婉曲に伝える大人とまっすぐ聞く子供
「僕たちの頭の上に広がっている大きな空間があるだろう」
「いつもより暗いね」
「そうだね。この星をいつも照らしてくれている明るい星が、太陽って言うんだけど、彼が地面の向こう側にいなくなっちゃったんだ」
「大丈夫。明日になればまた照らしてくれるよ。それに暗くなっている間は、僕らの星の周りをいつも回っている月って星が、太陽の代わりにこの星を照らしているんだよ」
「だからこんなに明るいんだ」
「色んな星が光っているから明るいよ。でも一番の灯りは人間が作り出した電気の光だ。あそこにあるビルとか、窓の光が綺麗だな」
「みんなこの時間まで働いてるのかな?」
「はははっ!ビルが全部オフィスな訳ではないんだよ。人がいっぱい住んでるマンションも沢山あるからね。大人は、ほら、夜更かしするものだから」
「夜更かししたらおっきくなれないんでしょ?」
「子供はそうだね。大人はほとんどが成長する時期が終わってしまっているから、夜更かししてもそんなに変わらないんだ」
「ずりいよ大人だけ。俺も夜更かししたいよ」
「僕ぐらい大きくなるんじゃなかったっけ」
「・・・・我慢する」
「えらいぞ。でもまあ今日は特別に、もう少し見上げていようか」
「そう思うと、またかくべつなけしきですな」
「どこで覚えたんだそんな言葉」
「眠くなってきた」
「いいことだ。僕も君の健やかな眠りを心から祈っているよ。あの星に願おう」
「どれ?どの星?」
「ほら、あそこの一等に強い光の星だよ」
「どれかわかんないけどいいや」
「大きな犬さんのとこにある星さ」
「犬は好きだよ。モフモフしてるし可愛いし」
「飼いたいかい?」
「んー、あんまり自信はないけど」
「君が本当に命を大事に出来るなら、飼ってもいいと思ってるよ」
「・・・ちょっと時間ちょうだい。覚悟決めます」
「梅雨明けのように清々しい答えだ」
「飼いたい」
「思ってたより腹を括るのが早いな」
「前から想像したりはしてたから。俺頑張ってお世話するよ」
「そうか。・・・今度、街に出てみるか」
「やったあ!って喜んでいいんだよね?」
「しっかりやってくれよ」
「あの星にちかって!」