寝息
彼が一番仲が良かった仲間が帰った後、また静けさが訪れた。
そうか、お葬式に人を呼べない分、お別れを言ってもらうには今日か明日しかないんだ。
何度か会ったことのある彼の仕事の後輩で近くに住むNさんに連絡をしようと思いついた。
電話をかける。
「もしもし、突然お電話してすみません。明日が出棺の日なんです。お葬式に来ていただけないので、お棺に入れるお別れのお手紙を入れたいと思っています。集めてくださいませんか。」
彼女はすぐに
「分かりました。できるだけ多くの方から集めてみます。」
と言ってくれた。
「明日、14時に出棺なので、その前に来ていただけたらありがたいです。」
と言って、電話を切った。
両親や義理の両親が帰り、彼の身体と二人の子供たちだけで過ごす夜となった。
今までそうしていたように、四人で寝室で並んで寝たかった。彼を連れて行けないかと考えたが、どうやっても80キロ近い彼の身体を一人で担いで寝室には連れて行けない。私が死体だったら、彼は楽々と私を寝室に連れて行けただろうに。そっちの方が良かったよ。代わろうよ。
「パパの身体がここにいる最後の夜だから、みんなで一緒にリビングで寝よう。」と言った。
子供たちは怖がって、嫌だという。
それでも、私はどうしても四人で一緒に寝たかった。
私は彼の胸に生きていた頃のよく着ていたスェットを被せて、生きていた頃にしていたように、胸に耳をあてた。いつもゆったりとした脈を打っていた大きな胸板からは壊れた時計のように何も音がしない。
怖くて近寄れなかった息子も、勇気を出してパパに近づいた。段々と恐怖心が和らいでいき、生きていた時にそうしていたように、パパに抱きついた。
お布団を彼の横に敷いて、火を絶やさないように7時間もつというお線香の煙を浴びながら、横になった。
子供たちはしばらくすると眠りに落ち、寝息が聞こえた。彼の寝息も聞こえてきたように思った。私はただ横になって天井を見上げた。気づくと出棺の朝を迎えてしまった。