死因
見積もりが提示されると、まるでタイミングを見計らったように受付の人が来て、解剖が終わったという。
長い廊下を渡り、待合室のような所にいく。監察医の助手のような人が浮かない顔をして出て来た。
何がわかったんだろうか。早く伝えてほしい。
「解剖は終わりましたが、これと言った原因は見当たりません。」
え?切ったんだから、何かわかるでしょ。いい加減にして。何のために切ったの?切る必要なかったじゃない。
「全ての臓器と脳の細胞を少しずつ取って、これから検査に回します。およそ2ヶ月後に結果がわかりますので、お便りでおしらせします。」
は?お便り?何それ。もうちょっと詳しい何かないの?もっと色々説明してくれたりしないの?こういう疑いがありますが、こういうことが確認できなくて検査に回します。そういう説明はないの?
呆然としてどんな言葉を発したらいいのかわからない。
「え.....せめて、何かわかったことはないんですか?」
「こういうケースで一番多いのは虚血性心不全です。私は監察医ではないのでこれ以上のことはお伝えできません」私は助手ですのでこれ以上何も話せません、という態度と貫き通すようだ。
「突然死の中で最も多い 虚血性心不全」というパンフレットを渡された。薄っぺらい、A4三つ折りのパンフレットに彼の死が閉じ込められてしまった。
「ウイルスとか、関係ないんですか?検査しないんですか?」
「そういう症状はないので、特に検査しません。」
解剖するくらいなら、ウイルスの検査くらいしておけばいいんじゃないの?
もう何もかもが良くわからなくなった。これは現実?それとも悪夢?自分がどこで何をしているかがよくわからない。悪夢と現実を行ったり来たりして、迷子になった子羊のように力が抜けていった。
もう、どうでもいいや。
彼の死の原因がわかったところで、彼は帰ってこない。
どうでもいいや。
心を鉛のフェンスで囲った。何も感じないようにした。
一礼だけして、彼の遺体とともに葬儀屋さんの遺体を運ぶ特殊な車に乗った。彼の遺体の隣の小さな席に腰をかけ、棺の上に手を乗せた。
ごめんね、何もわからなかったよ。一杯切られちゃったのに、ごめんね。