、と思いたい。
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