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オーマイかぐや姫

皆さんもご存じ、かぐや姫。竹から生まれ、美しく育ち、数多くの求婚者に無理難題な宿題を言い渡し、最終的には月の使いが迎えにきて帰ってゆく。

僕の好きになった人がその21代目に当たるなんて、月の世界の者なんて急に言われて、へーそうなんだね、そりゃすごいやなんてすぐに飲み込める人っています??いないと思います。

彼女は、突然の転校生でした。高校3年の5月、受験で大変な時期に転校だなんて気の毒になあと思ったのは覚えています。名前も月野美麗なんて芸能人のような名前にも関わらずあまりに綺麗だったため、名前とのギャップもなく誰も突っ込みませんでした。

美しい人というのは、周りを魅了します。放課後、彼女の周りには男女問わずたくさんの者が集まっていました。彼女は上品な微笑みを浮かべながら、質問の一つ一つに丁寧に答えてました。

お前は何をしてたのかって?僕は現代でいう陰キャという種類の人間で、暗くて地味なので彼女が騒がれてる様をいいなぁと指をくわえて見ていただけでした。高校に入っても中学からの立ち位置はそう簡単に覆らないようで、急に明るい人間になれるはずもなく、いじいじしている内に時がすぎて行きました。

そしてそうこうするうちに陰キャには、苦痛でしかない体育祭と文化祭の季節がやってきました。僕は体育祭の種目を1番地味なムカデ競走に立候補し、文化祭は看板作りのチームに入りました。長年続けてきた習字の成果が認められたらしく、小山内くんは字が綺麗だから看板お願いねと担任の教師に命名され、はあ、、と返事をしました。

月野さんのポジションを見るとなんと看板係のチームにいるではないですか!!僕は話す勇気もないくせに浮かれており、クラスメイトに訝しがられました。看板チームではまず、画材購入係、看板の土台作り係、下書きは僕、塗るのはみんなでと分担されました。またまたその分担でも月野さんと一緒です。月野さんも画材購入班でした。

日曜日。僕達、画材購入班は駅前の東急ハンズに集合することになりました。僕は前日から、何着ていこうか迷いに迷った末、無難な白のワークシャツにデニムという出立ちに落ち着いたのですがおしゃれ男子マミヤくんが月野さんの横を陣取っているので結局近づけないまま見惚れていました。月野さんの私服の素敵さといったらもう、ほんとうに地上に天女が舞い降りたかのようで、男どもはみな鼻の下を伸ばしていました。月野さんが笑うたびに花が舞うようで、普通ならば女子からの反感を買ってもおかしくないはずがあまりに美しいと嫉妬すらも湧かないのか女子たちまで月野さんの周りをまるで崇拝しているかのようにうろうろしていました。

無事に画材を購入することができ、帰途に向かう時、月野さんが僕に突然声をかけてきました。

「小山内くん、一緒に帰らない?」

断る理由などあるはずなく、僕は緊張して少しどもってしまいました。

「ボ、ボ僕となんかでよければ。。」

それを見た、ずっと月野さんの隣を陣取っていたおしゃれ男子マミヤくんが笑って、帰るだけなのに大袈裟な奴とからかってきましたが月野さんがそれをスルーして僕の手をとって急に走り出したので、僕はもうそれどころじゃなかったのです。

月野さんはぐんぐん進み、皆が見えなくなると僕に向かって笑いかけ、息をつきました。

「あー。やっと人から離れられた!私ほんとはああいうの苦手なんだぁ。みんな優しくしてくれてるけど、ほんとの私を知ったら嫌いになると思う。小山内くんは、変にちやほやしないで私とたまに目があっても困るだけだったから、気楽かなって。巻き込んでごめんね。」

手刀を切りながら、ごめんねと謝る月野さんがかわいすぎて、僕は何かを伝えたくて、本音を漏らした。

「僕は、彼女もできたことなければ女の子と話すのも緊張して、さっきみたいにどもってしまいます。昔から地味で冴えなくて、友達もろくにいないし、僕に人を嫌うなんて大それたことできないから、月野さんがどんな人でも嫌いにはなりません。」

彼女は僕の顔をじっと見つめ、それから荒唐無稽ともいえる話を懇々としてくれました。

「かぐや姫って聞いたことある?あれ、みんなただのお伽話と思ってるんだろうけど、実はあれほんとなの。ドラえもんの映画でも月面世界ってあったじゃない?ほんとにあるのよ。あれを書いた作家さんはきっと月面世界と通じてるんじゃないかしら。そして、その月面世界のそうね、地上で言えば皇太子や皇后様みたいな立場が我らかぐや族。私はその21代目の姫。18になる年にかぐや族は皆、一度地上に降りるのだけど、その中で出会った異性でかぐや族に相応しいと思う人がいたら誘い込む必要があるの。最初は週1、次は1ヶ月って少しずつ月面世界に慣らして月面人徳にしてゆく。かぐや族は、今特に男性が減り、絶滅しかけているから。小山内くん、あなた月面世界に興味はない?小山内くんは気づいてないだけで、とても魅力的だよ」

冒頭に戻ります。

ねえ、こんな話信じるよと言えない僕がおかしいのでしょうか。美人で誘い込むマルチ商法だと言われたらでしょうねと納得する類の話しですよ。真摯な眼差しで語っている彼女を見ていたら嘘ではないことは分かります。でも、あんまりじゃないですかね。初めて好きになった人が詐欺師?不思議ちゃん?もしくはほんとに異世界の人だなんて。僕はため息を吐いて彼女に向き直りました。

「あの、えと。なんて言っていいかわからないけど、僕は月面世界とやらにはいけないかな。僕なりにこの世界で生きてきたし僕がいなくなると悲しむ人は一応いるから。」

月野さんは、悲しそうな顔をしたけれど、案外あっさり、「そう。わかった」といい、くるんと踵を翻し去っていった。

そこから、月野さんとは話していない。

無事に文化祭と体育祭は終わったけれど、僕はただ寂しいだけでなく彼女の話がほんとならば、彼女は違う異性を誘いこみ月に帰るのだろうかとずっと気にもなっていた。

そんな時事件が起きた。少し見栄えのいい男子たちが、突如消えだしたのだ。マミヤくんもいなくなった。先生たちは、日々対策に追われ僕らに気をつけろよとだけ言って走り回っていた。警察も何度か来て、事情を聞いてたみたいだけれど、僕にはなぜかわかった。

月野さんが、複雑な表情を隠しきれていなかったからだ。僕は初めて待ち伏せというものをした。

月野さんは僕を見かけた途端逃げようとしたけれど、僕は意外に力はあるから彼女の手をぐっとつかんで走り出した。そして、以前話した場所まできてから事情を話してくれと伝えた。彼女はしばらくなきじゃくっていたが、要約すると、彼女の父がかぐや族の絶滅に焦り強行突破で地上の男性を月面世界に引きずり込んでいるらしく、それを救えるのは、月野さんが決めた人が月面世界を繁栄させてくれる確信がもてることだけらしい。

むちゃくちゃだろ。

でもさ、好きな子が泣いていて目の前には、彼女が最初に誘った相手、まあつまり僕がいたら行くしかないじゃない。

僕は、月野さんに案内されるがまま彼女の部屋にいき、そこにセットされた宇宙船もどきに乗って彼女の住む世界に向かった。彼女はひたすら僕に感謝していたけれど、実のところ僕はこの期に及んでまだこれを夢だよなと思っている始末で、着いてからのことは何も考えてなかった。

月面世界は、まあ当然といやそうなんだけど月の中にあるらしく、ほんとうにドラえもんの映画で見たように周りからフィルターで隠され、月面人だけにしか持てない操作機という物で月野さんがフィルターを外すと月面世界が眼下に現れた。

キラキラした街並みは、僕らが住む街と何ら変わらないが、人々が飛んで移動しているのはやはり普通ではない。僕は、ああほんとに異世界に来たんだなとやっと実感が湧いたと同時に月野さんのお父さんと対峙せねばならないことに恐怖を覚え始めていた。自分の同級生らが逆らうことできずに強制的に連れてこれてしまうなんらかの能力を持った人を前に僕は何ができるのだろう。

月野さんが不安そうにぼくを見る。僕は精一杯かっこつけてグーサインをした。

いざゆかん、魔王の元!じゃない、月面世界の王の元!

かぐや族の住む城は、立派な城壁に囲まれいたるところに月下美人が咲いているのが見てとれた。月下美人の咲くのは夏の間、ほんの少しだけのはずだけど11月も末になる今、なぜ咲いてるのだろう。

不思議に思っていると突如熱風が吹き、竜巻のような風の中に人影が現れた。

「お前か。美麗の決めた相手というのは」低音ボイスがお腹に響く。膝が震えてしまう。竜巻が消え現れたのは180をゆうに越え、屈強な体つきの男性だった。王という名にふさわしき人だ。

小山内真!しっかりしろ!

「は、は、はい!そうです!僕は地球人の小山内真と言います!美麗さんに選ばれし光栄なただの人間です!」

ぷっ。

えと今のは?どうやら笑われているらしい。

「だーはっはっ。今どき自分をただの人間なんていう謙虚な奴がいたとはな。お前が来る前に連れてきたやつはみな、自己主張が強く王族の金と美麗の美しさに目が眩み自分をいかに大きく見せたがる奴らばかりだった。儂は、腹が立っている。儂を倒せたらお前を認めて、他の奴らも帰してやろう。猶予は1週間だ。」

来た時と同じ竜巻と共に王は去っていった。

僕は呆気にとられていたのと恐怖から解放されたことから腰を抜かし立てなくなっていた。

月野さんが手を引いて、立たせてくれようとしたけれど、ぼくはなかなか立ち上がれずにいた。月野さんが不意に口を開く。

「真くん。ていうんだね。いい名前。早速だけど明日からあなたには修行に入ってもらうわ。学校や家には月面世界より時間が遅く流れているから心配ないわ。帰る頃はまだ今日の夕方のはず。急に連れてきて、こんなこと頼んでごめんなさい。でも、もうあなたしか頼れないの。お願い。」

月野さんが麗しい目でこちらを見つめてくる。僕は、平凡より下にいた単なる高校生だったはずだけれど、今日から一週間は勇者にならなくてはならないらしい。

とにかく今日は休んでと案内された部屋のベッドに横たわった瞬間、僕は深い眠りに落ちた。

翌朝、月野さんに叩き起こされ今日から稽古してくれる者たちよと、こりゃまた漫画かよと思うようなマッチョな人らを紹介された。戦いなんてゲームでしかしたことない僕にできるのだろうか。

こそっと陰口が聞こえる。「あんなひょろひょろの奴が王と戦うなんて無謀だ。死ぬだけだ」

やはりそうだよな。自分でも反論できない。スポーツの類を避けてきた僕は色白で細くいかにも弱そうでしかない。こんな奴に国の未来をゆだねるなんて民たちも不安なのだろう。でも、僕は負けるわけにいかない。美麗さんと約束したから。それに地球人の仲間も救わなくては。

「稽古をつけてください。お願いします。僕は大切な人のために負けるわけにいかないんです。」

土下座をし、彼らに頼み込む。バツが悪くなったのか、その中のリーダーらしき人がついてこいというジェスチャーをしたため、僕はそっと着いていった。

荒れた地面に、ぼうぼうに生えた草。何をするのかと身構えていたら頭上で音がしたため、即座に身をかばう。ちらと覗くと剣の刃先が見え、ヒヤリとする。

真と変わらぬ年の銀髪の少年がこちらを指差して指示をし始めた。

「俺の名は、ルナ。美麗のボディーガードとして雇われている。俺からの攻撃をまず避けてみろ。避け切る事ができたら次は剣の使い方を教える。」

淡々としているけれど、剣構えはプロのそれだ。

僕は、ハイ!と大きく返事をし彼からの攻撃を避ける練習に専念した。最初はうまくいかず何度か刃先が当たりそうになったが、3日たつと何度かかわせるようになってきた。

「よく、ここまでかわせるようになったな。明日からは剣の使い方を教える。」

ルナは、ぶっきらぼうだが悪い奴ではなかった。練習が終わると、たまに褒美だといって月面世界での定番おやつである白玉団子をくれたりした。それにどうも、月野さんに対して明らかに好意があるのを何度か感じ、ほんとに国と月野さんのために頑張ってるんだなと思ったら僕も真剣にならないわけにはいかなかった。

一週間たった。

剣は、案外とふることができたが、まだきっと王様には通じない。でもやるしかない。

王様に命じられた場所に、向かいながらなんだかいろいろあったなと今更思った。単なる平凡な高校生男子の僕がまさか、異世界の王様と戦うなんて、誰に話しても信じてはもらえまい。

闘技場と書かれた建物に入っていくと、王様が睨みつけるようにこちらを見据えていた。

「よく逃げ出しもせず、きたな。ほめて使わす。さあ、どこからでもかかってこい!」

戦い慣れしてない僕は震える足をなんとか奮い立たせ、王様に立ち向かった。

結果。

惨敗だ。当たり前ですよね。だって相手は王様。それになんか不思議な力あるし。勝てるわけないでしょ。でも、僕はなんだか満足していた。今までこんなに頑張ったことなどなかった。それも大切な人のために。

僕は倒れたまま笑った。

「お主、負けておるのだぞ?!何を笑っている!」

僕は王様が怒っても笑い続けた。

しまいにつられた王様も笑い出し、「お前という奴はほんとにおかしな人間だ。美麗が見込んだ訳が少しわかった。お前の仲間たちは返してやる。だがお前にはいつか必ず美麗の婿になってもらう。よいな美麗。」

む、婿⁈!いや、まだ僕ら付き合ってもないんですが。。

美麗さんがこちらにくる。僕に近づき頬にキスをすると、よろしくね未来のお婿さんとウインクした。

そのあとは、悲しいことにあまり覚えてない。疲労と興奮で僕は、地上に戻ってから三日三晩寝込んだからだ。

でも、僕が経験したことはどうやら夢ではなかったらしい。部屋の片隅に置かれた剣とルナからの美麗を泣かすなよの手紙、王様からの約束の腕輪。そして美麗さんがしてくれたキスの感触。

美麗さんは、突如また転校になったということになっていた。仲間たちの記憶は消されたらしく、誰一人月面世界については覚えてなかった。

僕は平凡な高校生にまた戻ったけれど、あの情熱がある限りなんとなく新しい世界を広げていける気がした。

とりあえず王族に相応しい人物になるために、明日からマミヤくんとボクシングジムに行くことになっている。マミヤくんはなんとなく月面世界を覚えていて、僕に助けられたこともわかっていたらしく自分のうちがやっているジムに来ないかと誘ってくれたのだ。

マミヤくんから俺も、美麗のこと諦めないからと宣言された。今日からはライバルだ。

青空の中、薄い月が光っていた。

オーマイかぐや姫!

君のために僕は、戦い続ける。





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