電話ボックス
もう30年も前の話になるけれど、友だちや彼氏の家に電話するのは電話ボックスからだった。私の父は非常に長電話に煩かった。家で5分以上も通話するものなら、遠巻きに「さっさと切れ!」と叫ぶのだ。それが電話相手に聞こえるのが恥ずかしくて嫌で仕方なかった。夜になると近所の電話ボックスにテレホンカードを持って通った。あのボックスの常連だ。今はもうそのボックスはない。需要がないからね。
その日も電話ボックスから友だちに電話していた。すると、掌くらいの仔猫がフラフラしていた。周りを見るが、親猫らしきものはいない。とにかく叫んでいた。お腹が空いたと。目は目やにで潰れそうなくらいに汚く、体も小さく細かった。栄養失調だったんだろう。私はどうしようもなく切なくなってしまった。我が家にはそんな頑固な父がいるし、子供の頃にシャム猫を迎えたけれど飼いきれなくてもらわれていった記憶もあった。いろんなことが脳裏を走り回り、何もできないもどかしさに苦しくなった。電話ボックスにちかづいてきて目が合った気がした。そして気づいたらその仔猫を手に掴んでいたのだ。
19歳の春先、私は初めて猫を拾ったのだ。仔猫の毛がふわふわしていて、丸まって眠る姿が愛らしかった。大好きなシュークリームからとって、名前はシュウとした。
それから半年くらいして、近所のペットショップに茶トラの仔猫が保護されていた。鳥籠の中にいたのだ。見世物小屋みたいにそこにいる姿がなんとも切なく、年頃も近いしシュウとも仲良くなれたりするかもしれないという期待もあって、その仔猫を引きとることにした。また父は呆れ顔をしたけれど、母は仕方ないなぁと
色々助けてくれた。茶トラはマイと名づけられて我が家の焼売妹達「シュウマイシスターズ」は結成された。最高に可愛い私の愛しい存在。大学やアルバイトで疲れて帰宅しても、グランドピアノの上で仲良くグルーミングしている二人を見てかなり癒された。幸せだった。