わたしの役職は「野球係」
「今日から野球係ね。」
上司から言われた言葉。
え゛っ……と声が漏れた。
しかし、拒否権はない。
その日から、ある意味「社内で1番大事なポジション」になった。
2度目の転職。
社員が10人に満たない小さな会社の門をそっとノックした。
何社かが集まる「グループ企業」の長。
代表に上司と共に挨拶に伺った。
「この子、プロ野球ファンなんです」
いや、間違ってはないけども。
グループの代表への紹介がそれでいいのか?上司よ。
入社1日目。
どうやら、「中日ドラゴンズファンの新入社員」という称号を得たようだった。
代表一族は、由緒正しき阪神タイガースファン。
阪神を応援するために北は北海道、南は福岡へ赴く。
代表の趣味も兼ねてか福利厚生として、
東京ドーム、甲子園、バンテリンドームのシーズンシートを所有していた。
観戦チケットを社員に渡したり、取引先に渡したり。
有効活用されていた。
2023年夏。
阪神の“アレ”が現実味を帯びてきた時だった。
「バンテリンドームのビジター席が20席欲しい」
代表のお願いは絶対だ。
上司が必死になって対応していた。
いろんなところへかける電話。
かかってくる電話……。
上司のいらだちが声から伝わってくる。
しかし、努力も虚しく「お叱り」を受けた。
「何でこの席なんや!!!!!」
代表は球場から電話してきたらしい。
代表のチケットに書かれた席。
そこは“ビジター外野応援席”ではなく、“レフト側応援席”だった。
つまり、代表が座った席は中日と阪神ファン混在する席。
生粋の阪神ファンの代表にとっては、周りが相手チームのファンで苦痛だったのだろう。
代表のご機嫌は最悪なのだった。
――シーズン中に三連戦が残っている。
確実に代表は観戦しに行くであろう。
そこで、白羽の矢がたった。
「今日から、野球係ね。」
とにかく、代表の要望を叶えるべく動いた。
チケット発売日を調べる。
代表に希望の席を聞く。
どうやら、喫煙所の近い、端よりのまとまった20席が希望らしい。
端の席は移動のしやすさを含めて大人気。
争奪戦が予想されるのだった。
販売日当日は社員総出でチケット購入をすることになった。
その間は他業務は電話を含めて全て中止である。
あらかじめ、サイトでの購入方法のレクチャー。
何度も繰り返しシミュレーションした。
チケット発売5分前にはみんな席に着き、パソコンとにらめっこ。
時報も鳴らして、販売開始時間にログインできるようにした。
某日。午前11時。
若干、ピリつくフロア。
チケット販売が始まった。
希望試合、支払方法……混み合い、遅くなる回線にイラつきを覚えた。
「○○番とれました!」
「△△番埋まってます。」
「じゃあ、××番とって!」
必死な社員の姿に社長は苦笑いしていた。
「普段の業務よりいい連携なんじゃないの?」
代表の機嫌を損ねたくない。
皆、その一心だった。
わずか20分ほど。
3試合のチケットを入手するだけで、我々はぐったりだった。
席が取れたら、代表チェック。
代表は取れた席を確認しながら、にっこり。
「ありがと。」
どうやら、社内の平穏は保たれたようである。
これ以降、レギュラーシーズンに関しては、すべてチケットを抑えている。
その他、クライマックスシリーズや日本シリーズの申し込み補助。
つまり、東京ドームや甲子園で開催するかどうかの順位予想なども行っている。
残試合数が……ゲーム差が……。
宝くじでも当てるのかという勢いの順位予想は結構頭を悩ませる。
本業務とは何一つ関わりはないが、優先的にシーズンシートチケットをもらえたり、来場者特典グッズを代表から譲り受けたりする。
個人的には、win‐winなのであった。
ある意味「社内で1番大事なポジション」。
代表の機嫌と社内の雰囲気を守る。
私の役職は「野球係」です。
こちらの企画に参加させていただいています。
フツーのOLのとんでも(?)業務のお話でした。
ちなみに、今は日本シリーズの優先販売に向けて素振りしています……。
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