災害弱者を守るためには【東北地方太平洋沖地震から11年 災害弱者を守るためには 2/4】
逃げられなかった災害弱者
2011年に発生した東北地方太平洋沖地震により亡くなった方のうち、60歳以上の方の死亡率は66.1%に上ります。
また、東北地方太平洋沖地震による障がい者の死亡率は全住民平均の死亡率のおよそ2倍になりました。
どうすれば、災害弱者を守ることができるでしょうか。
ご高齢の方および障がいをお持ちの方は、在宅の方と施設に入所している方とがいらっしゃいます。そこで、それぞれについて考えたいと思います。
在宅の災害弱者を守るためには
ここでは、東北地方太平洋沖地震の際、多くの在宅の要配慮者(災害弱者)が助かった、石巻市・八幡町の事例を紹介します。下の図は、八幡町の位置です。
八幡町では、15人の要支援者(災害弱者)のうち13人が無事でした。この要因となったのが、八幡町の「防災ネットワーク」という仕組みです。以下に、「防災ネットワーク」の概要を説明します。
八幡町では震災前に、自力では避難が難しい高齢者や障がい者などの要支援者(災害弱者)をリストアップしていました。そして、要支援者(災害弱者)の近くに住む二人を支援者として登録していました。
災害が発生した時には、支援者が駆けつけ、支援者は安否確認をしたり、避難場所への移動を助けます。
以上が、「防災ネットワーク」の仕組みです。
2021年5月、災害対策基本法の改正により、「個別避難計画」を策定することが市区町村の努力義務になりましたが、八幡町の「防災ネットワーク」は、まさに、この「個別避難計画」を先取りしたものとなりました。在宅の災害弱者を守るためには、「個別避難計画」の策定が有効であると言えます。
しかし、東北地方太平洋沖地震の際には、要支援者を助けに行って、津波により亡くなった方もいらっしゃいました。このような悲劇は避けなければなりません。近い将来、発生することが懸念されている、南海トラフ巨大地震や日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震、延宝房総地震、日向灘地震などについては、津波の予想到達時間が公表されています。津波が来る前に、余裕を持って避難できるのか。避難訓練を繰り返し、「個別避難計画」を実行性のあるものにしなければなりません。
施設に入所している災害弱者を守るためには
ここでは、2019年10月の台風19号による豪雨の際、多くの入居していた要配慮者(災害弱者)が助かった、特別養護老人ホーム「川越キングス・ガーデン」の事例を紹介します。下の図は、川越キングス・ガーデンの位置です。
川越キングス・ガーデンの周辺は、洪水ハザードマップにより3~10m未満の浸水が想定されていました。
2016年の台風10号で、岩手県岩泉町の認知症グループホームの入所者9人が逃げ遅れて犠牲になったことを受け、国は2017年に水防法を改正しました。洪水浸水想定区域に立地する「要配慮者利用施設」の管理者には、避難確保計画の作成と避難訓練の実施が義務付けられました。川越キングス・ガーデンもその対象でした。
2019年10月の台風19号により、埼玉県の越辺川の堤防が決壊して、川越キングス・ガーデンの1階が約1.5m 浸水しました。幸い、2階に避難した入居者約120名は全員無事、救助されました。
全員が無事に避難できた要因は以下の通りです。
川越キングス・ガーデンの功績
深夜2時頃の浸水にも関わらず、台風に備えて通常の夜勤者以外に多数の職員(24名)が泊まり込んでいたため、入居者約120名を車いすやベッドごと2階に避難させることができました。
約20年前の台風では、平屋の施設が床上浸水したため、垂直避難できるように3階建ての別棟を整備していました。
約20年前の水害を教訓にして、防災マニュアルや避難確保計画を作成し、毎年、避難訓練もしていました。
台風への対応について、行政と連絡を取り合っていました。
異変に気づき、すぐに行動を起こしました。
これらの行動の背景としては、過去の浸水経験から、台風への危機意識が高かったことが挙げられます。
川越キングス・ガーデンは、2022年の2月1日に、洪水浸水想定区域の外に移転しました。
移転した川越キングス・ガーデンは、大規模災害の被災時には、地域の高齢者や障がい者らを受け入れることができる福祉避難所の役割も持たせ、非常用食料の備蓄や炊き出し用のかまどベンチ、ガスレンジを用意しており、地域の防災拠点になります。
まとめ
在宅の災害弱者を守るためには「個別避難計画」を策定すること、施設に入所している災害弱者を守るためには「避難確保計画」を作成することが有効ですが、本当にその避難計画で、余裕を持って避難できるのでしょうか。避難訓練を重ねて、これらの避難計画を実行性のあるものにする必要があります。
災害時の避難には、多くの支援の手が必要になるため、地域とのつながりが重要となります。在宅の災害弱者も、施設に入所している災害弱者も、避難訓練やお祭りなどを通じて、平時から、近所の人と交流することで、助け合える関係をつくることも大切です。地域の中に災害弱者が存在することを、地域の人々に知ってもらうことが、ひとりも取り残さない防災の、第一歩になります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
来週は「災害弱者を守るためには 障がい者に対応したハザードマップ(1)」について、書きたいと思います。
参考文献など
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