夫のいない夫の誕生日
夫の死から二週間後、迎えるはずだった44歳の誕生日がやってきた。
夫の死の10日前にやった息子のお誕生日の垂れ幕がまだ申し訳なさそうに壁にかかっていた。
夫が死んだ感覚はなく、そのままお誕生日をお祝いすることにした。盛大にお祝いをしたら、どこかからふらっと現れる気がした。義理の両親を呼んで、彼の好きだった料理を一緒に作る。
春巻き・海老フライ・麻婆茄子。ケーキはいつものケーキ屋さんで。夫が好きだったワインを用意する。
主のいなくなった席の前に取り分けたお料理をおき、ワインを注いだ。
子供たちは普通にご馳走を平げ、しんみりとした雰囲気もなく、いつものように過ぎて行った。ケーキの時間になると、蝋燭をたてて、火を灯した。みんな顔を合わせるようにしながら、ハッピーバースデーを力なく歌った。ケーキの時間くらいになったらふらっと現れると思っていたが、ついにこなかった。お義父さん、お義母さんの目は涙で蝋燭の光がより一層光っていた。私はみないふりをした。私は何も感じなかった。悲しいとも、悔しいとも、寂しいとも。何も感じなかった。感じられなかった。
ただ、現実味のないおままごとをしているようで可笑しかった。