ピエロでなんかいたくない
あの時私が自分を守るにはピエロになることだった。
大学生になったばかりの私は、とにかくありとあらゆる場所に出向いた。そして、モノマネをしたり変顔をしたりしてまず同性と打ち解けた。自分で言うのもなんだけど、私は普通にしてたらわりかし可愛い方だったしスタイルも悪くなかった。普通よりそこそこ可愛いって1番モテ位置にいるから自分がわりと男受けすることも知っていた。そんな奴が更に女子力全開にしたら女子から総スカンを食らうことは目に見えていた。だから私は3枚目をとにかく演じた。
それでも、異性というのは目ざといもので、私のわざとに気づく人もいた。俺ならほんとの君を分かってあげられる。何回聞いただろう。うだるような暑さの中?マフラーを巻かないと辛いくらい寒い中?とにかく聞かない日は無かった。
でも昔、女子からの総スカンの恐怖にたたされた記憶を思い起こしては、ありがとう、これがほんとの私だよんとわざわざ変顔しておちゃらけて、相手を引かせたこともある。
ただ少し疲れたみたいだ。夏休みに誰とも会いたくない病になってしまってた。恋人からのしつこい電話、友達からの遊ぼうメール。全てがどうでもよくなった。だから1ヶ月、私はとにかく自分を甘やかした。ほんとはしたかった女子力全開の服装をして写真を撮ったり、メイクの研究をしたり、誘ってくる異性の誘いに全てイエスし、恋人でなく彼らにチヤホヤされに行った。
そんな日々、途端に虚しくなった。
意外に私は3枚目の自分も気に入ってたみたいだ。夏休みはもうすぐ終わる。
9月には仲間たちの前でほんとの自分でいこう。
少し怖いけれど、嫌われたら全力かけて守ってくれる恋人を作ればいいか。楽観的な私は、レモネードを飲みながら少し夏休みの余韻に浸った。